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水処理と試運転

工事の完了検査も終了すると、いよいよ最終チェックの砦である試運転が始まります。この段階では、設計した設備が実際に具現化していることで、様々な点についてチェックをすることができます。ここでは試運転に意義と効果についてを中心に記述しようと思います。

1.上流工程への情報の宝庫

営業で説明してきたこと、計画で検討してきたシステム、設計でうまく動くように設計した部分。試運転はこういったことの答え合わせができる場です。上流側として自分たちの頭の中で考えてきた内容を遂行していく時、実際の経験を踏まえていくと、各工程の業務に説得力が生まれます。折角試運転に参加できるチャンスがあるのであれば、試運転業務をただこなすだけでなく、上流工程で説明する内容をイメージして検証していく視点を持って業務を行うと多くを学ぶことができます。

2.お客様にもっとも近い工程

実際のユーザーであるお客様にもっとも近づくことができる工程です。この時のご意見は非常に重要です。しかしながら、お客様のご意見をありのままに受け入れていってもダメです。プロとして、お客様のご意見がもっともなものと、仕様が異なってフォローできないようなものと、をしっかりと切り分けて説明していく必要があります。

また、十分よくマネジメントできているプロジェクトでさえも、この段階でコストが発生しそうな小さな問題への対応が出てきます。多くの場合は「些細なこと」ですが、対応にスピードが要求されることがほとんどです。薬品を入れるバケツが欲しい、とか、この部分をもっと補強してほしい、とかいうものです。その度にわざわざプロジェクトマネージャにお伺いと立てるのは煩雑です。私としては、顧客の満足度を促すスピードを保つため、ある程度のコストコントロールの権限を、範囲を明示した上で試運転員に渡しておいた方がスムーズにいくと思っています。

3.トラブル対応の基準データ

よく、試運転は検収のために動きを確認するためのものであって、「動いたのをチェックできれば十分だ」という認識で、記録を雑に取ったり、ショートカットをしてしまうことが見受けられます。その認識は片手落ちです。例えば、将来、何らかのトラブルで圧力計が設計基準値を超えて異常に高い値を示していたとします。その時、試運転時はどうだった?周辺機器の運転状況は?というチェックが必ず入るのです。このように、試運転の記録は検収のためだけでなく、納入設備の将来のトラブル時のためにも記録と取っているのだという動機付けをしっかり徹底することが重要です。

4.トラブル時に確認したいこと

試運転に関連したトラブル対応のお話です。試運転中にトラブルが起こったり、納入後にトラブルが起こったりすると、設計者に問い合わせがきます。その際にいつも気を付けていることは下記です。

・トラブルの事実を確認する

トラブルの内容と、報告者がトラブルと判断した理由があるはずです。それを把握します。

・報告者のトラブルの判断が間違えていないかを確認する

案外、トラブルの報告と事実が異なる場合が多いです。まず、報告者がなぜトラブルと判断したのか基準をチェックする意識が重要です。特に「計器の値が異常だ」「測ってみたら異常だ」「異常値を示して警報がでている」というものは要注意です。測定の結果異常だったのか。計器そのものが異常なのか。測定方法にミスはないのか。この点を調査した上での報告なのか。こういったことをヒアリングしてチェックしていきます。相手は、トラブルという事象を目のあたりにして焦って、対応を早急に要求してくる場合が多いです。トラブル当人の気迫に押され、報告者の内容を鵜呑みにしてしまい、pHが異常だ!となって、血眼になって原水性状や制御方法の確認をした結果、単に計器の故障だった、というのは笑えません。冷静に判断しましょう。この判断ミスをすると、以下の行動がすべて無駄になってしまいます。

・トラブルの応急処置を行う

トラブルの対応方法は2ステップあります。トラブルを怪我とするならば、怪我を縫合する緊急対応と怪我をした原因を取り除く恒久対策が必要です。

まずはトラブルに対する緊急度を見極めながら対応を行い、その間に恒久対策を探っていくことになります。この時、対処療法を継続し続けることを「根本治療である」というような判断にならないよう気をつけましょう。pHの異常の例にとると、緊急対応としては放流直前でpHの確認を行い、ヒトの手でpHを調整したあと放流することになります。ヒトの手で調整し続けることもできますが、対応策が必要です。その間に、なぜ異常が行ったのかを検討して恒久対応することになります。この恒久対応の検討に、試運転データが重要になってくるのです。

・恒久対策のレポートを書く

トラブル対応の結果も立派な無形資産です。レポートを書き、記録を残して将来のトラブルに備えましょう。また、トラブル対応中は、いろいろな方が気にしているものです。「速報」と「正式報告」を使い分け、適宜コミュニケーションととるようにします。


以上、試運転に関する事項でした。


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