【26日目・最終日】ウルグアイ牧場滞在記2019
DAY 26 2019/09/20(金曜日)
SAN RAMON最終日。
4時半に目が覚めたので、星を見に外へ出てみる。
月が明るく、天の川は見れなかったけれど、
晴れている日には天の川が見える。
地面には一面の糞が広がっているので、
寝転がって星空を見れなかったのが残念だ。
家へと戻り、荷物をまとめていく。
朝一番の仕事は、羊への口径の投薬と、
ダニ予防の薬を体に塗っていく。
(ダニ予防)
11時に仕事は終わり、最後の食事。
(昼食。初日に食べた羊肉のフライ、大好きなミラネサ)
久しぶりのシエスタでたっぷりと1時間ほど眠る。
午後一番の仕事は、投薬を済ませた羊たちを隣のパドックへ移動させる。
およそ2000頭の羊達を、僕を含めた4人のガウチョが連携して誘導していく。
隙ができると羊たちはバラバラに散らばってしまうため、
隣のガウチョと、羊との距離を図っていく。
グループから遅れを取る羊たちには、
甲高い声や、ドスのきいた声、口笛などでグループに追い付かせる。
15分程度で誘導は完了。
帰りに見つけたテロ(鳥)の卵。
「あった!あった!よっしゃー」と興奮気味に叫んでいるのをみてガウチョたちは笑っている。
先と底を少し割って、ちゅるっと吸い込む。鶏の卵よりも美味しい。
続いてパドックの見回りへ。
最後の見回りもアベルと一緒だ。
アベルは何かと気にかけてくれ、一番仲良くなった。
(おなじみのキメ顔。自ら服をはだけさせる演出)
まだまだ出産と死のピークは続いている。
特に子供たちの死骸と、出産時に死んでいる親子が多い。
100ヘクタールはあるパドックを、二人でくまなく見回っていく。
羊達に近寄っては、一頭ずつ異常がないか確認し、
遠くに死骸が見えれば、近寄って脚を落としていく。
アベルが投げ縄の準備を始める。
その先には、破水し、子供の前脚が産道から出ている羊がいる。
林の中での投げ縄は難しく、それでも2度目で羊の脚に縄がかかる。
すぐさま駆け寄って、子供の顔を引っ張り出す。
身体はゆっくりと出てきて、引っかかる骨盤を引っ張り出す。
胎盤が体に付着し、まっ黄色な子羊。
僕は胎盤を母親の顔にこすりつけ、子供の匂いを認識させ、
すぐさまその場から立ち去る。
(羊から離れてから、投げ縄をまとめる)
泥だらけで黒ずんだ母羊の身体からは、子供の顔がでている。
お腹は何かに食べられて、ぽっかりと穴が開いている。
死後数日経ち、体が腐っていても、脚を落としていく。
子羊が倒れる親羊の元で鳴いている。
親羊は心臓発作か何かで、意識が朦朧としている。
アベルが何度も何度も立ち上がらせようと手助けをするものの、力なく横たわる。
もう助かる見込みはない。
頸動脈にナイフを入れると、青々とした草の上に鮮やかな血が滴っていく。
別の場所へ移動すると、またアベルが投げ縄の準備をしている。
目を凝らしてみると、母羊から子供の脚が出ている。
羊によって体力は様々で、この母羊はこんな状態で1㎞以上逃げ回った。
2人で必死に追いかけ、挟み撃ちにしたところで、最後は降参したように、その場にしゃがみ込む。
すぐさま身体を押さえ、また出産の手助けをする。
逃げ回ったせいか胎盤は無く、子供の身体は白くぬるぬるとしている。
母羊の顔に体液を塗り付け、子供を顔の近くに置いて立ち去ろうとしたところ、母羊は逃げ去ってしまった。
すぐさまアベルが追いかける。
続いて僕も挟み込むようにして追いかけていく。
しばらく走り回り、子供から数百メートル離れたところで、
再度観念したようにしゃがみ込む。
僕は母羊の身体を押さえ、アベルは生まれたての子供を取りに向かう。
手綱を左手に、子供の前脚を右手に持ったアベルが走ってくる。
すぐに子供を受取り、膣に付着している体液を母羊の顔に塗りたくる。
その間にアベルは馬を遠くに移動させる。
アベルが戻ってきたところで交代し、僕は遠くから馬と共に見守っている。
アベルがその場を離れると、またしても母羊は逃げ出してしまう。
匂いを認識できていることを願い、僕らはその場を離れる。
すでに17時20分を回っている。
そろそろベースに戻ろうと、
まだ見終えていないパドックを、2人で手分けして回っていく。
子供が膝をたたんで必死におっぱいを吸っている。
まぶしい西日を背に、シルエットだけがきらきらと輝いて見える。
アベルが指さす方向をみると、先ほどの母親が子供の元へ戻っていくのが見えた。
帰り道、フアンとホセ・マリアに合流する。
こうしてガウチョたちとで並んで馬を走らせるのも最後になる。
4時間の見回りでお尻は痛むけれど、
とても誇らしい気持ちで小屋へと向かう。
小屋では他のガウチョたちが僕らの帰りを待っていて、
到着するとすぐに、鞍をはずして馬を開放する。
始めは15分で言うことを聞かなくなった愛馬も、
最後は最高のパートナーになってくれた。
身体を水で流していると、
「そんなことはいいから、早くくつわを外してくれ」
と言っている。
アルバロとミゲルはすぐにでも出発しそうな雰囲気だ。
埃まみれの作業着を丸めてビニール袋へと入れて、
バックパックの奥に突っ込む。
すぐにシャワーを浴びて、1ヶ月分の垢を落とすと
灰色の泡が排水溝へと流れていく。
ショセリンに挨拶をして、残っているガウチョたちに挨拶をする。
マテを手に奥から出てきたアベルとも、挨拶を交わす。
彼の目にもうっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。
最後は
「Chao Gauchos Buffaron!」
と別れを告げ、笑い声が響く中、車に乗り込む。
久々の舗装された1本道からは、大草原と夕日だけが見える。
車の中で話すことが見つからず、「きれいな夕日だね」と
ずっと外を見つめている。
この夕日が沈むと、僕の人生で最も美しい26日間が終わる気がした。