47、その少年は匂いを嗅ぎ合う

その少年は入学式後に行われた教室での自己紹介が終わり、
仲良くなりたいと思った亮平に声をかけようと近づいた。
(興味を持った亮平の自己紹介:前回の記事【46,その少年の高校入学式】参照)
https://note.com/watashiomu/n/nef10967fa5aa

亮平は上履きを履いていなく、靴下には埃が纏わり付いていた。

その少年は靴下を履いていないことを会話の入り口にしようと考えた。

ものすごく緊張しながら、その少年は亮平に声をかけた。

「上靴忘れたん?」

突然話しかけられたことに少し驚いた間の後、亮平は「…うん」とだけ答えた。


その少年はその後の会話は何も決めていなかった。
「そっか」と返し、頭が真っ白になっていた。

話しかけらた亮平も、もちろんその少年と話す内容は何もなく、
側から見れば一瞬の長い間が2人の間にあった。

その少年はしっかり考えたようで全く考えが至っていない「なんで?」という質問で、もう一度亮平との会話に挑戦した。

上靴を忘れた理由に大したストーリーなんてあるわけはなく、
亮平は「なんでって…」と返答に困った。

その少年はひとまず亮平に会話のターンを渡し、返答を待つ側となったことで少し緊張がほぐれた。

心に余裕ができたその少年は亮平を困らせたまま次の質問を考えた。

どこの中学だったのか聞こうかな、と考えてついたその少年に亮平は
「どこの中学なん?」と聞いてきた。

質問を奪われたその少年は少し慌てながら自分の通っていた中学校の名前を言った。


「んー、知らん」


亮平はその少年の中学校を知らなかった。
その少年はなぜか敗北を感じた。

その少年は亮平の中学を聞いた。


亮平の通っていた中学校はその少年の隣町で、行ったことはなかったが名前は聞いたことがあった。
しかしその少年は知らないフリをした。

自分だけが認識していて相手に認識されていないことは完敗を意味すると、
わけのわからない思考回路に至った。


亮平と友達になりたいと思い声をかけたが、このファーストタッチをミスしてはいけないと慎重に会話を進めた。

ここで舐められてバカにされるような関係にはなるのだけは避けたかった。
最悪、友達にはなれなかったとしても上下関係を構築させてはいけない。

15歳のその少年は、自己紹介が面白かった15歳の男とお互いの雰囲気を探り合った。
それはまるで散歩中に出会ったオス犬同士が匂いを嗅ぎ合っているようだった。

共通の知り合いを探ったりもしてみたが一致する人物はいなく、匂いの嗅ぎ合いはなんとなくフェードアウトした。

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