5、その少年のさんぽ

その少年とおじぃはよく自転車にふたり乗りをして、街を流していた。

2人の間では「さんぽ」と言っていた。


おじぃの家でゴロゴロしていると、
「さんぽ、行くか」と、おじぃから声がかかる。

おじぃの家にいなくても、
自宅に電話がかかってきて「さんぽ、行くか」と呼び出される。


「さんぽ」と言いながら、百貨店に買い出しだったり、
銀行に行ったり、おじぃいきつけのスナックに行ったりと
目的が決まっていることが多かった。


その日のさんぽは、おじぃのメガネを新調するという目的があった。

いつものメガネ屋は、度も性も合わないから違うメガネ屋にするとのことだった。

いつものさんぽ道からは少し外れる新しいメガネ屋さん。


その少年にとっては初めての街を、ふたり乗りで走る。
知らない街にはいつもの百貨店より大きな百貨店があったり、兄や姉の小学校よりキレイな小学校があったり、見たことのない色の電車が走っていたりした。

それは自分の知識が増えていくようで、
なんだか自分が成長していっていると感じた。



初めてのメガネ屋さんでの新調は、思いのほか早く済んだ。

外はうっすら暗くなり始めた頃で、
このままだといつものスナックにでも寄って帰るのかなと、

新しいメガネの説明書を、古いメガネで見ながら店員さんの話を聞いている
おじぃをボンヤリ見ながらその少年は思っていた。


説明が終わり、「行こか」とおじぃが言った。
メガネは新しいメガネに変わっていた。

「行こか」の言い方でスナックだなとその少年は分かった。

口ごもってその少年の目を見ない。

それはおじぃがその少年がゴネるのを嫌がっている時だ。

ゴネはしなかったが、自転車の後ろで体重が重くかかるような乗り方で嫌がらせはしてやった。


いつもの街へ帰る道中、おじぃの異変に気がついた。

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