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斧トレのすすめ

(2024.6.15メルマガアーカイブ)



ブッダって詩人よね。


「人が生まれたときには実に口の中に斧が生じている。
人は悪口を語って、その斧によって自分を斬るのである。」




人を傷つける目的で悪口や嫌味を言ったり、怒りや恨みの感情のままに言葉を放つとそれが自分の心を汚すことになる、というのは納得ですが、それを語るために「口の中に斧が生じて生まれてくる」という表現を使うブッダ、詩人だなあ。


イメージしやすいじゃないですか。口の中で斧が暴れ、口内が血まみれの傷だらけになっているのが。

斧を落ち着かせているには、黙るか、斧が暴れない言葉を選ぶしかありません。



■舌という斧

「口の中の斧」って、物理的には「舌」なんだと思います。


ブッダの説いた思想に少なからず影響を受けているその後のインド思想。身体行法としては「身口意」に代表されるように、「口」つまり発話することも、整えるべき行為とされます。


「身口意」というコンセプトはハタヨーガの修行方法にも継承されます。一人で黙って修練している時間さえも「口を慎む」時間であり、頭の中で考えることも「発話している」に等しいと考えます。


そうなると、対人相手の発言内容に気をつけるだけでなく、自分の思考の中で発話(発想)することも、同じく諌める必要があります。


その方法として《舌を動かさない》という行法になるのです。


ハタヨーガには「舌の置き所」を指示した行法がいくつかあり、主に呼吸法の際に舌をどこどこの位置に定めておく、という感じです。


ハタヨーガ的な説明ですと『舌の位置の操作で〇〇チャクラを刺激する』などの身体論的理由を説くのですが、実際にやってみるとわかるのは、舌を所定のところに固定させると、思考の動き(頭の中のおしゃべり)が静まります。



■舌に乗っ取られた(怪談みたいな話)


先日電車に乗ってい時、60代くらいの男女(たぶんご夫婦か)がおり、女性の方は私の向かいの席に座っており、男性の方はそのそばに立っていました。


女性の方が男性に「あっちに席ひとつ空いてるから座れば」的なことを言ったのですが、男性はうんでもすんでもなく、ただ立っていました。聞こえているんだけど返答をしない感じです。


しばらくしてまた女性が男性に一言二言なにかを話しかけるのですが、やはりうんともすんとも言わず、女性の方を見ることもありません。女性の方はと言うと、連れの無反応もあまり気にしないのか、時々男性に話しかけます。でも男性は、時々小さく頷くくらいの薄い反応。ほぼ無反応に近い・・・

そのやりとりがなんだか奇妙に見えて、なんとなく観察してしまいました。



私の興味を引いたのは女性の方で、男性に話しかけていない時も、

「宙」に向かって、音声を発せずに、話しかけていました。




人は、黙っていても頭の中でいろいろ考えていたり、誰かに何かを言っているような脳内発話をしていることはあると思うですが、その女性は、定まるような定まらないような曖昧な目線で空間を見て、わりと朗らかな顔で、なんか話してるっぽいのです。


で、その口はゆるく開いており、正面に座っていた私には、その口の中で舌がけっこうな速さで動いているのが見えてしまったのです。かすかに唇も話している時のような動きをしています。



ぞっとしたと言うか、見てはいけない怖いものを見てしまったような・・・
なんとも言えない気持ちになってしまいました。


まるでその女性とは別の生き物が、彼女の口の中で好き勝手に生息しているように見えたのです。本人は、自分じゃない別の生き物に口を乗っ取られていることに気づいていないというような感じです。

「口の中の斧」を見てしまったんですね。


彼女は別に、(頭の中の発話であっても)悪意ある言葉で口の中の斧をぶんまわして自分を痛めつけているわけではなさそうで、少し微笑んだような朗らかな顔だったのですが、逆にそれが余計に違和感を誘い、乗っ取られている感を醸し出しておりました。本人に制御権はなさそうなのです。





■舌の位置を固定


話を戻すと、ハタヨーガでの「舌の位置を固定」をする技法は、先ほども述べたようにハタヨーガ独自の理論(気の流れの制御とか、チャクラへの刺激とか)のうえで説明されることが多いのですが、頭の中の発話(思考)を制御する作用も重要な効果なんですね。



実際にやってみると体感できると思いますが、試しに、


舌先を上顎にピタッとつけて固定したまま、

唇は閉じて、鼻で呼吸してみてください。




おそらく呼吸への集中がしやすくなるのでは。

そして頭の中のおしゃべりが減って、今、行なっていることへの集中は強くなると思います。舌の置き所を決めずに、舌が宙に浮いている時と違う意識感覚があると思います。



これは日常生活でも使えます。何かに集中したい時など、口の中で舌を宙ぶらりんにしないで、上顎なり、下顎なりにくっつけておきます。


あるいは、誰かと話している時なんかにちょっとイラっとしたりムッとしたりして、感情の高ぶりのままに何か言ってしまいそうな時、舌先を上顎にセットして深呼吸。感情の高ぶりを落ち着けてくれます。



