【β版】千葉篤胤の転生記_05

昨日もまた急に眠気が来て眠ってしまった。うーん、僕にとって昨日だけど、昨日起きたときは翌日でなく3日後だったし。そもそも次起きた時は元の世界なのかもわからず、目を開けてみると、また昨日の昨日にみた、ただ広い部屋に再び寝そべっていた。とりあえず昨日と同じ時代であることは認識完了。

「おー、起きたか」

と、じいちゃんにそっくりなこの館の主(で合ってるのかな?)である常胤(ツネタネ)が勢いよく襖を開け入ってきた。そして藪からぼうに

「篤胤(アツタネ)か?そうじゃろ?それともまだ違うか?」

と声をかけてきた。もしかして毎日確認してるのかな。僕からすると毎日だけど、どうも僕が現れるのは毎日でなくて幾日かあいてるようだ。

「篤胤です。おはようございます」

「おー、今日はいたか。7日ぶりだの。篤胤ひとりか。しかしまた師常(モロツネ)の読みは当たったな。あいつは最近ずっと篤胤のことばかり巡らせておる。いまこの可能性があることも言ってたわ」

ひとり...そうそう、この中にいるときは僕の意識だけ状態か元の人の意識と一緒なのかがあるが、今は僕一人のようだ。ほかの意識を中に感じない。

「一人です。師常の意識は感じませんので」

ちゃんと声も出る。皮膚感覚もある。一人意識の時はちゃんと体も僕が使える状態だ。

「師常はここにいるぞ。師常!」

また襖がざっと開き、人が入ってきた。えー、師常殿だ。

「またまた、はじめましてかな」

えっ、じゃあこの体誰?

二人の体面に割って入るように常胤殿は語り始めた。

「師常は言っておった。たまたま自分に続けて篤胤が現れたが、もしかしたら師常以外にもこうなる場合はあるのではと」

隣に師常がいるんだから師常殿に話させてあげればいいのに。

「ではこの体はどちら様?」

「我が五男の胤通(タネミチ)じゃ」

五男の方、真面目な方でしたっけ。息子さん多すぎであまり覚えておらず。

「ちと篤胤に付き合っていただきたいことがある。入れ」

常胤の声と共にまたまた襖がガッとあき、ぞろぞろ入ってきた。3人。

「我が息子たちじゃ。左から順に 胤正(タネマサ)、胤盛(タネモリ)、胤信(タネノブ)」

昨日にざっと師常から説明受けたけど、ぴんとこない。誰がどうだっけ。と考えを巡らしてる中、常胤が話を続ける。

「儂と師常は篤胤が未来からきた子孫と思っておる。ただほかの者たちはやれ物の怪だの血迷うたなど申す。ここは皆でしっかりと白黒をつけようでないか」

まあ、物の怪の類と思うのも無理ないですね。実際、自分自身が半ば信じきれてないし。しっかりは大事だね。白黒か…白黒?白黒って、これ物の怪って結論なったらどうすんの?

(胤通の体の)篤胤は常胤を見るも、常胤は力強く頷いた。

「まずは胤正、胤盛、胤信。こうやって篤胤殿と話すも見るもはじめてじゃからなにかあればまず申せ」

この声にこたえて3人の中で一番左の人が語り始めた。一番年上ぽいから長兄の胤正?

「まずは長兄である私から。父上は皆で話すとおっしゃいましたが、五男の胤通は今この状態で意見を述べれず。六男七男の胤頼と日胤も今は都なのでここにはおりませぬ。このような迷い事の審判をわれらで決めてしまうということでよろしいですか」

「構わぬ。胤通はしゃべりたくともしゃべれぬ。胤頼と日胤もここにいないから仕方なし。われらで出す答えは総意とするでよかろう」

「承知です。では。さんざん父上と師常よりここ幾日かの師常に起こったことは聞きました。妙見様の思し召しとか。この奇妙なことがどう妙見様の思し召しかは皆目見当つきませぬが、私としては承知できぬ話です。心優しき師常が、父上のここ最近の気苦労から浮かんでいる救い話に付き合ってるのではと思っております」

えー、師常って、なんか快活でキレキレ感あったけど、そんな心優しいキャラなのかーと思って、師常をみると顔がちょい引きつり気味。あー、ころディスってるのかな。長兄次兄仲悪い?

「この度、胤通にも乗り移ってるようですが、胤通も真面目な面持故、父上を気遣っていまこうしてるやも。私としては乗り移りが私自身にあれば信じれます。もしくは合理を常とする胤盛か実直な胤信に乗り移ってこのありさまならまだしも」

まだ話し終わらない中、師常が語り始める

「兄上は手厳しいですな。私一人が乗り移ったと話しているならまだしも。胤通の中にいま篤胤はいるのだ。私には判ります!」

「まあ待て。胤盛、胤信はどうじゃ」

右にいた一番でっかくてごついのが語りはじめた。これが力が滅法強い胤信かな?

「親父や兄上達は難しく考えすぎよ。いま胤通の中に未来人がいるんだろ?割ってみればいい。そしたら2人になるだろ。」

ちょっとこの人アブナイ人だ。力業すぎます。それたぶん死んじゃいます。

常胤はやれやれという顔をして、残り1人の一番小さい胤盛(と思われる)の顔をみた。それに察したのか語り始めた。

「私の知る限り、古今東西怨霊が取り憑くとか、ご先祖様が乗り移るとか聞いたことはあるが、未来からというのは聞いたことがありませぬ。怨霊が取り憑くのは恨みを晴らすため。ご先祖様が乗り移るのは子孫を助けるため。いずれもあの世をさまようている中、現世に影響を与えるのです。未来からいかように来るのか、あまりに視えぬことではありますが、未来から子孫が乗り移る意味とは何ぞや。やはり子孫の世の自分にとっての祖先を助けるためではないでしょうか。では何をもって助けることになるのか。それは子孫が巡り巡って子孫としている推移を予定調和の如く、われらに歩ませたい故ではないでしょうか。ならばわざわざこの世に来たのはわれ等の行く末を大きく決める何かが近々あるからではと思っております。故になぜここに来たのかを未来人なら知っている。なにも知らぬし影響もないなら、それは物の怪の類でわれらを困惑しようとしているのではというのが私の見立てです。」

「未来人よ、この時代に一体われら一族に何がおこる。そしてなにをするのが子孫が800年も繁栄する道か。お答えください。さもなければ胤信にいっその事託そうかと思うのですが」

胤信に託すってぶった切るということですよね。胤通しんじゃうよ。それに何となく自分でもここに来た意味合い的なことのキーは薄々感じていて、前に師常にも聞かれたことでもある。そう源頼朝の挙兵のことだ。ここに至っては僕も覚悟を決めた。

「わかりました。僕もなんとなくここに来た意味を感じています。きっとこのことを皆さんにお伝えすることなのかなと。自分でも未来の事話しちゃっていいのかなとは思い悩んでたんですけど。実は近々、源頼朝が挙兵します。そういう歴史を学びました。ぼくのおじいちゃんからもよく『常胤と息子たちが頼朝を支え』と聞かされました。きっとそのことが関係していると思います。」

言い終わるか終わらないうちに、みな一斉に話し始めた「なぜ挙兵?」「伊豆からどうして」いろいろ言われたけど、また頭がぼうっとして意識が遠のいていった。




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