ときどき見返したくなる映画『君の膵臓をたべたい』

 もしまだ見ていないのであれば、Amazon Primeあるようなのでぜひ見てみてほしい。おそらくこの作品に縁がなかった人からすると「ああ、そんな変なタイトルの映画があったな」くらいにしか覚えていないかもしれないが、かつては私もその部類だった。しかし、この映画を見たあとは、タイトルが表す本当の意味を知ることになる。

 ときどき見返したくなる理由を自分なりに考えてみた。できるだけ、映画を見ながら踏み込みたい核心には触れないように書いているので、これを読んだ上でさらに映画も見てみてほしい。

「好き」の始まりは「敬意」であることを強く認識させられる

 もともと「他人には興味がない」と言う主人公の僕は、最初から最後まで「人は人、自分は自分」とというスタンスで、一見すると陽キャが眩しすぎて近づけない、ただの陰キャにも見えなくはないが、そこには個をリスペクトする姿勢が常にある。
 全体的なストーリーとしては、膵臓の病を抱えていることを秘密にしているクラスの人気者と陰キャの僕、という設定ではあるが、僕の言葉や感性が、高校生にしては大人びていて、繊細で、人への敬意を大切にしている様子が僕の言動から伝わってくる。

 これまで一度も話したことのなかった人気者である同級生の、膵臓の病を知ってしまった僕は、「どうして引いたり、動揺したりしないの?」とたずねられたとき、こう答えていた。

それは、一番つらいはずの当人が悲しい顔を見せないのに、他の誰かが代わり泣いたりするのって、お門違いだから。

 もし、この映画を自分自身が中学生や高校生という同じ年頃のときに見ていたら、この言葉の中に、どれほど相手への気遣いと思いやりが込められているか、ということには気が付かなかったかもしれない。でも実際には、死に近づく恐怖を感じている当人を前にして、それ以上の言葉なんかないと、相手の気持ちに最大限の敬意を表した言葉であることに気がつく。

 映画の序盤の二人のこのやりとりは、演出としては意図的に「ただの話下手の陰キャ」とミスリードするような作りになっているが、話が進んでいくにつれて、僕が大切にする敬意というものが、彼を作り上げている根幹にあるということがわかってくる。

 半分からかいながら、好きになったことがある人が、どのような人だったかをたずねられたときは、なんとかひねり出して、

「何にでも「さん」を付ける人。」

と僕は答えている。

「本屋さん、店員さん、漫画家さん、食べ物にまでじゃがいもさんとかつけてさ、いや、なんか、僕にはそれが、いろんなものに敬意を忘れない、っていうことだと思った。」

無理やり僕のことを聞き出そうと、からかっていたはずだが、それを聞いて黙り込んでしまう。

「思ったより素敵だったから…。好きになった理由が。」

 いろいろなものに敬意を忘れないという考え方はやはりどこか魅力的で、さらに言えば、その「『さんを付けて呼ぶ』ということを魅力に感じている人」もまた魅力的なのだ。たかが呼び方一つではあるけれど、その人の人となりを表すには十分すぎるということが改めて思い出される。

呼び名が特別な意味を表している

 タイトルの「膵臓」にすべての注意をもっていかれてしまうが、この映画のタイトルの中で注目すべきは「君」だ。この話は最初から最後まで、二人は「君」と呼び合っている。これは、はじめに僕が君と呼び始めたことから始まっている。

 「君」という呼び方は距離のある関係のときに使われる二人称だが、この二人の間で呼び合う「君」には、単純に距離があることを表しているのではなく、あえて付かず離れずの距離を意識しての「君」なのだと。北村匠海と浜辺美波が演じる二人の高校生が、どんどん距離を縮めていくけれども、それでも「君」と呼び合う絶妙な空気感を作り上げている。二人が出演している作品は初めて見たが、他の作品も見てみたいという気持ちになる。

 「君」という呼び名は、むしろ特別な存在への敬意なのである。

 互いに惹かれ合う二人ではあるけれど、決して「好き」という言葉を使わないところもおもしろい。「好き」という言葉に切り取られるような簡単な関係ではなく、深く尊敬し合う無二の存在であることを表す表現として「君になりたい」、「君に憧れている」という言葉を選んでいる。リスペクトこそが互いに特別な存在たるということをうまく表現している。

1回目は僕、2回目は君にどっぷり感情移入してしまう

 初めて見る人にとっては、膵臓の病に侵されて余命幾ばくもないおてんば娘に振り回される様子に、少し疲れながら見ることになるかもしれない。しかし、この話は、後半で、そのおてんばぶりの答え合わせがある。答え合わせを見終えたあと、もう一度見るときは、今度はまた違ったの視点でこの映画を楽しむことができる。

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