【16日目】ウルグアイ牧場滞在記2019
DAY 16 2019/09/10(火曜日)
夜中、頭痛で2度目が覚める。
一昨日からの乗馬で体中が痛い。
頭痛薬を飲んで、眠り直す。
6時15分起床。
クラッカーとジャム、ホットミルクを飲む。
曇空で生暖かい風が吹いている。
また雨が降り出しそうだ。
朝一番に乗馬の準備をし、一部の馬には口径で投薬している。
馬は歯茎をむき出しにして苦そうな顔をしている。
そこからアベルと共に3時間の見回り。
9月は牛や羊の出産ラッシュで、胎盤を垂らした牛や、
生まれたての子供たちが立ち上がろうとする光景を至る所で見ることが出来る。
しばらくすると、アベルが投げ縄を回しながら羊を追いかけている。
逃げる羊の後ろ姿からは、子供の顔が出ている。
投げ縄はみごと羊を捉え、すぐさま出産の手助けをする。
僕も駆けつけて、母羊の体を押さえる。
どうやら片脚が引っかかって、うまく出てこないようだ。
アベルは産道に手を突っ込み、脚を探す。
少し力を入れて手を引っ張ると、するりと体全体が出てくる。
子供は息をしていない。呼吸が出来なかったため、
目の周りが紫色に変色している。
すぐさま後ろ足を持ち上げて、上下に振る。反応なし。
再度持ち上げても反応がない。
これは無理かも、、、と思うが、アベルは動作を繰り返す。
するとゲフッと空気が通ったような反応がある。
何度か繰り返すと、子供は鳴き声をあげる。
アベルはニコッと笑って、さあ行こうとすぐに立ち去る。
遠目から母羊が子供を舐めている姿が見えた。
9月は出産ラッシュであると同時に、死のラッシュでもある。
今日は、3匹の子羊、1組の親子が死んでいた。
死んだ数をカウントするため、見つけた亡骸の片足を切断する。
人為的な行為によって、既に発見されたものかを識別する。
ある母羊は息をしていたものの、出産時に内臓が出てしまったのだろう。とても衰弱している。
これは助からないため、苦しまないよう頸動脈にナイフを入れる。
近くにいる子供も息はしているものの、害獣に食べられるだろう。
いつもアベルは陽気に熱唱している。
この動画の最後(7’50~)でも馬に乗って熱唱しているのはアベルだ。
本気の走りでは未だに振り落とされそうになるものの、中速の走りは快適に乗馬出来るようになってきた。
デコボコのあぜ道や、ぬかるんだ道、川を渡ったり、
人間でもきつい坂道を馬は軽々と登っていく。
たまに脚を取られてバランスは崩すものの、コケることはない。
車も入れない、人も歩けないような場所を馬は超えていく。
この仕事にガウチョと馬が必要な理由がわかる。
ガウチョたちがパドックを見回り、些細な異変が無いかを確認する。
こうすることで、15000分の1の命を守っている。
帰り途は他のガウチョたちと合流し、6頭並んで馬を走らせる。
かっこいいなあと見送っていた光景が、今は一緒に並んで走っている。
ベースに戻ると、まだ10時を少し過ぎたくらいだ。
途中でやばいなと感じつつも、体調は悪化してきている。
髪をかき上げると、頭皮神経痛は治っていた。
痛風のように、風が吹いただけでもチリチリとした痛みをこの10日間くらい頭皮にずっと感じていた。
恐らく、四六時中ニット帽をかぶり続けていたせいだ。
しかし、乗馬による痛みと身体の疲れのなか、
頭皮が神経過敏になっている場合ではないということなんだろう。
今朝まで感じていたチリチリとした痛みがすっかり無くなっていた。
部屋に戻り、すぐに薬を飲んで眠る。
11時半にはショセリンが食事を運んできてくれる。
量は少なめにして済ませ、すぐさま眠りにつく。
午後の仕事まで2時間ある。ここで回復してまた仕事に出たい。
しかし、起きてみると熱は出ているし、これでは仕事は無理だ。
ニコに風邪ひいたから午後休むと伝えてと言い残し、すぐに眠る。
頭は熱く、体は寒い。
夕食時まで眠ると、ウゴーとショセリンが心配して見にきてくれた。
ショセリンのご飯は美味しく、思ったよりも食べることが出来た。
食後に甘いレモンティーと薬を持ってきてくれ、体も温まった。
聞き取れないものの、何か必要なことが合ったら何でも言ってね、と言い残してくれる。優しい。ありがたい。
薬はパラセタモールだ。
昨年イギリスに行った際、4人中3人が風邪をひいて病院に行った。
恐らくインフルエンザなんだけど、出された薬はパラセタモールのみ。
パラセタモールはただの熱さましだ。
イギリスでは日本のように抗生物質は使用しないそうだ。
抗生物質を使っても、さらに強力なウイルスを作ってしまう。
人間の自然治癒力も落ちてしまう。
辛い症状は押さえるけれど、ウイルスは自分の免疫力で回復せよ、ということらしい。
とにかく水分を取って寝てください、とだけ言われた。
ウルグアイも同じ考え方のようだ。
ここに滞在できるのもあと10日。
一日でも無駄にしたくない。