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生まれ変わったら

その日が去れば、もう一生会えない可能性の方が高い人と、会って最後の話をした。

その人には、最後の最後まで、できるだけ多く幸せでいてほしいと思う。その人への愛が私にはある。でも私が持っている愛は、その人が私に向けてくれている愛とは違う種類だった。私からは返せない愛だった。同じ種類の愛を返せないことは、出会ってからこれまでずっとずっと、分かりやすく伝えていた。それでもその人は私に愛を注ぎ続けてくれていた。

またいつか会えるみたいに、適当な話をたくさんした。流れで、輪廻転生を信じていると言う話をしたら、次の人生では何になりたいかと聞かれたので、私はイルカになりたいと答えた。

私は子供の頃からイルカが大好きで、幼かった頃の私はイルカショーのお姉さんを目指そうとしていた程だった。賢く、愛らしく、美しい。彼らはいつも幸せな雰囲気に包まれていて、彼らに不幸は似合わない。

私が答えた後、その人は少し驚いた顔でしばらく沈黙していた。不自然なほど長く黙るので理由を聞くと、その人も私の答えを聞いたのち、生まれ変わったらイルカになりたいと言おうとしていたのだと言う。驚きのあまり言葉が出なかったのだという。

こんなこと、後出しジャンケンと同じで、器用な人ならなんとでも合わせられる。しかしその人が、私の話に瞬発的に適当に合わせられるほど器用な人間でないことは、これまでの付き合いでわかっていた。これだけのことでと馬鹿げた話に思う人もいるかもしれないが、私は、やはり自分とこの人との間には、やや強い縁があるのだなとなんとなく思った。世間話のように来世の話をした。

人が生きて死ぬことと同じレベルの当然さで、私は輪廻転生を強く信じている。私はこの人と来世でも何かしらの形で必ず出会うことになってるのかもな、と思った。生まれ変わったらイルカになって、みんなで海で遊ぼうねという約束を交わした。

順当にいけば、その人と私とでは、私の方が後から生まれ変わる気がする。そう話すと、その人は鯨になって待っていると言った。鯨になってしばらく海を泳いで周り、他のみんなで一度小判鮫に生まれ変わって世界を旅して、そうしてみんなでタイミングを合わせてイルカになってまた会おうと話した。

イルカで過ごす20年に思いを馳せて話すと、不思議と別れが寂しくなくなった。笑いが溢れて、まずは今世を楽しもう、がんばれ、ありがとう。と話が終わった。

今生ではもうきっと二度と会うことはない。

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