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重なる影は濃くなる筈だ、と (映画『PERFECT DAYS』レビュー)

社会の中でスポットライトを浴びるわけではない人たちが、木漏れ日に照らされているような、そんな映画だった。
変わらない "ような"ものがあって、そこに刻一刻と形を変える光が当たっては消え、当たっては消えてゆく。
社会の中でスポットライトを浴びないなんて普通のことで、でもそこには平均できるようなものなんてなくて、全部ありふれてはいない。街行く人、お昼ご飯を公園で食べる人、踊るホームレス、銭湯の常連のおじいちゃんたち。細部があってこそ、全体は成る。

光を見つめる役所広司、改め平山さんが印象的だった。

他にも、朝目を覚ます平山さん。

出勤前に空を必ず見上げて、少し微笑む平山さん。

仕事終わりの一杯を寡黙に味わう平山さん。

眠気に襲われるまで読書に耽る平山さん。

スナックで好きなママと紳士的に交流する平山さん。

姪と自転車を漕いで、無邪気に歌う平山さん。

初対面のおじさんと少々夢中になって影踏みで遊ぶ平山さん。

その表情。

パンフレット

役所広司推しには堪らない役所広司づくめであるが、不思議と諄くない。変わらないように見える彼が、観客からは見えない過去を携えて "今"を生きていることが滲み出ているからかもしれないし、些細な変化を愉しみながらも変わってゆく今にしがみついていることを感じ取れるからかもしれない。

「だって、重なった影が濃くならないなんて、そんな馬鹿な話あるわけないじゃないですか」

強い語気で、彼は "何かがなかったことになること"を否定した。
パンフレットの中に、彼の言動やリアクションが「子ども」であると表現している箇所があって、妙に納得した。
見えない過去の積み重ねの上に生きている。でもみんな、大人になっていく。
無口な平山さんに感じる親しみや純粋さは、そうはならなかった姿に宿っているのかもしれない。

PERFECT DAY "S"。
パーフェクトな1日を積み重ねてきた最前線の今。
平山さんは、どんな過去を生きてきたんだろう。

そう思いを馳せずにはいられないなぁ。

監督が平山さんに宛てた手紙。書きたくなる気持ちもわかる。

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