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【ダイレクターズ】『熱のあとに』【HOME】

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。


ダイレクターズ第二弾としてご紹介するのは、2/2㈮公開の山本英監督『熱のあとに』です。

(C)2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisya

『熱のあとに』

2023 | 監督:山本英

2024/2/2(金)より
新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか
全国ロードショー

オフィシャルサイト

実在の事件からインスパイアされた物語

今作は実際に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされて創作した物語です。
“愛し方”に正解があるとは口が裂けても言えませんが、殺人未遂にまで至ってしまった在り方は少なくとも法律上、正しくないという判断が下されました。
しかし、その裁判で語られた女性の言葉に切実なる何かを感じたと、監督や脚本家は語っております。
映画ではまったくのフィクションとして、殺人未遂事件を起こしてしまった女性の服役後の物語が語られます。
まさに“熱のあとに”です。
事件などを様々な角度から検証し直すような作りに実録モノというジャンルがありますが、今作はそれとはかなり異なります。
事件を起点とはしていますが、そこで発露したとある愛し方を想像力を持って追求するという試みがなされています。

主人公の女性を演じるのは、橋本愛さんです。
これまでのキャリアを説明するまでもなく人気の若手俳優ですが、今作への出演はキャリアにおける一つの記念碑となりそうな予感がします。
というのも、主人公の沙苗という女性はミステリアスであり観客の共感とは程遠い所に位置するキャラクターです。
それでいてとてつもない激情を抱えており、言葉にして周囲に吐き出すほど孤立を深めていくような不器用な生き方を選んでしまいます。
それはこれまで橋本さんが演じてきた役柄を網羅するようなところがあり、さらにその先へと突き抜けていく演技が見られます。

それに対するのは、服役後の沙苗と出会い生活を共にすることとなる男を演じる仲野太賀さんです。
こちらも若手俳優を代表する役者として知られていますが、不安定な沙苗だけでなく我々観客も物語から振り落とさないように受け止める、途方もない“受け”の演技を堪能できます。

新たなる才能、山本英監督

今作で商業長編映画監督デビューを飾った山本英監督は、既に短編やインディーズ作品で評価を得てきています。
回転(サイクリング)』は初めてぴあフィルムフェスディバルに入選した短編で、自身の祖父とその姉の生活を淡々と映しながら、とある変化が起こるという実験色の強いです。
その後、東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に進学し黒沢清監督や諏訪敦彦監督の下で学び、修了制作として『小さな声で囁いて』を制作しています。
『小さな声で囁いて』はバカンス映画と呼ばれるジャンルを背骨としていますが、その骨格をスルリとすり抜けていくような独特の味わいがあります。
エリック・ロメールの作品やロベルト・ロッセリーニの『イタリア旅行』が引き合いにも出されますが、熱海を舞台として独自のスタイルが既に垣間見えます。

これらのフィルモグラフィを追っていると、今作のテーマはかなりセンセーショナルな激情を扱っているので、意外な選択に感じるかもしれません。
しかし、本編を鑑賞するととても腑に落ちます。
不思議な画角での会話シーンなど所々に実験的な精神を感じ取ることが出来ます。
そして、それらはありきたりな演出でないがゆえに、理解しがたい激情を意外にストレートに観客に届ける一因となっているのです。
まさにテーマと演出が一致した奇跡的なシーンだと感じました。
まだご覧になっていない方には何のことやらとなるでしょうが、鑑賞後ですと理解していただけるかもしれません。
そうです、あのシーンのことです。
この場面も含めて、映画館での鑑賞がとてもキーとなる映画なので、是非スクリーンでご覧下さい。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

(C)2010「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」製作委員会

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん
2010 | 監督:瀬田なつき

入間人間さんの小説を映画化した作品です。
ぶっ飛んだ女性とそれを受け止めようとする男性という構図が近い、というだけではありません。
瀬田なつき監督は山本監督と同じ東京藝術大学大学院映像研究科監督領域の卒業生です。
だからという訳ではないでしょうが、音楽使いや挟み込まれるエキセントリックな演出に同じ精神性を感じます。

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