M|A|R|R|S "Pump Up The Volume"をサンプリングした曲を聴こう!
表現の幅を生む一方で、既存の楽曲の一部を抜き取って使用するが故に法的な問題も常に付きまとうサンプリング。
最近ではこんなニュースも出ていましたが、80年代後半〜90年代のハウス・ヒップホップの発展期には連日のようにこうした報道が飛び交っていたことでしょう。
なにせ『Where there’s a hit, there’s a writ(ヒットがあれば訴訟がある)』という格言もあるぐらいです。
M|A|R|R|S
"Pump Up The Volume"
今回注目するのはイギリスのハウスユニット・M|A|R|R|Sが1987年に発表した楽曲『Pump Up The Volume』。
この曲もリリースを巡ってサンプリング元から訴訟された経験を持つ大ヒットナンバーのひとつ。オリジナルであるUKバージョンは、判明しているだけでも20曲以上がサンプリングされているようです。
詳細についてはWikipediaに譲りましょう。
この記事では『Pump Up The Volume』の冒頭部分をサンプリングした曲をレビューします。
では早速。
Cappella
"Bauhaus"
最初はイタリアのグループ、カペラが同じく1987年に発表したこの一曲。
「冒頭のドラムの無限ループ」&「節操のないカットアップ」で成り立っていて、時間あたりに摂取する情報量がとにかく多いです。Z世代か?
トラッシュメンとアートオブノイズとインド古典が同居するという、音楽マニアのレコード棚みたいな空間が展開されていきます。
"Pump Up The Volume" はヨーロッパにもアメリカにも影響を与え、激しいカットアップのスタイルを流行させたと聞きます。この曲も、その典型と言っていいんじゃないでしょうか。
Deee-Lite "Good Beat"
Deee-Liteが1990年に発表したこの曲では、カペラのそれとは真逆で味付け程度に登場。
サンプルが大きく左右に振られていて、パーカッションに寄った使われ方ですね。楽曲の他のセクションに対する馴染みが良くて、洗練された感じがします。
ちなみにこの曲はミュージックビデオもありますが、そっちでは削除されています。
これもこれで嫌いじゃないな。
TOWA TEIは86年に出たKORGのサンプラーDSM-1を所持していたはずですが、それでサンプリングしたのか、それともLady Miss Kierの持っていたAKAIのS900やCASIOのFZを使ったのか……ちょっとわからないです。
電気グルーヴ「ドリルキング社歌」
YMOチルドレン続きます。
原曲よりは若干強めにディレイがかかってるような気が。これもパーカッションとして秀逸で、これを使わなければならなかった……という説得力を感じます。
この曲はサンプリングというより、むしろ電気グルーヴによるM|A|R|R|Sのオマージュと言った方が相応しいような気もします。
下敷きは1994年のドリルキングアンソロジーに収録されていた『ドリルキング・アンセム (ドリルキング社歌)』ですが、併せて聞くとなかなかの魔改造ぶり。
Herbie Hancock
"Vibe Alive (Extended Dance Mix)"
ハービー・ハンコックが1988年に発表したアルバム『Perfect Machine』から。ビルラズウェルと組んだりしていたこの時期は敬遠する人もいますが、個人的には大好きです。
Expanded Editionのこれと、YouTubeに上がっているMVではサンプルに対する印象が結構違います。
前者では0:55あたりが初出。ここでは"Perfect Machine"と"Vibe Alive"の繋ぎのような印象ですね。かと思えば、4:00ごろにはそれを引き継ぎながら粗い質感の目立つパーカッションとして鳴らされたり。
4:53にはEric B. & Rakim "I Know You Got Soul" をサンプリングした部分まで使われたり……かなり使い倒されています。
一方、YouTubeのMVでの初出は1:08あたりから。"I Know〜" のくだりはカットされています。曲の長さが2倍ぐらい違うのを考えると仕方ないことだとは思うのですが、トータルでの印象は全然変わりますね。
Climie Fisher
"Rise to the Occasion (Hip Hop Remix) "
最後はM|A|R|R|Sと同じく、イギリス出身のポップデュオ。
まずリミックス前をお聞きください。
1987年リリースのナンバー。全英シングルチャートでは最高10位を記録しました。爽やかさと切なさのある、80年代らしさ全開のポップスですね。
では、"Hip Hop Remix"の方は?
どうした?
全く曲調が変わります。
原曲の爽やかさがボーカルにしか残っていません。ストリングスは逆に怪しさに直結。
そして"Pump Up The Volume"は、全編を通してリズムを担います。かなりテンポを下げて使われていますね。ピッチの下がったスローでダーティーなドラムが、曲全体にえもいわれぬ不穏さを漂わせています。
こういう原曲と離れまくりなリミックス、私は大好きです。
おわりに
今回は5曲をピックアップしましたが、"Pump Up The Volume"はかなり多くの曲でサンプリングされているようです。
もしかすると、ふとした瞬間にあのリズムマシンのフレーズが耳に飛び込んでくるかもしれませんね。
それではまた来週。
番外編
イギリスのノベルティソンググループ『Star Turn on 45 (Pints)』によるパロディ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?