素直に「ありがとう」が言えなかったあの頃。

ブルックリン地区の自宅へ帰宅途中の電車の中、すでに大雨が降っていた。
小雨程度だったら、フードかぶって対応するけど
この日は大雨。

アメリカに日本のコンビニで売られているような
クオリティーの高いビニール傘などないし

デリで売ってる黒い折り畳み傘なんて
少しの逆風ですぐにひっくり返って使えなくなる。

毎回裏切らないオチが待っているのに、そんなことにお金など出したくない。

しかも、日本のビニール傘なんかよりもっと
べらぼうに高い。

そんなこんなで最寄駅に到着
大雨が更に派手さを増す

よし、行けノートリアス。

意を決して走り出した瞬間、後ろから男が追いかけてくる。

「ヘーイ、君。ちょっと待って!」と、大声で叫びながら。

マジかよ。
この場に及んでナンパかよ・・・

私は、男の声を無視して全力で走る。
男から逃げるように。

男が、もう一度叫ぶ。
何言ってるか聞こえなかったけど
声のトーンに
心が瞬時に判断して、私も急に立ち止まった。

そして振り返ってすぐ
彼が私に近づいてきて
呼吸を整えながら
「傘。」と言ってきた。

続けて、
「僕は濡れても平気だから、この傘をどうぞ。
女の子なんだから、無理しないで。」
と。

そして、彼は半ば強引に私の手に、彼の傘を握らせて
来た道を戻るように走って行った。

嘘と優しさが入り交じる街、NY

人は悪くて普通だと思ってた当時、
私はきっと、人の優しさへの触れ合い方が
分からなかったんだと
今は、そう思う。

彼の顔は、記憶にない。







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