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千葉篤胤の転生記_09~治承・寿永の乱

ここは下総、千葉一族の館。ほぼ出かけの多い胤盛であるがしばらくぶりに館へもどった。庭先の机に向かって筆をとっている胤通を見つけ「胤通!」と声をかけるも振り返った胤通の両目は真っ赤な目をしていた。完全篤胤モードである。

「すまない。胤通でなく篤胤か。なにをしている」

篤胤は考えをまとめている最中と答えた。

今まさに平氏がこの世の全てを取り込んでしまう勢いが進んでいて、そろそろ日本全国を巻き込んだ争乱が始まる気運は感じるが、肝心の頼朝がシンボルとしての奮う感がゼロなのが頭を悩ませている。

下総の隣の上総も国主は平氏一門に替わったため、実際に治めている上総広常とも喧々諤々していると聞く。

今後の歴史の流れで変わる事がないならほっといても頼朝本人がやる気を出して挙兵するものなのか、それとも頼朝が立たずに歴史が変わってしまうのか。

篤胤は自分がいた世界にいた頃に先祖である千葉一族をネットで調べた時を何度も思い出そうとして記憶を辿っていた。

頼朝とご先祖が立つ前に確か挙兵した話があったはず。たしか「ナントカ王」とか言った名前。王ってつくのだからたぶん朝廷の誰かであろう。

篤胤は胤盛に朝廷のだれかが今の状態に不満を持ってそうなのはいないか聞いてみた。胤盛は胤頼なら朝廷にいるから分かるかもと答えた。

胤頼といえば千葉氏の兄弟の6番目で、まだ篤胤が会ったことのない最後の1人だった。確か千葉氏で一番官位が高いらしい。

胤盛からは
「都へ行くか?また明日から信濃へ少し出かけるから途中までなら一緒に行ってもいいが」
とのことだったので、篤胤はこれは行くべきでしょうと二つ返事で答えた。

結局、京に着くまで胤盛にはずっといてもらった。胤通は1人で京まで着く自信がなかったらしい。篤胤としても不安なまま路頭に迷うより胤盛には面倒かもしれないが出来るだけ着いてきてもらって助かった。

京は壮大な建物に挟まれ広い道に人も馬も、いや馬より牛が多い。やけに朱色がかった建物が多い。下総とは大違いだ。大通りの向こうに立つ1人を胤盛は「あそこにいるのが胤頼さ」と指をさした。

「はじめまして。本当に目が真っ赤なんだね。赤いの片目だけど胤通にそのまま語り掛ければ篤胤にも伝わるって事でいいのかな?」

胤頼が話始めてすぐ胤盛は行かねばとササッと去ってしまった。胤頼は胤盛の後姿を見ながらいつも忙しいねと呟いた。胤通は込み入った話は篤胤と胤頼でしてほしいとだけ篤胤にポツリと伝えて意識下から外れてしまった。胤通の眼はみるみるうちに両目とも朱の眼となり、完全篤胤モードになる。

「胤頼、初めまして。篤胤といいます。ズバリ聞いちゃうんだけど、俺がこの時代の事を調べた時、頼朝挙兵の前にだれか挙兵していたよ。ナントカ王という人が。だれか朝廷で王がつく人で平氏に恨みを感じている人はいないかい?」

「篤胤。胤通がしゃべってるけど全然胤通ぽくないね。面白いよ。さあ質問への答えだけど王が着く人は何人かいる。しかし恨みを持っていて更にそんな大それたことが出来る人はたった一人さ。以仁王だ」

胤頼より聞いた「モチヒトオウ」という響き。篤胤の記憶がなんとなく蘇る。そうそう以仁王だ。その名前だ。

胤頼は以仁王が挙兵する可能性を挙げた。ひとつは皇位継承による順。いまの高倉天皇は以仁王の弟らしい。この時点で以仁王は複雑な思いをずっと持ち続けていたと思われる。

更に高倉天皇は生まれたばかりの自分の子を次期天皇候補として皇太子にし、以仁王自身の所領もこの前の清盛の軍事行動の折に結構没収された。

以仁王はもう帝になるチャンスはほぼなく、どれもこれも平氏がゴリ押し続けた故の不幸と溜め込んでいる様子。

またそんな以仁王を八条院という後白河法皇の妹が継子として保護しているので八条院と以仁王の周りには半ば公然的に反平氏メンバーが絶えず出入りしているそうだ。

「僕もその一人なんだけどね」と胤頼は飄々と答えていた。

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