NHKスペシャル“中流危機”を越えて 「第2回 賃金アップの処方せん」が、あんまりにぼんやりした内容だったので、苦情的感想を、思わず書いてしまいました。

NHK HPから

“中流危機”を越えて 「第2回 賃金アップの処方せん」
初回放送日: 2022年9月25日
賃金アップに繋がる成長産業を生むため、社員の学び直し“リスキリング”に挑む日本企業や、パートタイマーの管理職登用など正社員と非正規雇用の格差縮小に努める小売業大手の最新の動き。ドイツは国を挙げた取り組みで、自動車工場を解雇された労働者がIT企業に転職し、新たな収入を確保。オランダは労働者の半数近くいるパートタイムが、正社員と同等の時間給や手当を手にし、女性の社会進出も進む。賃金アップのカギは!?

ここから僕の感想


この二回シリーズ、絶望的ダメ番組だったのだが、

①制作スタッフが、本当にこの問題について分かっていない(深く考えていない)

②分かっていいるが、触れてはいけないことと、政府あたりが言ってほしいことに忖度して番組を構成したために、わやくちゃになった。

どっちかなあ。問題の構造を整理しないで、トピックを並べるだけだから、何がなんだか分からない、出口のないぼんやりした番組になるのである。一個一個の取材ネタは悪くなかったのだが。ゲストも何のために何を語らせるために呼んだのかわからん感じだったし。あれくらいだったら竹中平蔵を呼んで好き放題VTRを見た感想を言わせた方が、問題の本質は浮かび上がったのにな。(誤解なきよう。もちろん、皮肉、反語的意味ですよ)

今日の後半の、「イトーヨーカドーでパートタイムが(非正規雇用のまま)管理職になる制度を採用した。その制度でパートタイム管理職になった人は、それなりにやりがいや賃金アップを感じている」という取材と、「オランダでは労働時間による待遇差別(正規・非正規)が禁じられる法律があり、多くの人がそれぞれの必要、価値観に応じてパートタイム正規労働者として働いている。同一労働同一賃金だし、社会保障や福利厚生にも差はない。その実現においては労働組合が主導し、政府、企業も協力した。」という取材。

問題をクリアにするには、このふたつの事例を比較し、

「非正規雇用のまま管理職にする」というのは不完全であり、本来はオランダ型まで進んだ方がよい。イトーヨーカドーという一企業の努力としてではなく、国の制度(法律)自体をその方向に進めていくのが望ましいが、それに対する日本における阻害要因、障壁、抵抗する人(企業や正規雇用者の労働組合)はどういう考えで反対しているのか。日本での労働組合が、オランダのように機能しないのはなぜか。

さらに、オランダでも、こうした法律制度の網の目から外れた低賃金労働(ウーバーイーツの配達員が映像として紹介された)が問題になっている、という取材。これも良い切り口だったのに深堀まったくされなかった。

低賃金非正規雇用労働の問題を考えるならば

①派遣法の改悪による派遣労働者の問題

②宅配業者など「非正規労働者を自営業者として業務委託契約することで非正規雇用を正当化する問題」などに焦点を当てて、

このような大企業に都合のいい抜け道的非正規雇用を規制しなければいけないという問題意識を取り上げるべき。

こうやって整理すれば、まず日本の中流の崩壊は、「派遣法改悪」「同一労働同一賃金が全く実現されていない」「既存労働組合が正社員の権利保護のために非正規雇用、派遣労働者、契約社員などの権利を守る気が無い」という問題があり、日本の労働組合が70年代以降、多くの労働者の立場を守るようには機能しなくなっている現状(その歴史的経緯をたどればNHKスペシャル何本も必要になるだろう。)、ここに触れずに、「中流の賃金崩壊」を説明しようとしてもできるわけがないのである。

で、この問題をクリアにすると、初めて番組前半の「リ・スキリング」(これ中黒・いれないと、分かりにくいよね、「リスク」と関係あるの?ってなっちゃうから。スキルをリ、もう一回身に着けさせる「リ・スキリング」)。

 体力のある大企業だと、企業内でやり始めている。中小企業にはその余裕がない。ましてやそもそもが非正規的働き方のまま中高年をなりつつある人や非正規で働く女性たちは、その機会から完全にこぼれ落ちる。いや、ハローワークには「ハロトレ」という職業教育サービスがあるのだけれどな。

ドイツの事例を紹介するなら、日本のハローワークで提供される「ハロトレ」の実態も取材して、どこがどう違うのが、どういう課題があるのかまで紹介すべきだよな。

そういう「ハローワーク、ハロトレレベル」での「リ・スキリング」では解決しない問題は何なのか。個人の問題なのか制度の問題なのか、それとも雇用や労働者教育の日本の従来の仕組み慣行が、リ・スキリングにうまくなじまない何かを抱えているのか。

そういうところに突っ込んだ取材も考察もまるでないから、ぼやーんとした印象の番組になっちゃうんだよな。

この番組は、前回の、最後は「投資」みたいな流れも含めて「個人が意識変えて何とかしろ」なのか「企業が変化しろ」なのか、それとも「法律・制度」の変革が必要で、そのために国民の認識を深めたり変化させたりしないといけない、ということなのか。そこのところ、「どのレベルの変化を起こすのに、誰にどうしろというメッセージなのか」がほんとうにぼわーっと焦点が定まっていない番組だったな。二回とも。

NHKスペシャルチーム、しっかりしてください。


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