君のどこが好きなのかわからない

君と私は付き合っている。いわゆる「恋人」というやつだ。でも私は、君のどこが好きなのかわからない。

君は昨日も仕事で家に帰ってこなかった。連絡はない。けれど、仕事だということはわかる。君はいつも仕事をしているから。「私と仕事、どっちが大切なの!?」なんてセリフ、ドラマの中だけだと思っていた。日常の中にもドラマは隠れているんだね。決して君にはそんなこと言わないけれど、心の中ではたびたび思ってしまう。「仕事と私、どっちが大切なの!?」って。どっちも大切なのはわかっているけれど、それを問いたくなってしまうのが恋愛のサガなんじゃないのかな。

私たちはまだ愛を獲得していない。恋愛の渦中にいる。でも私は、君のどこが好きなのかわからない。仕事に打ち込んでいる姿? 私よりも少しだけ背が高くてすらっとした体型? ふわふわしている髪の毛? 時にはちょっと頼りになるところ? 肉食動物と草食動物の両方のいいとこ取りをした性格? くりりと丸い目?

私は君のどこが好きなんだろうね。きっと、今日も君は帰ってこない。何も言わず仕事をしている。私は家で一人、寂しさに耐えている。一人分のご飯、一人分のデザート、一人分の洗濯物……。二人で暮らしているのに、まるで一人暮らしをしているみたいだ。

「君が寂しくないように」って言って、始めた二人暮らし。寂しさが私から離れたのは、少しの間だけだった。君はすぐに仕事、仕事で家に帰らなくなってきたから。一人暮らしの時のほうが寂しくなかった。二つ並ぶ歯ブラシ。君のシャンプー。一人で寝るには十分大きいベッド。それらすべてが私に寂しさを与えてくる。「おまえは一人だ」って強い力を持って伝えてくる。

一人。今日も寂しさを堪え、私はこの家で暮らす。朝、一人で目覚め、パンを食べ、家事をする。昼、一人でご飯を作り、散歩をし、帰宅する。夜、一人で君を待つ。連絡は来ない。二人分のご飯を机に並べるが、それにはラップがかけられる。そしてそのまま冷蔵庫へ行き、私の明日の朝ご飯になる。

いつになったら君は帰ってくるのだろう。仕事でくたくたに疲れた君を、笑顔で出迎えられるのはいつだろう。いつ、私は最後に君を出迎えた? 見送った? もう遠い昔のことのように感じられる。「今日も帰れるかわからないけど、行ってくるね。ごめんね」。そう言った君の申し訳なさそうな顔。そんな顔の君が私の記憶の最後だ。早く笑顔の君が見たい。そうか、私は君のどこが好きなのか思い出した。君の笑顔が好きなんだ。笑っている君が大好きなんだ。だから今日も私は君のことを待っている。

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