玉置浩二さん 「やっぱすきやねん」と「男はつらいよ」 [音楽] 今回は、政治の話でも文学の話でもなくて、玉置浩二さんについてです。 過去ブログ転載。2014/11/21

玉置浩二さんが、ツイッターで、突然トレンドに上がって、いまどきの若い人たちが、急に、玉置さんの歌の凄さに気が付き出したので、そのテーマで昔書いたブログを、noteに転載することにしました。


 今日の日テレ系というか、読売テレビ制作の「ベストヒット歌謡祭2014」に、玉置浩二さんが登場して、故やしきたかじんさんの「やっぱすきやねん」を歌ったのです。その歌い方について主に関西弁圏関西弁ネイティブの方から、「すきやねん、て歌うな、すっきゃねんやろー」という怒号がネット上では渦巻いているのです。一方、東日本北日本の音楽ファンからはその熱唱に賞賛の嵐がこれまた渦巻く、という面白い現象が起きています。私は親が北海道人で、生まれ育ちが東京で、社会人の初めに三年間大阪にいて、関西弁がしゃべれず、変な関西弁を真似すると怒られた経験があるので、北海道人の玉置さんが、変に関西弁の真似をして「すっきゃねーん」とは歌わず、歌詞通りに「すきやねん」とうたったことは正しいと思ったわけです。ものまねとしてではなく、玉置浩二の歌として、たかじんさんに敬意を払うがゆえに、物まねをせず、誠実に心をこめて歌っていたと感じました。
そして無論、とてつもない歌唱力表現力で歌っていました。感動しました。

  実は、私、ここ一年というもの、音楽生活という側面でいうと、ほとんど玉置浩二さんの歌しか聞いていないし、(ギターで)弾いていないし、どうしたら玉置浩二みたいに歌えるようになるだろうということしか考えていない、という玉置浩二漬けの一年を送ってきたのでした。毎日4~5時間はギター弾いて歌を歌って、YOUTUBEのボイストレーニング教室の動画見て声の出し方研究したり、WiiUの採点カラオケに挑戦したり、おっさんいい年こいてなにやっとんじゃ、何になろうとしとんねん、今さら、というこの血迷った生活も、すべて玉置浩二さんの歌を聞いてしまったことから始まったのでした。

 私と玉置浩二さんの出会い(もちろん直接会ったわけではありません、テレビでその衝撃の歌の力に出会ったの)は、ちょうど一年前のこと。

 私は昨年9月に少し大きな手術をして、ひと月まるまる入院して、すごく気が弱くなって、退院後も仕事はあまりせず、家で家事をしながら静養するような状態が続いていました。


 そんな年末に10月~12月クールの、日テレ土曜九時のテレビドラマ「東京バンドワゴン」に、なんか白髪の、妙に目力のあるおっさんが、亀梨くんの父親で「伝説のロッカー」という役で登場してきました。そして、劇中で歌を歌いだして、初めて気づいた。このおっさん、玉置浩二だ。

 玉置浩二の女性スキャンダルとか青田さんとのキスとかベッドインとかいうゴシップをまったく知らなかったので、今の玉置さんの風貌がこんなふうになっているとは全く知らなかったのです。が、とにかく劇中で歌った「サーチライト」、ドラマのエンディングテーマソングにもなったこの曲での、なんというか、今まで聞いたこともないような底知れぬ歌唱力にびっくりして、それから、このドラマでの玉置さんの生歌を楽しみにドラマを録画しては繰り返し見ていました。毎回歌うわけではないのですが、2回に1度は劇中で、ガットギター一本で歌うその歌のすさまじい上手さ。後にアルバムGOLDに収録された「いつの日も」を小学校校庭で歌うシーンや、クリスマスに茶の間で歌う「きよしこの夜」など、テレビの前で正座をして、聞くたびに涙が止まらなくなる、という今までなかった状態になったのです。コンサートやミュージカルに行って、実力のある歌い手さんの生歌を聞いて泣く、ということはわりとあるのですが、テレビを通じて流れてきた歌で泣く、というのは生まれて初めての経験でした。

 そして、いまどきは、YOUTUBEという恐ろしいものがあり、過去の玉置さんの素晴らしい歌声映像がアップされては削除されといういたちごっこを続けている、ということも知るようになり。毎日何時間も、YOUTUBEを見ながら聞きながらボロボロと涙を流し、そして歌ってみるギター弾いてみる、一曲また一曲と玉置さんの名曲をギター弾き語りレパートリーに加えていくという生活を送るようになったのです。

 私が10歳でギターを弾き始めたのが井上陽水さんの氷の世界ブームから。そして小学校の時にはもう全校生徒の前でギター弾き語りをするというおませな子供だったのですが、「ギターが主、歌はおまけ」という意識が強く、ギターをうまくなりたいと思って練習はしても、歌を上手くなろうと練習した記憶はずーっとなかった。声変わり時期に歌を一時期やめて、アコギのインスト(ブリティッシュフォークのインスト)や、中学後半からクロスオーバーブームに乗り赤いセミアコ抱えてラリーカールトンやリーリトナーのコピーに明け暮れ、高校でもどちらかというとエレキギターを抱えていた。大学から社会人の初めころは佐野元春のコピーバンドでボーカルもしてみた、やはりこのころも、「歌を練習」という意識は全くなかった。ギターでバンド、歌はおまけ。


