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比企能員の変_03 千葉純胤の時空移動

純胤は話し続けた。

「阿野全成が殺された時点での北条時政はもう挽回の打つ手なしまで追い込まれていたと思われます。確か武田信光が補足し、八田知家によって誅殺されたはず」

「武田も八田も特に比企派でも北条でもなく。将軍である頼家の意思に従う立場。この重鎮二人が動くことは即ち頼家の意向。頼家自身も北条を追い落とす意思を固めた証拠」

「そこにきての頼家の危篤。流れは一挙に一幡と比企家へときました」

「ここからが謎なんです。比企家の意向と嫡男が一幡であることを考えたら、すんなり全てを一幡が継承するところ」

「それを北条時政が『全国の地頭職の東半分を一幡に西半分を千幡へ』と割譲を発布します」

ここまで話して純胤は成胤へ問うた。

「北条時政のこの割譲は比企家はおろか他家も受け入れれるものですか」

「いや、割譲は鎌倉の対立を招くだけ。京も西国武士も西に控えている中、一幡様か千幡様か決まらないと東国自体が危うい」

「そうですよね。割譲は東国で望むものはほぼいないでしょう。仮に割譲案を出すにしても力を掌握している比企家が発布するならまだしも。これには比企能員は黙っておれません」

「僕はこのイケてない発布は内容には意味がなく、北条時政がイチかバチかの賭けに出たんだと思います」

成胤はハッと気づいた。

「純胤。割譲自体が比企能員殿をおびき出すためだったということか」

純胤は左様と答えた。

「比企能員としては北条時政に問いただし、あらためて一幡へ東西すべての地頭職の継承と纏める必要があります」

「ここからが謎です。比企能員は北条時政と会わなければならないが、なぜ『北条邸』で『軽装』だったのでしょうか」

「場所に関しては北条時政を呼びつけてものらりくらりとかわされるだけでしょうから、急ぎまとめるとなると誘いに乗るしかなかったかもしれません」

「しかし軽装で供も幾人かだけというのは無防備でした。比企能員としては軍勢を引き連れての会談をすることで臆病と思われたくはなかった。今後の御家人達の政治掌握を視野に入れると平服で堂々と交渉しにいくことで自身の格を上げたかったのではないでしょうか」

「それに対して北条時政は殺るか殺られるかの瀬戸際なので、比企能員の首を取る気満々です。周りがどう思おうかなど構ってられないです。比企能員が軍勢を引き連れて北条邸へ向かっていたらかなり違っていたのでは」

純胤はここまで一気に語り、一息つくもまた話始めた。

「北条時政は劣勢の中、かなり強引に頼家・一幡・比企家と一掃しました。今や千幡の外戚として再び権力の中枢を握ったのです」

「再びどころではありません。今までと違い、自分より格が上で力もある宿老が障壁でいるわけでもなく、他に有力な外戚がいるわけでもなく、千幡自体が幼いのでなにか咎めを言ってくるでもない、まさに絶対の権力者です」

「しかし鎌倉の動乱はまだ終わりません」

純胤はそこまで言った最中、純胤の周りに突如として濃い霞がかかり、ものの数秒で霞ごと、また忽然と消えた。




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