2年半ぶりの外出とデコボコ車椅子

ディノスのカタログ通販でインナーを買った。

ウール100%でホールガーメント編み(縫い目がない筒編みのこと)のやつ。

いわゆるヒートテックみたいな見た目をしている。

インナーにウールなんて暑くないのかなという気持ちと、でもディノスがこんなにも勧めているのだからきっと何かが良いのだろうという気持ちがあった。


わたしはディノスのことを心から信頼している。ディノスのおかげで我が家のQOLは少しずつ上がり続けている。

ディノスの紹介する寝具、ディノスの紹介する家具、ディノスの紹介する家電……どれも逸品揃いだ。


秋口になり、いつものガーゼパジャマではスースーして寒くて困っていたところだった。

上からカーディガン的なものを羽織ってみても、スースーするもんはスースーするのでいまひとつ。


そして最大の問題はパジャマのボタンの隙間から素肌がモロに見えるということであった。

この問題が解決されない限り、わたしが外へ行くことは不可能に近く、外出への心理的ハードルは極めて高かったのであるが……


そこに来てのディノスである。注文後ほどなくして届いたインナーはこの上なく暖かく、肌触りが不思議なほどに良く、汗を放散する力もあった。

触覚が過敏すぎて着られる服がこの世にほとんどないわたしにとって、それは完璧なインナーだった。


わたしはディノスのインナーを身に着け、自信を得た。

もうパジャマをボタンのところで鷲掴みにされて両手で引き裂かれたとて素肌は見えやしない。


そうこうしているうちに小腹が空いてきたので、おやつを食べに庭のテーブルまで出ると快晴だった。

晴れていると何もかもが良く見える。

わたしはついに声に出して言った。

「今日こそガレージの外に出たい」と。


わたしの家は謎の間取りと段差の多さを誇るため車椅子のまま玄関を通って外に出ることはできない。

庭からガレージを通って出ようにも草木の手入れが追い付かず荒廃していて車椅子では通れなかった。


そこを工事に取り掛かったのが今年の始め。

完成した4月の頭には、世界を例のういるすが席巻していて、今よりもずっと危機感の強かったわたしは、こわくてガレージのシャッターを通ることなんて出来やしなかった。


そうして閉ざされた扉のようにシャッターはそこに有り続けた。

外に出られなくなって2年半が経ってしまうと、【外】というものがRPGゲームの隣の大陸くらい遠い世界のように思えた。


しかしそんな壁とも今日でさようならだ。条件は整ったのである。

ジャングルのような草木と蚊に襲われて、庭に敷いたコンクリートの道を通って、シャッターの向こう側に開いた景色を見た。


やっぱりだ、と思った。

ドラマや映画のようには感動しなかったからだ。


ドラマや映画はあくまで想像の世界の出来事だ。

そしてそれを作っているのは健康な人が多いのかもしれない。

きっと知らないのだ。

「意外と感動しない」ということを。

「意外と感動しない」という情報を脚本家の人に教えて差し上げたらどんな反応をするのか気になるな、と思った。


この感覚は前にもあった。

家の中から、2年ぶりに庭に出られた時のことだ。

あの時も、どんなに感動するのかと思っていたら、想像以上にあっけなかった。

ただただ空が綺麗なことだけは事実だった。


2年半も家の敷地の中だけで過ごすなんて経験、そうできることではないはずなのだが、シャッターの向こう側は別に昔と何も変わっていないので驚くことは特になかった。


ただ、めちゃくちゃ楽しかった。

空は青いし、右を見ても左を見ても、建物がザッと並んでいて、奥行きがあって、わたしが日々視界に入れている物体の構成とは違っていた。

外の緑はうちの庭と似たようなものだった。

むしろうちの庭の植物の育ち具合はマジでハンパないことがわかった。



家の前の古んだアスファルトの道は酷くガタガタしていて、進めば進むほどに腰が砕けるかと思った。

でも砕けなかった。

しかしこんなにガタガタしていたんじゃこの道はあんまり通りたくないな、と思った。


継ぎ接ぎのアスファルトの道の中には新しく施工した部分もあって、そこは割とツルツルしていて進みやすかった。

問題だったのが、道が思ったより水平でなく、中央が山のように盛り上がっていることだ。

自分が折り畳み式の車椅子を使っているからなのだが、山の頂の部分を上手く通れないと、車椅子のどちらかの肩が下がる形になる。

すると、座面下の金属の骨組みのXに交わっている部分が歪むため、椅子の座面が捻じれてしまう(キャンプ用の椅子の骨組みを想像してほしい)。

これがめちゃくちゃ腰にくるというか、尻の部分で踏ん張らないとマトモに水平に座ってられないのである。

自分で操縦できればまだいいのかもしれないけど、わたしは手が痛いのと疲労で腕がすぐ動かなくなるので、親に押してもらっているから、良い道を選ぶのが難しい。


外用の折り畳みじゃない車椅子がほしいなあと思ったけど、もろもろ難しそうで先行きを考えるとウーンという思いではあるが、まあ、外に出られるようになっただけでかなり面白かったので、今はそれを楽しもうと思う。

あと、WHILLって電動車椅子に乗ってみたいなーと思ってたんだけど、座面の調子はどうなんだろう。足とか脚にあたって痛くないなら乗りたいんだけどなー。

めちゃくちゃ楽しかったからか、ガタガタで疲れたとか痛いとかもあんまり思わず、緊張からくる慢性疲労症候群の症状もでなくって、全体的に良かった。

時間にして5分くらいで、家の前の道の角を曲がる手前くらいまで行った。

また晴れてる日に出たいな。晴れてると何もかもが良く思えるから。


ディノスありがとう

ディノスを褒めよ

讃えよディノスを


〜『ディノス讃頌』〜


おわり




HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