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会いたさのあまりに体が震えだしてるの世界中で西野カナだけ説

会いたくて会いたくて震える

西野カナ「会いたくて 会いたくて」

西野カナの2010年に発表された代表曲、「会いたくて 会いたくて」。

冒頭の引用部分は、10年以上前の曲であるにもかかわらず、いまだに誰でも知っているといってもいいぐらいの超有名フレーズである。

ヒットしたことからも多くの支持や共感を得たことは間違いないのだが、この引用部分が、数々の揶揄やツッコミにさらされてきた。

曰く「会えばいいじゃん」「え、なんで震えてるの? 怖い……」などなど……。

実は筆者、この曲、この部分しか知らなかったりする。曲のタイトルすらさっき調べて知ったぐらいだ。

それなのにこのフレーズだけ覚えているのは、やはり会いたさのあまり震えてしまうというその表現の特異性が際立っているからに他ならない。

ということで、

いくら何でも、会いたさのあまりに体が震えだしてるの西野カナだけじゃね? 

と思ったのでJ-POPの歌詞で体が震えてるものを集め、その原因を分析し、会いたさのあまり震えてるものが他にあるか調べてみた。



プリンセス・プリンセス「Diamonds〈ダイアモンド〉」

まずは昭和末期から平成初期にかけて活躍したガールズバンド、プリンセスプリンセスの大ヒット曲「Diamonds〈ダイアモンド〉」を見てみよう。

いくつも恋して 順序も覚えて
KISSも上手くなったけど
はじめて電話するときには
いつも震える

PRINCESS PRINCESS「Diamonds」

これは、緊張による震えだろう。

「恋愛は何度もしてきたんだけど、意中の相手にはじめて電話するときは、
いつも緊張して震えてしまう」ということだ。

昔は電話口に相手の家族が出る事もあっただろうし、今よりも緊張するかもしれない。今でいうと初めてLINEするときがこれに該当するのだろうか。

ちなみに電話するときに震えているのは実はプリプリ(プリンセス・プリンセスの略、怒っているわけではない)だけではなく、坂本九のヒット曲「明日があるさ」でも主人公は電話するときにダイヤルを回す手が震えている。

そろそろLINEするときに手が震えるJ-POPが出てきてもおかしくはない。

「Diamonds〈ダイアモンド〉」震えの理由:緊張



Mr. Children「車の中でかくれてキスをしよう」

国民的ロックバンド、Mr. Childrenにも、初期のマイナーな曲ではあるのだが、震えソングは存在している。

1992年に発表されたセカンドアルバム『Kind Of Love』収録の「車の中でかくれてキスをしよう」である。

車の中でかくれてキスをしよう
誰にも見つからないように
君は泣いてるの? それとも笑ってるの?
細い肩が震えてる

Mr. Children「車の中でかくれてキスをしよう」

抜き出したのは最初のサビ部分であるが、流石ミスチル、国民的的バンドであるだけあってがっちりと基礎的な「震え要素」を抑えている。

抱き合っていて表情が見えないからであろうか、主人公は恋人が震えている理由について「泣いてるの?」「笑ってるの? 」と疑問に思っている。曲からはその理由がどちらかであるかは明らかにされていないが、この部分は非常に重要なことを我々に示唆している。

普通顔の見えない状態で他人の肩が震えていたら、泣いているか笑っているか(もしくは怒っているか)だと思うだろうということだ。

このことからも「会いたいから震える」という現象の異常性の高さが伺えるのではないだろうか。

この曲が凄いのは震えは肩だけにとどまらないところだ。抜き出したサビに続いて2番Aメロ部分も見てみよう。

誰もいない月の浮かぶプールに
忍びこんで波をたてる君
震えている青ざめた唇を
僕に見せて笑いころげてる

Mr. Children「車の中でかくれてキスをしよう」

なんと肩だけでなく、唇まで震えているのである。

これは寒さによる震えであろう。水が張っていることからも季節はおそらく夏か夏も終わりだろうが、それでも夜にプールに入るには寒かったのだろう。

青ざめた唇という表現もやけにビビットでリアリティがあり、流石と言わざるを得ない。

表現の秀逸さも評価すべきポイントであるが、「寒さ」「笑い」「泣き」と、一つの曲の中で震えの可能性について3パターンも提示してみせた極めて優秀な「震えソング」である。

「車のなかでかくれてキスをしよう」震えの理由:寒い、可笑しいもしくは泣いている


スガシカオ「ふるえる手」

次はSMAP「夜空ノムコウ」の歌詞を提供したことでも有名なシンガーソングライター、スガシカオの「震え」ソングを見てみたい。

タイトルも「ふるえる手」と今回の企画に合致した内容になっている。さて、どんな理由で震えているのだろうか。

ダークな恋愛模様も描いてそうなスガシカオなら、震えの理由が「会いたさのあまり」であるのも期待できる。

いつもふるえていた
アル中の父さんの手
ぼくが決意をした日
“やれるだけやってみろ”って
その手が背中を押した
“何度だって やり直せばいい”

