7、その少年と兄

その少年は3歳上の兄によく泣かされた。

ケンカにもならない。
その少年が一瞬で負けて、すぐに泣く。

この世の終わりのように大声をあげて泣くその少年。
3歳年上の兄に勝てる気がしなかった。


しかしいつも仕掛けるのはその少年の方からだった。
それはくだらない理由ばかりだった。


ある日、テレビでプロ野球を2人で見ていた時の事だった。

試合は巨人VS阪神。

その少年は巨人ファン。
兄は阪神ファン。

2人がそれぞれのチームのメガホンを手に応援する。

2人の中には、敵チームが攻撃の時は自分のメガホンを鳴らしてはいけないというルールがあった。

このルールを破ってメガホンを鳴らした時にはその少年の死を意味する。

その日の試合は巨人がボロ勝ちをしていた。
気分良く、余裕しゃくしゃくと試合を見ていたその少年。

阪神が攻撃の時には、
「どうせ三振だ」「打てるわけない」などと挑発する発言を繰り返していた。

でも兄はこんなことでは怒らない。
これはお互いに言い合っていることで、この行為は許されていた。


しかし、
笑いながら「ちくしょ〜」「やっぱり巨人は強いな〜」という兄の姿に、

その少年は調子に乗ってしまった。


最終回の阪神攻撃。
ワンアウトを取った時にその少年はメガホンを鳴らした。


兄とその少年の間に緊張が走った。


その少年は、


「あ、やってもた…」と死を予感した。


兄はその少年をにらみ、


「…やめとけよ」


兄は言葉と目の圧でその少年を制した。


その少年は身の危険を感じたが、言葉だけで済んだことに安堵した。


そして、ツーアウトを取った時にもう一度メガホンを鳴らしてみた。

さっきよりは弱く、小さい音で、兄の様子を探りながら…。


兄はさっきより近い距離で、その少年をにらんだ。


しかし、今度は何も言わず目で圧をかけるだけであった。

その少年は「あ、今日は鳴らしてもいけるかも」と思い、
最後のアウト、スリーアウトを取った時に盛大にメガホンを鳴らしてみた。


その瞬間、


自分の頭でメガホンが鳴った。



パコーン



気付いた時には兄が馬乗りになっていた。

あとはその少年の顔、腹、頭、
体のあらゆる所で阪神タイガースのメガホンが鳴っている。

その少年は、大声で泣く。


一部始終を静観していた父に助けを求めると、

「お前が悪い」と一蹴された。


命かながら母の元に逃げ、なんとか一命をとりとめたその少年だった。


そんな、ギリギリまでは優しいが一線を越えると鬼と化す兄と、
小学校のグラウンドでオモチャのパターゴルフで遊んでいた時のことだった。

近所ではかなり悪名高い、中川兄弟がやってきた…。


「ちょっとそれやらせてや」


つづく…。

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