 クラシックのピアノとバイオリンを幼稚園から小学校までやっていたから、音程やリズムは正確だったし、声は薄っぺらだけどわりと高い声まで出たし、「ギター弾き」がおまけで歌を歌っている、という意識であれば、歌はまあこの程度でいいか、と思って今まで生きてきた。


 でもねでもでも、玉置浩二を聞くと、歌ってこんなに凄まじいものなんだって50年生きてきて、初めて思った。なぜか初期安全地帯の頃の玉置さんには、そんなに「歌がうまい」という印象を持っていなかった。バンドサウンドの中に歌が埋もれているように思っていた。ソロになって以降のヒット曲「田園」にも、「精神的に追い詰められたのかな」という印象は抱いても「歌がうまい」という印象は受けなかった。唯一「メロディー」だけはすごくいいなと思っていたけれど。

 この五月には「GOLD」ツアーの千秋楽のひとつ前の渋谷公会堂に聞きに行って、初めて生の玉置さんの声を聴いて、もう茫然というか、感動して涙腺が崩壊する一方で、歌がうまいとはどういうことなのかについてのあまりの奥深さに、「天才というのはいる。凡人が一生かけてもたどり着けないところに天才はいる。」ということを深く深く実感したコンサートでした。

 玉置さんの歌のうまさの「異常さ」を知るには、たとえば、メロディーという玉置さんの歌を、他の歌の上手い歌手が歌ったのと比べるとわかりやすいです。若手ではピカイチの秦基博さんとシングライクトーキングの佐藤竹善さんが二人でメロディーを歌っている映像がYOUTUBEに上がっています。もちろんものすごく上手です。しかし、そのあとに、玉置さんの本家のYOUTUBE「メロディー」を聞くと、ぜんぜん違う。何が違うって、声の厚みのコントロール、呼気を「音にする、しないの配分、体のどこを振動共鳴されて声にするのバリエーションの多さ」の自由自在度が違うのです。
声を張ったときの響きは、一流の歌手はそれぞれ個性があり、とても美しいですが、それ以外の声の出し方の種類と、「低い音」「小さい音」のときの音色や響きのバリエーションと安定度に、歌手の実力が出ます。


 秦さん名曲「鱗」を、ミスチルの桜井さんと秦さんが二人で歌ったap bankbandの映像がありますが、この二人を比べると、秦さんの方が、声のコントロールの幅、技術、安定度が高いのがわかります。(桜井さんは不安定なところが魅力なので、魅力的かどうかと上手い下手は別問題です。桜井さんは日本一魅力的に不安定な声を出すシンガーだと思います。桜井さんが浜田省吾さんの「家路」を二人で歌った映像でも、浜省さんの安定太い声に対する桜井さんのヨレた歌声は、「下手」と評価する人もいれば、「それが魅力」と擁護する声もあるわけです)(浜田省吾さん、ミスチル桜井さん、秦基博さんも大好きな歌手で、代表曲はすべてギター一本弾き語りアレンジレパートリーです。大好きで、一曲コピーしアレンジしレパートリーにするのに、誇張ではなく何百回も聞くくらい好きなので、比較したからといってけなしているのではありません。何百回も、ギターも歌も聞きこんで、歌も、ブレスの位置から細かな譜割りから、どの声のバリエーションでどの部分を歌うかのコピーまでもする、という中で感じた評価です。それぞれのファンの方、おこらないでください。)


 話がそれましたが、「高音を張った声の魅力」だけではなく、「低い音域や小さい声のときにどれだけバリエーション豊かに安定した声を出せるか」という技術があり、その技術の幅を「感情表現や情景の描写」という芸術表現に的確に結びつける、その「技術点と芸術点の結びつきの高度さ」において、玉置浩二さんは突出して異次元にいる、というのが、この一年間、玉置浩二さんの歌を聞き続けてわかったことです。こうした玉置さんの特徴は、「いかにも難しい曲」よりも、「童謡のように平易な曲」のときに際立つのです。


 コンサートでいちばんびっくりしたのが、北野武さん作詞の「嘲笑」という曲です。YOUTUBEには、この曲が初めてテレビで披露されたときの、たけしさんを隣に座らせての、ギター弾き語り映像がありますが、ぜひ見てみてください。とてもシンプルな曲ですが、この上なく美しい。そして私のような素人が歌うと、あまりにシンプルな曲なので、まったく恰好がつかない。しかし玉置さんが歌うと、最高最上の芸術になる。コンサートでは、感動で涙を流しながら、しかし、どう逆立ちしてもこの歌は自分には歌えない、という絶望感と嫉妬も感じる、という、なんというか、複雑な思いをしながら聞いていました。


 そして今回の最新作、「群像の星」は、亡くなられた歌手や作曲家の歌を集めたカバーアルバムですが、いちばん驚いたのが渥美清さんの「男はつらいよ」カバー。玉置さんが歌うとどうなるのか。まったく期待していなかったのに、名曲ぞろいのアルバムの中でも、私は個人的には、いちばんこころに響きました。「男はつらいよ」。ぜひ、聞いてみてください。童謡のように単純な曲だからこそ、玉置浩二さんの歌の深さを存分に堪能できること請け合いです。

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