黒人女性と偏見

ロンドンのBethnal Green (ベスナルグリーン)に
あるフラットに引っ越した初日、
すぐ近くにあるベスナルパークでフェスをやっていて
窓からラジオヘッドのライブが聴こえてきた。

部屋の片付けに、ラジオヘッドの生のライブを聴きながらなんて
なんと贅沢なんだろう。

私がいた当時は、おしゃれなカフェもあり
少し歩けば、サンデーマーケットなんかもやっており
旬な花が、手に入る。

オープンカフェで、コーヒーなんて飲んだもんなら
映画の中にいるような感覚にすらなれる。

一駅で、ブリックレーンまで行ける。
ブリックレーンは、ロックやファッションやトラブルで
24時間賑わってるエリア

ロンドンに住んでたころ、ほんとよく頻繁に遊びに行った。

あの夜、ブリックレーンのパブで飲んでから、バスを待ってる間
耳にイヤホンを差し込んだ。

私の耳の中にだけに聴こえる、爆音のラジオヘッドで
ついさっきまでの余韻に浸りたかったから。

バスから降りて、オフライセンスで白ワインを買った。

街並みの雰囲気とほろ酔いとで
ワイン片手に鼻歌を歌いながら歩いてると
カップルが道端で喧嘩をしていた。

さっき、酔っぱらい同士の何言ってんだか
わかんない口論を見たばっかりだし
ましてや男女のちょめちょめ喧嘩なんて
私の助けなんて必要としない。

足を止める気などなかった。
私は何より、早く家に帰って
ワイン片手に、このテンションのまま
一人ディスコがしたかった、ただそれだけ。

彼らを通り過ぎようとしたとき、
カップルの女性が、私の手をものすごく強く掴んできた。
黒人の女。
すごい力。

やられるのか、私・・・
金品になるものなんて、何もない

そして白人の彼が、
「ソーリー、今、彼女と喧嘩してるだけだから。
今、彼女はエキサイティングしてしまって、気が動転しているんだ、
いつものことなんだけどね。
ごめんね、迷惑かけて。あとは大丈夫だから、どうぞ行ってください。」と。

そして彼が優しい笑顔で、私の腕を掴む黒人女の手を
解こうとする。

途端、女が
「触るな!!!!!!!」と発狂した。

その声が誰もいない道路に響き渡る。

何か違う・・・

彼女は震えていた。
「お願いします、私を置いて行かないで。」

私は、何を信じればいいのか
私は何をすることが正解なのか

答えは
わからない、だった。

そのすぐ後のことは鮮明には覚えてないけど、
今度は私が、彼女の腕を自分の脇で挟み
震える彼女の手を両手で握りながら足速に人が多い大通りに出た
それだけは覚えてる。

人通りがある大通りに出た瞬間、
彼女は全て終わったかったかのように
地べたに倒れ込んで、声を出して泣きながら
私にハグをしてきた。

「あなたは、神からつかわれたのよ。
あなたに守られる人、これからも沢山現れると思います。
ブレスユー」

あの笑顔の男は、自分の快楽だけのために
偶然にも同じ道を歩いていた彼女を
大きな公園に引きずりこもうとしていたのだ。

彼女が無事、バスに乗ったのを見届けて
ふと、我にかえると
音楽が流れたままの私のイヤホンからは
ラジオヘッドのクリープが流れていた。
















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