9、その少年の入学式

その日は、その少年の小学校への入学式だった。
兄も姉も行ってる小学校へついに自分も行けると、その少年は大興奮だった。

何でも兄のおさがりだったその少年だったが、
ランドセルは真っさらで「ピカピカの」という表現が正にハマっていた。


起きた途端からランドセルを背負い、朝ごはんもランドセルを背負って食べた。

髪の毛をセットしてくれと母に頼み、ジェルで髪を立ててもらう。
当時大好きだった反町隆史の様にしてくれと髪の長さも何もかも違うのに注文をつけた。

前日に買ってもらった機関車トーマスの青い筆箱に入った鉛筆を何度も削り直し、
入学式に備えた。


小学校に着き、体育館へ誘導された。
誘導する先生は保育園の先生とは違い、
かわいいエプロンをしていなかったからなのか、少し怖かった。


そして、体育館に用意されたパイプ椅子に座り周りを見回した。

知り合いは誰ひとりいない。

保育園でずっと一緒にいたマサキもアヤカちゃんもいない。

その少年の家の校区とマサキ達の家の校区は違ったのだ。

その事実を知ってはいたものの、改めて周りに誰もいないことを感じ、
とてつもなく不安になった。

保護者席に座る母の顔を探すも、見つからない。

誰かが泣いていたら、その少年も泣いただろう。

我慢比べの様な入学式が終わり、各教室に生徒達は移動した。


1年3組。

その少年のクラスとなる。
改めて、知っている顔を探したがやはり初めて見る顔ばかりだった。

こんなに自分の家の周りに同じ年の人間がいたんだと、驚いた。

そして、ひとつの事に気がついた。

みんな誰かと話しをしている。
ある所では5、6人の群れになって話しをしている。

みんな、保育園や幼稚園が同じだったらしい。

その少年と同じ保育園の子は1人もいない。
とてつもなくマサキに会いたくなった。

マサキが通う小学校に、その保育園のメンバーは通っている。
渚、大地、勇也、えり、ミク、ソウゴ…みんな同じ小学校に行っていた。

マサキは今、自分に会いたいと思ってないんだろうなと、
その少年は1人で勝手に考えていた。

楽しみにしていた小学校がこんなに虚しさを感じる場所だとは思っていなかった。

担任の先生が来るまでのガヤガヤとした教室で、その少年は悶々と考えていた。


そして、ひとつの考えに至った。

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