スリルミー(田代×新納)考察

初見の感想は、こちらの記事に書いたイメージのにろまりでした。

ただ、一度見たあとだと、私の行動にすべて意味があるように思えてしまい……その後、私の行動の意味を考えながら観劇し、考察したのが以下です。

私は、彼の弱いところを的確に抉って、彼の気持ちが自分に向くように仕向けている。いついかなる時でも。

表面的には、征服者は彼で、被征服者は私なのですが、改めて見ていくと、私こそが征服者なのだということに気づきます。


ここからネタバレになります。

彼は「レイ」という言葉を強調して言いますが、私は「弟」という言葉を必ず強調して言います。それは、相手にとって意味のあるワードだから。

「弟」を強調するのは、他のペアでは特に感じなかったので、田代私特有のものだと思います。「弟」という言葉に彼の感情が動くと知って、意図的に、的確に、彼の弱いところを刺しにいっています。

彼が殺人を提案した理由。盗みではスリルを味わえないという焦燥感は事実だと思います。でも、その時何をすれば彼は満たされるのかわかっていなかった。それを気づかせたのは私の行動です。

それから5分ほど経って……のとき、彼は明らかに凌辱されたという表情をしている。それに対して私は満足げな表情をしている。「今はダメだ」と自ら望まなかったことに対し、しぶしぶながら私の要求を飲んだということは、彼の自由意思に基づいた合意だったとしても、ある種のレイプです。私の望みと彼の望みは、あの時点では一致してはいなかった。あの瞬間、彼は私に魂を殺され、それと同時に私の興奮と高揚感を見て、そこで殺人ということを初めて思いついた。自分が殺される側ではなく、殺す側になることでスリルと高揚感が味わえると彼は気づいたのではないかと。

殺す相手は私……ではないです。そうされてなお、彼は自分を望んでくれる私の存在を求めているから。自分の心が満たされるためには「お前が必要なんだ」と彼は分かっている。彼にとって邪魔な相手は、もちろん父親の愛情を奪う弟です。

私が弟を殺すことを反対した理由。それは、彼に取って弟が自分以上に強い感情を抱かせる特別な存在だからだと感じました。「どうせ弟の誕生日だ」という、弟に対する強い憎しみの感情を目にしたとき、私は弟に嫉妬したのだと思います。

殺す相手として、

「僕?」

「お前……以外で」

のくだりで、私は、彼が殺したいほどの感情を抱く相手として選ばれなかった。

彼が自分に抱かなかった感情を、弟に対しては抱いていた。それは、私にとっての敗北にほかならない。

その、自分が手に入れられなかった「彼に誰よりも強い憎しみを持った行動を取らせる存在」に、弟をしたくなかった。だから「別の誰か」という、彼がなんの感情も抱いていない相手を殺すという案に「そりゃいいね」と賛成したのかなと。

そして、彼も私を失いたくないから、私の要求を飲んで、弟ではない「別の誰か」で妥協することにした。

勿論、私は、殺人に対する倫理的な拒否感と恐怖感は当然持っている。ただ、とにかく弟を殺すという最大の敵は回避できた。その安堵感が気持ちを緩ませ、「誘拐とか?」と軽口叩いて、彼に賛同されてしまう。

それが戻れない道だと気づいてはいても、彼を失いたくないという理由の前では、倫理観よりも彼を選んでしまうのが私です。私には、ほかの道はなかった。

それと、「ひとつの命お前次第だ」もダブルミーニングだと気づきました。

彼「ひとつ(少年)の命 お前(少年の父親)次第だ」

私「ひとつ(彼)の命 お前(彼の父親)次第だ」

「息子の命」とは、彼にとっては子供の命のことだけれど、私は、子供だけでなく、彼の父親に向けた彼の命のことも含めて言っているんですよね。

「彼とずっと一緒にいるために、あなたの息子を罠にかけます。彼が死刑になるか、それとも金をつぎ込んで優秀な弁護士をつけて、助けられるかはあなた次第ですよ」と。

これに気づいたときに「こわっ!」となりました。

眼鏡

私の眼鏡は、機械的な思考にスイッチを入れるアイテムだと思いました。眼鏡をかけた瞬間に、私から感情が消えて機械的な動きに切り替わっているので、思考回路を策略に切り替えるアイテムなのかな?と。

眼鏡をかけてニーチェの本を読みながら、そこに書かれていた何かをヒントにして、彼を弟から解放し永遠に自分のものとして手に入れることを思いつき、眼鏡をかけて契約書を書きながら、私は計画を形作っていったのでしょう。

眼鏡をなくして(落として)焦っている私は、あれは素の私だと思います。大変なことをしてしまった、人を殺してしまった、それは私にとって恐ろしいことである。その気持ちには間違いはない。

眼鏡=策略は現場に置いてきた。そこに残っているのは、素の私。

人を殺した恐怖に焦っているのは本当だし、計略通りに行くか行かないかでハラハラしている部分もある。私が落ち着くのは、眼鏡が自分にものだと特定されて、全てを警察に話してからです。自分の筋書き通りに物事が動くと確信を得て初めて私は落ち着きを見せ、計略の一端を表情に出します。

無邪気な笑顔の裏側にある闇。

万里生さんは、こういう役が本当によく似合います。ご本人が素頭のいい人なので、どこまでが役でどこまでが素なのかがわからなくなるくらいのはまり役だと思います。

そして、彼を永遠に自分のものにした。

それは、私のエゴです。彼と一緒にいたい。ただそれだけ。彼のためには手段を選ばない策略家。それで私は幸せだったのか……。

答えはわかりません。


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