スガシカオ「ふるえる手」

まさかのアル中である

他の震えソングの震えが感情に起因していたり、誇張表現で実際は震えてなかったりするのとは一線を画すソリッドな震えである。

禁断症状による震えという意味では西野カナに一致しているが、やはり会いたさのあまり震えているわけではなかった。

やはり会いたくて震えているのは彼女だけなのだろうか……。

“何度だって やり直せばいい” という発言に説得力があるのかないのかわからないが、とりあえず親父さんのアル中がどうなったかが気になりすぎて、主人公のストーリーがまったく頭に入ってこない一曲。

「ふるえる手」震えの理由:アルコール中毒



小田和正「この日のこと」

お次は、元オフコースのフロントマンで国民的シンガーソングライターといっても良いぐらいの知名度と人気を誇る小田和正の「震えソング」を紹介したい。

ずっと woo ずっと 君のことが 気になってた
いつの日か会いたいと 遠くから思っていた
こうして 今日 会えたね 何を言えばいいんだろう
来てくれてありがとう 嬉しかった震えるくらい

小田和正「この日のこと」

これは、ちょっと惜しい。

この曲の主人公は会えたことによってうれしくて震えている。

「会いたい」というキーワードが震えに関連している点では合致している。

しかも小田和正には「言葉にできない」という名曲もあり、こちらも嬉しさのあまり「言葉にできない」と、発話を制限されるほど会えてうれしくなってしまっている主人公が出てくる。

小田氏が「嬉しい」という感情でなんらかの変調をきたす体質の持ち主であることは明白であろう。

ひょっとしたら「言葉にできない」の主人公も震えていた可能性もある。だとしたら震えの常習犯である。震えニストである。

しかし、である。

西野カナの「震え力」には到底かなわない。


西野カナは会う前から震えている。

会ってから震えているのではまだまだ三流。達人はその前から震えている。

「会いたい」と心の中で思ったならッ! その時スデに体は震えているんだッ!

「この日のこと」震えの理由:会えて嬉しい



back number「高嶺の花子さん」

最後は2004年から活動しているスリーピースバンド、back numberの代表曲「高嶺の花子さん」を見てみたい。

真夏の空の下で 震えながら 君の事を考えます
好きなアイスの味はきっと

back number「高嶺の花子さん」

どういうこと?

震えの理由がよくわからない。

わざわざ真夏と言い切ってることからも寒さで震えているわけではなかろう。直後にアイスの言及があるので、主人公がアイスを食していた可能性はある。しかし、わざわざ空の下といっていることからもクーラーの効いた室内なく、屋外で震えていると考えるのが妥当であり、真夏の炎天下でアイスを食べて頭がキーンをすることはあっても震えることはまずないであろう。

だとしたら震えの理由はなんだろう。太陽が眩しかったからであろうか。

不可解過ぎる。

いや、

決まっている。


間違いない。


彼は会いたさのあまり震えている(断定)。


会いたくて震えるソングは西野カナのほかに存在していたのである。

「高嶺の花子さん」震えの理由:妄想(会いたくて)

まとめ

実は今まで面白いから伏せていたが、西野カナには震えるだけのそれなりの理由がある。

「会いたくて会いたくて」の主人公は会いたい相手と昔恋仲であったが、その男性は現在、どうやら主人公の知り合いっぽい他の女性と既に付き合っているのである。

つまり元カレに単純に会いたいから震えているだけでなく、その「震え」には今カノへの嫉妬や怒り、別れてしまった後悔やくやしさなど、物理的に震えを誘発する他の激しい感情が混じっている。

ただ会いたいから震えているわけではないのである。

西野カナは詩人として卓越していたために、「震え」と「会いたさ」を接続することでとてつもないインパクトを生み出すことに成功し、それゆえに誤解され揶揄されるに至ってしまったのである。

したがって世間一般の揶揄や「会えばいいじゃん」という切り捨ては、的外れであり、これらの言説は単に原曲をちゃんと聴いていないか、日本の国語教育の衰退の現れなのである。

ということで、今回紹介した他の「震えソング」「緊張」「喜怒哀楽」「アル中」に起因しているのと同様に、「会いたくて会いたくて」も実はまっとうな理由があって震えている標準的な、しかしとても優れた「震えソング」だったのである。

ところが、最後に紹介したback numberの曲の主人公は、何気なく意中の相手のことを思い出し、普通胸が苦しくなったり、キュンキュンしそうなところを、真夏にも拘わらずいきなり震えだしているので、かなり異常性が高い。

そもそも「高嶺の花子さん」は、主人公が、高嶺の花子さん(仮名)に対して勝手な想像を膨らまし、自己嫌悪に陥る、Radioheadの「Creep」に対する日本からの狂ったアンサーソングであり、このまま暴走し続けるとストーカーなどの危ない方向性にも行きかねないポップに見えて実は怖い曲である。

その証拠に主人公は「黒魔術」に興味を持ち、「夏の魔物」による花子さんの誘拐まで示唆している。

5分ぐらいで終わっているからいいものの、10分ぐらいの長さだったら、マーダーバラッドにもなりかねない。

先ほど抜き出した該当部分は、「震えソング」であることを宣言するだけでなく、主人公の異常性を短いフレーズで描き出したかなり文学的な一節だ。

当然、これは「震えソング」的にも西野カナを超えている、といっても過言ではなかろう。

結論

西野カナの震え方もなかなかキているが、back numberはもっとヤバかった。

Text by JMX



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