あるいは感情的な場面でなくても、「余計なこと」を言いそうになってしまった時にもいいですね。口の中の斧の制御です。



とは言え、「口の中の斧」の存在を思い出せないと、とっさの時に上記のような所作は取れないので、落ち着いている時に練習することが必要ではあります。ヨーガレッスンでポーズを深める時とか、仕事に集中したい時とか、ウォーキング中とか、家事しながらとか、日頃からやってみるといいです。


口の中の斧トレですね!





■日本語話者の「浮いた舌」


そうそう、追記ですが、この「舌の位置の固定」って日本語話者にとってはけっこう練習が必要だと思います。


というのも、日本語を発声する際に、舌の位置ってかなり自由なんですよね。自由っていうと聞こえがいいですが、固定する方に訓練されていないとも言えます。


試しに「あいうえお、かきくけこ、さしすけそ・・・」と言いながら、舌の操作が必要あるかないかを感じてみてください。


タ行、ナ行、ラ行は、舌先が一瞬上顎に接触して弾かせる必要がある音が登場しますが、それ以外は、舌は口の中でどこにも接触しない宙ぶらりん状態で発声できます。
タ行、ナ行、ラ行にしても、舌が上顎につくのは一瞬で、次の瞬間にはもう宙に浮いた状態に戻ると思います。




英語だとそうはいかず、[r] とか [th] のような音以外は、舌先は「下の前歯の裏側」に固定したままだそうです。


大人になって学校英語以外の環境でこれを教えてもらった時、そうなのね!と驚いたのを覚えています。なんでそれ義務教育の英語で教えないのよ、どんなに聴いたまま発音しようとしたって舌のフォームが違ったら同じ音にはならないじゃんか、と思いました。


RとLの違いとかthの舌の使い方ばかりに注目してできるようになっても、ニュートラル時の舌(特に母音への影響大ですね)がうまく出せない聞けないんじゃ英語話者に聞こえる音が出せないよね、、と思いました。

日本の学校英語は「身体運動としての言語習得」をあまり考慮しないんですね。中にはそういうことをちゃんと教える教論の方もいるとは思いますが、個人の采配に委ねられているのが現状なのんでしょう。

しかし発声における舌の位置ってスポーツで言ったら姿勢とか動作の基本フォームだと思います。野球に例えると、なんとなくバットを振っても打てないように、日本語くらい英語から舌のフォームが離れている言語話者には基本段階で教えないといけないものだと思いますが、いかがなもんでしょうね。



まあそれは別問題として、とにかく「日本語話者の舌」は初期設定で「位置を固定されること」に慣れていないと言えます。だいたいいつも宙ぶらりんで、あっちゃこっちゃに動きやすい舌を持っているのです。その他の言語話者でも、ぼーっとしてる時は舌先宙ぶらりんの可能性もありますが、こと日本語のみの話者は舌の操作に終始無頓着でいられます。




■舌と思考は同期してます


舌が動くと思考が動く


ハタヨーガはそう教えてくれます。

そこに悪意や邪心が入ると、ブッダのいうところの「斧」として自分を血まみれにします。


日本語話者独特の「舌放置」を考えると、これに気をつけてみたら逆に効果が高い言語的民族かもしれません。


舌が動くと思考が動く

思考が動いている時、実は舌も動いている



先の電車の中の女性は、それをリアルに見せてくれたような姿でした。


最初は、連れの男性があまりにも反応が薄いので、なんか女性がかわいそうな感じに見えたのですが、長年連れ添った夫婦だとしたら、彼女の口の中の別の生き物の止むことのない動きに疲れてしまったのかも・・・とか思ってしまいました。



というわけで、一人で黙っててもせわしなく動く思考をちょっとでも抑えたい方は、そのフィジカルな発生元とも言える「舌の動き」に注意を払ってみてもいいかと思います。


集中の助けになったり、落ち着きを取り戻せたりします。


<追記>
*ハタヨーガでの舌の操作
ハタヨーガでは、上顎の方に舌を持ち上げて、さらに巻き込んで奥の方に入れ込んでいくやり方などがあります。興味がある人は『ケチャリムドラ』で調べてみるとネットでもちょっと知れます。実際の行法は指導のもとでやりましょう。


*英語発声時の舌の位置について、こんなブログ見つけました。https://note.com/marina_ym/n/n3ccf612003b4


本日は以上です。



ナマステ
EMIRI

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