水処理と世界と日本
水処理ビジネスは世界で100兆円規模のビジネスになる。
Googleで「水処理 ビジネス」と検索するとたくさんの記事がヒットします。その多くの記事で、日本企業はこの世界の水処理ビジネスの拡大の波に乗り切れておらず、その原因として「過剰品質でコストが合わない」「一環した運営管理まで請け負えない」と解説されています。これらに対して、実際ビジネスをしていた観点から記述したいと思います。
1.品質が過剰?
水処理設備の品質は運転結果で評価されます。運転結果は、水処理設備を構成する機器の品質と、水処理設備の設計の品質に影響されます。品質が過剰、ということは、この何れか、もしくは両方が過剰ということになります。
2.機器の品質
世界に出ても、日本企業の水処理設備の構成機器はやはり日本製が中心になります。製品情報をよく知っているので購買しやすい、ということもありますし、日本経済への貢献にもつながります。ただ、世界の、特にアジアの水処理設備においては、機器をメンテナンスしながら長期間使っていくよりも、壊れたから変えたらいいじゃない、という感覚がまかり通りるため、品質のよい日本製(もしくはそれを基準とした海外製品)レベルのものを採用するのか、使い捨てのような海外/ローカル製を採用するのかの判断が必要になります。状況に応じた判断を誤ると、過剰品質、という評価につながっていきます。
ただ私の感覚ですと、少なくとも現地にて輸入が必要な製品ならば、日本製品は品質に対して非常に安価で、このような状況判断をするまでもなく日本製一択だと思っています。日本製メーカの製品は、海外のすぐ壊れてしまうメーカと遜色ない金額で購入できてしまうのです。1,100USDの日本製ポンプと1,000USDの品質そこそこポンプというレベルです。日本製品の品質に対する価格の安さは、この状況判断を凌駕するくらいに素晴らしく、もっと評価をされるべきだと思いますし、日系企業の特徴としてもっとそれを誇るべきだと思います。
3.設計の品質
日本の水処理の設計品質は最高だと思います。日本人の緻密さ、勤勉さがよく表れており、無駄を省いた、よく配慮が行き届いたシステム設計を提供できていると思います。各技術に対しても、机上だけでなく、しっかりと実験により裏打ちされて技術構築がされています。同じ人件費の条件下であれば、最高のパフォーマンスを出しているのではないでしょうか。無論、IT化により今後状況が変わっていくかと思いますが、ITやDXはあくまでツールであり、この基本的パフォーマンスについての優位性は変わらないと思います。
4.安全率を見すぎる日本
安全率に関する感覚については大きな修正が必要かと思います。機器の値段もそこそこ戦えるます。設計の質も良いです。ただ、なんでそんなに安全率を見るんですか??日本の品質過剰がクローズアップされている原因のほどんどが、これに起因するのでは?と個人的には思います。
この感覚について、コップの例えで説明します。
100mlの水を運ぶためのコップをお見積りお願いします。
A:東南アジアのベンチャー企業 / 100mlぎりぎりデザイン。だって100mlなんでしょ。大体、引き合いで100mlっていっても、実際はもっと少ないことが多いし、これで十分。細くて安定感がなく運ぶとき大変?それはこっちの問題じゃないね。溢れたら?105mlだったんじゃないの?証明できる?え?運ぶとき揺れたからって?そんな運ぶときの揺れについては条件ないし、そっちの問題。そもそも105mlだったんじゃないの?じゃあ、もう一個いる?安くしとくよ!
B:要求にマッチしたベスト企業 / 100mlぎりぎりデザイン。運ぶと揺れるから、その分は揺れ吸収用。
C:日本企業 / 設計マニュアルによると、100mlに対して10%くらい余裕見て110mlにしないと100mlを許容できる保証にならないよね。あ、運ぶときの揺れ吸収のための余裕も見ておこう。あと、やっぱり広口の方が安定するし良いよね。コストもそんなに変わらないし、安定性をPRしてこれでいこう!
極端ですが、イメージが湧きましたでしょうか?
さらにこの場合の日本企業の凄いところがあります。この条件にもかかわらず、日本企業商品Cは東南アジアのベンチャー商品Aよりも、たった10%程度高いレベル程度のコストで商品を提供できるのです。ビジネスで10%の違いは大きいですが、これだけ設計仕様が違っていてこの差は驚きです。やはり、日本の機器は安価なのです。
このようなことが起こる背景を二つ挙げます。一つは「お客様は神様」という文化です。これに対し、お客様と対等に議論し、何が必要なのかを解き明かそうとするマインドが、本質を見抜くために必要です。第二に「日本で作ったマニュアル」が原因になり得ます。日本と海外では水環境条件(水温や水質など)が異なります。海外向けにならば何が許容されるのかを考えて内容を更新する必要があります。マニュアルの原理原則を理解し、日本という狭い分野での標準を見つめなおす感覚が必要です。これを無視すると、安全率過剰によりコスト高になるばかりか、時に過剰な安全率が原因で不具合が起こることさえあります。
ところで、東南アジアの企業はAと表現しましたが、彼らも成長しながらAの状況からBのデザインを目指しています。日本企業はCの状況からBのデザインを目指しています。Bのデザインを目指すのことを成長と呼ぶならば、東南アジアの企業と日本企業では、社内改革で修正する点が真逆な部分でありながら、目指す姿は同じ、ということも予想できます。
4.運転管理の請負
プロジェクトは一過性の収入にしかなりませんが、運転管理を行うと安定収入に変貌します。水処理会社としては、必ず手を伸ばしていきたいフィールドです。ただ、よく記事にあるようにあまり進出ができていません。いろいろな原因について、考えを記述します。
・日本国内の公共上下水道でさえ、民営化がスムーズに言っているとは言えない
世界の水ビジネスの主な主戦場は公共水処理場です。しかしながら、日本国内でさえノウハウ吸収が上手くいかず、官民連携により海外進出までのスキームを効率よく回せるまでに至っていないのではないのではないでしょうか。日本国と共に世界に飛び出すのがこれからの項目です。
・言語の問題
現地で指導していくのであれば、言語の問題は避けて通れません。運転管理となればなおさらです。でも、やはり日本人は言語に壁を感じてしまっているんだなと思います。まずは「水処理と英語」でご説明したような内容からでも取り組んでいきましょう。
・お客様は神様です
運転管理は安定収入を生みます。当然、現地の国もこの事実を分かっており、この収益を狙ってきます。利益をどう配分するのかを交渉していかなくてはなりません。PFIに関する知識や実績ももちろんですが、我々の意見もしっかりと主張していくことも重要です。お金を出しているのに「日本にイニシアティブをとらせるな」などと相手側で結託され、いいようにやられてしまうのは見ていて歯がゆいです。逆に海外企業では、この部分を蔑ろにしすぎて顧客サービスが低下して上手くいかない部分があります。利益と公共性のバランスが非常に難しいところです。
以上、私が今思うことを記述いたしました。私は業界を離れますが、この分野へまた何らかの形で関与し貢献できるよう、動いていきたいと思います。
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