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【懐】義時・信光・胤通〈転生記外伝〉

江間義時と武田信光、千葉胤通は鎌倉の浜辺から海原を見渡していた。

若き頃から心を通わせていた三人だが、こうして三人だけで逢うのはいつぶりだろうか。信光が義時へ声をかけた。

「相模守に任じられたそうだな。おめでとう」

義時はありがとうと照れくさそうにはにかんだ。

胤通が重ねて語る。

「僕は国分でちょろちょろでやっとやりくりしてるのに。方や甲斐・安芸の守護で、方や相模守。凄いよね」

信光は千葉一族が兄弟仲良く結束固く皆で下総を分け合っているからそれもいいじゃないかと返した。

しばらくぶりの語らいを三人で楽しんでいたが、胤通がせっかく持ってきた弁当があるからちょっと取ってくると林の方へ離れていった。

しばらく義時と信光が少し歓談していたが、おもむろに信光が声を落ち着かせながら義時へ訊ねた。

「時政殿の情動は変わらぬか。あのまま続けられると鎌倉は不穏のままだぞ」

義時の目は険しくなっていた。信光は続けた。

「私は友として提言する。御前が北条に戻れ」

「なにも北条家の嫡男に戻れとは云わない。せめて御前が北条に戻り、時政殿の専横を諫めないと鎌倉の御家人の心は離れていくぞ」

義時は黙ったままであったが、信光は続けた。

「御前は時政殿の奥方である牧の方に遠慮しているのか。すでに嫡男になった政範は急逝してしまった。ここからは誰をどう北条家嫡男に連れてきても時政殿のあがきでしかない」

ようやく義時は口を開くも、もう俺は江間家だとだけ呟いた。信光は続けた。

「御前の心持は判った。ただこれだけは云っておく。速目に腹を括らないと私と私の父の様になってしまう。手遅れになると取り返しのつかない惨禍へと膨れあがるぞ」

そこまで信光が弁じた中、胤通が弁当を持って戻ってきた。三人は弁当を召し上がりながら語り合いを続けた。



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