日記(20/7/15 am04:00)

2020年も上半期を終え、日を追うごとに部屋も蒸され始めてきた。

2月に現プロデューサーと出会いレーベル加入を決めた。それからその勢いのままMVを撮影すると程なくして今も尚続くパンデミックに見舞われ、その発表が6月6日まで持ち越された。しかしその間の4、5月に2018年の3月頃に習作を置いておく場として始め、手慰み程度に続けていたYouTubeチャンネルが爆発的に伸びるなど、端から見れば順風満帆といったスタートを切った。小林私の人生において、誰もがこの年は間違いなく転機だと言うだろうし、自分自身もそう思う。

近頃周囲の人間からよく聞かれることは「何か変わったか」ということ。「別に何も変わっていない」と返すし、実際変わっていないつもりだ。しかし、冷静になって省みてみるとやはり変わっていることはある。自分には「俺はこのままでなんとかなるっしょ」というなんの根拠もない確信がある。だから元々の生き方自体はさして変わっていない、変わったのは主に心境。"このままでなんとかなるっしょ"という確信に、ある程度の事実が裏打ちされ始めたのだ。一本目のMVで早速記事が書かれたし、明後日はインタビューもされる。Twitterではきちんとした実力とファンがついたユーザーが呟いてくれることもあれば、ここにはまだ書けないような、「そんな人までもが俺を?」という人達に知られているという連絡も来る。

嬉しい。が、やめてくれとも思う。

歌もギターも絵も脳みそも価値観も、注目に見合うほど実力が備わっていない。あるのはただ無根拠な自信と凝り固まった偏屈さだけだ。小林私のこれからの人生は順風満帆だろうと誰もが思っている、そして自分自身にも"放っておいてくれ"という気持ちと裏腹に、"なんとかなるっしょ"という気持ちが矛盾したまま、それを良しとして同居している。正直な話、小林私はどうせ売れる。一発屋になるか長生きするかは知らないが、少なくとも日本中が俺を知る。だからなんなんだ、と思う。

マズローの欲求階層に当て嵌めると、既に"自己実現欲求"に達している。簡単に言えば、音楽を始めた当初の「モテたい」という欲求がゼロになっている。余談ではあるが、それは今好きな人がいるからかもしれないし、承認欲求が満たされたからきちんと他人を好きになったのかもしれない。別に初恋でもなんでもないが、ふと思い返すとそういえば三年ぶりくらいの感情ではある。この三年間は確かに、承認を得ようと躍起になっていた。そう考えると後者がより事実に近しいのだろう。

話を戻すと、根拠のない自信に他者の目という事実だけが裏打ちされてしまった。ふとした拍子に崩れる土台の上に乗っていたのは良いとして、それが衆目に晒されてしまったのだ。崩れるのはいい、それで怪我を負うのも別に構わない、そうなったときにその自分を許してやることの方が大事だからだ。しかし今は、小林私が崩れたときに「崩れたな」と言う人間が無数にいる。それが想像するだけでうるさくてたまらないのだ。では土台作りを今からでもすればいいとお前らは言うだろう。いい加減に気付いてほしい、人にこうしろと言われてすんなり出来る人間が小林私であったなら、今こんなことを書き留めてもいないことを。

努力して、頑張って、積み上げてきたものは尊い。その過程自体がドラマティックなコンテンツになる。得ようが得まいが、何かは得れる。それでいいのかと思ってしまう。テストで良い点数をとるために勉強して、良い点数をとれば良い結果に繋がり、そうでなくても何らかの糧になり、いつまでこんなことを続けなければいけないのだろうと思ってしまう。俺達はいつまでこんなことを続けなければいけないのだろうか。生まれもった自分に負荷をかけることが社会性なのだろうか。21歳にもなってこんなことばかり考えていられるのは、やはり無根拠な成功の確信なのだろう。

小林私であるとはどのようなことか、今の時代にウケているだけの容姿がなんなのだろう、今上手いとされているピッチ感でそこそこ歌えるからどうだと言うのだろう。俺はただ思ったことを言って、考えたことを暮らしに割り振って、なんでひねくれていると言われなければならないのだろう。みんなもこう生きたら良いと本気で思う反面、誰もが素のままで生きていけるのであれば法律やモラルなんてないなと思う。でも許していけたらいいと思うし、そして俺はやはり素のままで生きていけると、本気で思っている。

未来でこれを読む自分が、こんなことを考えていた日もあったなと、それも良い思い出だと簡単に言う人間になっていたらそれは、少し寂しいがきっと喜ばしいことなのだろう。そのときは"恵日"も"残飾"もボツにしておいてください。取り急ぎ不快なことと言えば、これを斜め読みした人間から慰めのメッセージが届く未来です。


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