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書を捨てよ、町へ出よう。

「ラクロスがうまい」ということを掘り下げていくと、下記の4点に集約されると思う。というか、ラクロスに限らずすべての「リアルタイムで進行していく競技」に共通する。

(1)知識

ルールやセオリー、戦術、体の動かし方など、ラクロスに関わる全ての要素に関する知識。
(2)プレイ中の情報収集
首振りや視野どり、コミュニケーションなどを通じて、刻一刻と変わる状況をリアルタイムで情報収集する能力。「知識」が無いと、適切な情報収集ができない。
(3)判断
(2)で集めた情報と、(1)の知識を照らし合わせて、瞬時に「次の瞬間何をすべきか」の選択肢を作り、選ぶ。スピードと正確さの2軸が求められる。
(4)身体操作
選択肢を実行するべく、体を動かす。

「ラクロスをうまくなりたい!」と思ったときに、多くの人は「身体操作」を伸ばそうとする。シュー錬、GB、フットワーク、チェック、パス。その選択は必ずしも間違っていないが、ベストでは無い可能性がある。

(4)だけができても、実際の試合の中でパフォーマンスを発揮することはない。(1)~(3)も一緒に「バランス良く」伸ばしていく必要がある。

左手でのスタンディングシュートを例にとってみる。
シュートの身体操作を分解すると、こんな感じだろう。
・シュートの速さ
・コンパクトな振り
・正確性
・同じフォームでのコースの打ち分け
・ゴーリーに球の出どころがわかりにくいフォーム
・捕ってから打つまでを短く

これらを突き詰めてめちゃめちゃ良いシュートを打てるようになったとしても、試合で打つことがなければ、何もしていないのと一緒だ。

・どこで打つの?
・そこで打つためにはどうボールが回ってくるの?
・事前にどういう仕込みをしたら、低い位置で貰えてかつ対面のDFが間に合わないの?
・そうやってボールが回ってきたときに、ゴーリーはどんな状態なの?

試合で効果的なシュートを打つには、例えばこんな知識、情報収集、判断が必要だ。これがなければ、良い位置とタイミングでボールをもらうことができず、結果シュートを打てない。

身体操作は、スポーツにおいて非常に「わかりやすい」。結局スポーツにおけるアウトプットは体の動きでしかないから、その前の知識や情報収集、判断はあまり見えない。

しかし、特にラクロスのような、リアルタイム性が強くて展開が早い戦略的なスポーツにおいては、その目に見えない部分が8割方を決める。

「めちゃめちゃ練習してるのに、試合でうまくいかない」という人は、ぜひ一度その「練習」の内容を疑ってみてほしい。身体操作だけにこだわりすぎているかもしれない。

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さて、ここからが本題だ。

スポーツで成長したいと思ったときには身体操作に目が行きがちだが、もっと一般的に「成長したい」、「スキルを付けたい」、「価値観を広げたい」などと思ったときには、逆に「知識」にとらわれやすい。

わかりやすく言うと、人は「成長しよう」と思ったときに、本を読みがちだ。特に僕の身の回りの、比較的 "Well educated" な人ではその傾向が強い。

本を読むと新しい考え方や価値観、ノウハウ、知識がインプットされるが、実はそれだけではパフォーマンスは変わらない。そのインプットされた何かを「具体的なアウトプットにつなげる」ということが必要だ。

ここでいうアウトプットとは、例えば自分の言葉で言語化して文章や図に落とし込んだり、そのインプットについて人と話したり、そのインプットを使って何かを進めようとしたり、そのインプットと逆の考えを持っている人と議論をする、といったことだ。

特に、言語化の部分は非常に大切だ。
人間の思考は、びっくりするくらいいい加減にできている。ぜひ一度、普段の何気ない会話を録音して聞いてみてほしい。主語も述語もあいまいだし、頻繁に言い間違えるし、ロジックもめちゃくちゃだ(少なくとも僕はそうだ)。会話でこれなので、自分の頭の中だけで完結する「思考」のいい加減さは想像に難くない。

インプットは、身体感覚や感情と結びついて初めて人生において意味を持つのだと思う。

この問題は、スポーツがアウトプットにフォーカスし易いのに対して、「成長する」というような抽象的な題材に関しては具体的なアウトプットをイメージするのが難しいからだと思う。

今から成長した自分が、どんな行動をとるのか?はすぐには思い浮かばないことが多いはずだ。

「たくさんいろんな本を読んでいるんだけど、なんかあんまり人生変わった感じがしない」というときには、この「アウトプット欠乏症」が起きているのかもしれない。

書を捨てよ、街へ出よう。

というのは、作家の寺山修司さんの言葉だが、その本当の意味は「知識よりも経験のほうが大切だ」という簡単なことではなく「知識も経験もどちらも大切だ」ということなのだと思う。

「その本から学んだ新しい知識は、本当に自分の血肉になっているのだろうか?」

という問いかけを常に持っておきたい。

最後に、アウトプット欠乏症を防ぎつつインプットを増やすのに、かなり有効だなー、と思っている方法を紹介します。

本をいきなり読み始めないで、こんなこと↓をやるんです。

①まずは題名から、その本の趣旨を想像する
②目次を見て、その本の具体的な論理展開を想像する
③その内容に対するアンチテーゼを想像してみる
④その上で、答え合わせとして本を読む(気が向いたら)

「まず自分の考えをしっかり持ってから人に相談すべし」ということは仕事や日常では大切にされていますが、本を読む、ということについても同じことが当てはまるように思います。

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