0916『あの日、僕はきみのくびをしめてころした』1

急に場面が切り替わる。
まるでテレビのチャンネルを変えたように。

目の前の建物が半分崩壊しており、人々は阿鼻叫喚の如く叫び逃げ惑っている。
周りにはオレンジ色の分厚い生地の服を着て、頭にはヘルメットをした人達が整列している。
俺もその中の一人として立っていた。
またあの時の離人感。俺が俺でないような、でもここにいるのは自分なのだろう、そんな予測のような、客観的視覚。
自分の服装を見てみると同じ格好をしてある。
なんだかレスキュー隊みたいだな。
多分、これからこの建物の中に入って救助活動をするんだろう。そんな気が確信に近いものとして頭をよぎる。
「これから作業を開始するが、崩壊しかけたところへは私に報告してから突入するように!
開始!」
整列した僕らの目の前にいるリーダーらしき人が威勢のよい声を発した途端、皆が建物に向かって走り出した。
僕は戸惑いながらも、その流れについていくことにした。
おそらく、僕はこのチームの一員なのだろう。
それになんだ、この使命感は。
まるで誰かを救わなくちゃいけないという使命感に駆られている。

最初に、目の前にある階段を登っていくようだが、もうすでに半分ほど崩れている。
本当にこんな場所を進むのか。
俺は躊躇いながらも、周りが進んでいくので、その流れを追うように階段を登っていく。

登り終えたところで、一人の隊員が叫んだ。
「この中から声が聞こえます!」
シャッターで閉じられた先に、確かに人の声が聞こえた。
「よし、慎重に進め。この高さなら登れるだろう」
隊長らしき人が指揮している。
よく見るとシャッターの上部分に斜めに大きい穴が空いており、そこは確かに人が入るには十分な広さだった。だが、この高さ、登れるのか?
僕はとても登れるような気がしなかったが、隊員がシャッターの前でこちらを向いて屈んで、手を組んでいる。別の隊員がその手を足場にして、踏み台の要領で大きな穴を登って行った。
そうか、これ、ゲームで見た事あるな。二人で一人が足場になって、もう一人を持ち上げる。
ゲームだともう一人が上から手を差し伸ばして、足場になった人を上に導くやつか。

僕も見様見真似で、その足場役の人の反動を利用して昇ることを試みた。
とても不慣れで不恰好だ、必死に足掻いてなんとか登れそうな高さだが、俺はレスキュー隊みたいな格好をしているが、レスキュー隊ではないんだ。多分。
訓練なんぞした覚えはない、不恰好に足掻いて上に上がるのを試みて、なんとか必死で上の穴に登ることができた。これはハードだぞ。
だが不思議と息は上がっていない。どうもこの体は鍛えられていそうだ。普段からトレーニングやシミュレーションをしている、本物のレスキュー隊なのかもしれない。
俺にはそのノウハウ、記憶がないだけなのだろう。

中に入ってみると、数人、集まって怯えているような様子だったが、俺たちの到着によるものか、少しだけ安堵したような表情をしている。
その中の一人、初老の男性。体格はしっかりしており、初老とは言ったものの顔つきだけで、なんだか俺より頼りになりそうな男がこちらに話し始めた。
「奥にまだ仲間がいる!私はその人を救わなければいけねぇんだ。助けが必要だ、俺が案内するからよ」
必死な様子だが、そこに恐怖の影は無かった。
一点の曇りもない勇気。その表情、勢いは、まさに『果敢』そのものだ。
僕はその果敢な姿勢に身惚れ、人を救う使命感というものが増した。
進もう、先へ。
俺は、進まなくちゃいけない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?