4、その少年のいろんな顔

保育園の先生は母に言う。

「この子はたくさんの顔を持っていますね」

母の前で見せる顔と先生の前で見せる顔。
友達の前で見せる顔と、おじいの前で見せる顔。

その少年は全てを使い分けていた。
その少年としては上手に使い分けているつもりだった。

その都度、成立しているその少年だった。


いつもの日課。
保育園のベランダからゴミ収集車をマサキと眺めていた。


マサキのお父さんがゴミ収集の仕事をしていて、その姿を一緒に見ていた。


実はその少年はそんなにごみ収集車に興味はなかった。
マサキが眺めているから、それをマネして興味があるかのようにその場にいた。

別に一緒に見ていなくても、マサキは怒りはしないのだろうが、
それがマサキの前でのその少年の姿だった。


ゴミ収集車を見ていると、おじぃがいるのに気がついた。

自転車にまたがり、保育園のフェンスに手をかけて、視線をキョロキョロと、
その少年を探している。

一見、完全に危ない老人だ。


先生がおじぃの元に駆け寄って話を聞いている。

先生に呼ばれる。


「おじぃちゃんが迎えに来たよ」



朝8時30分ですけど…。

まだ、来て30分しか経ってないですけど…。


その少年は少し面倒くさそうなフリをする。
これが先生の前でのその少年。


おじぃはマサキと話している。
なんの話をしているかは分からないが、マサキはすごく笑っている。


その少年は大急ぎで帰る準備をする。

この姿を先生に見られていることなど考えていない。


おじぃの元に走っていき、自転車の後ろに飛び乗る。

マサキとの「バイバイ」もそこそこに、
おじぃを急かし、自転車は走り出す。


おじぃとは特に何も話をしない。

ただ自転車に乗って、2人で街をブラブラと走るだけ。

本当は保育園にいなきゃいけない時間。
平日の昼間の街は、いつもの道がいつもと違って見えて大好きだった。

おじぃと2人で知らない街を探索しているようで、ワクワクした。


つづく…。

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