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カスタマーサクセスと営業はどう連携すべきか?

こんにちは、株式会社ビービットUSERGRAMというサービスのカスタマーサクセスを2年ほどやっている礒野と申します!(Twitter はこちら @wataridori89102)本記事はCS HACK Advent Calendar 2020の12/2の記事として書いております。

何を書くか考えていたのですが実は最近、カスタマーサクセスを立ち上げようとされている方、あるいは立ち上げ中の方から「営業とCSはどう連携したら良いか?」とご質問を頂くことが多かったので、そのトピックについて自分の失敗談とそれを通じて得た学びをシェアさせて頂ければと思います。

本記事は4章構成です。第1章ではまず2年間の中で営業とCSの役割分担がどう変わっていったかをその理由や背景と共に見ていきます。第2章ではそのような変化のなかで、連携に向けてトライアルしたこと、その中で失敗した取り組み・成功した取り組みについて振り返ります。第3章でさらに具体的に連携の実務をどう執り行っているかを詳述した後に、最後の第4章では3つの章を総括し営業とCS連携で重要と思うポイントを纏めていきたいと思います。

例によって書く前から長くなりそうだなという気配はしているのですが(笑)、営業とCSの連携に悩んでいる方のお役に立てるよう、なるべく生々しくまた失敗談を多めに構成しようと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。

■1章:営業/CS役割分担の2年間の変遷

弊社における営業(フィールドセールス)とCSの役割分担は2年間で4回の変更を経ています。その4フェーズを、新規営業→活用支援→更新営業(リニューアル)というカスタマージャーニーで整理するとこのようになります。

2020-11-29 16_38_10-PowerPoint スライド ショー - [営業連携note.pptx]

CS立ち上げ→フェーズ1:心を開いてもらえないCS

弊社の場合CSの立ち上げが2018年なのですが、立ち上げ時はほとんどの支援が営業によって行われている状態でした。なのでCSが立ち上がって実際に支援に入ろうという時は、まずは営業からCSで支援が可能そうな顧客を見繕って連携してもらい、その上でCSから連絡をして支援を打診して、というようなフローで動いていました。

同時にテックタッチ施策やロータッチ施策も動いていたのですが、顧客が具体的にどのようなことに困っているかの肌感がない中での立ち上げだったためどうしても上手くいかないことが多く、社数が少なくてもハイタッチの支援で入っていかねばと考えていました。当時の失敗談はこちらのslideshareに詳しく記載しています。

その当時大変だった点は2つあります。

まず1つ目は立ち上がったばかりのCSチームに何が出来るのか何の根拠も確証もなかったことです。当然ですが支援の実績も無いので、営業チーム目線で見ても「本当にCSで支援できるの?」という懐疑的な目線があったのはやむを得ないことでした。チームを立ち上げていく方針自体は全社的に決まっているため双方で協力しながら進めていく前提はありつつ、どうしても対等な関係というよりは良く言えば「先輩・後輩」、悪く言えば「指示者・作業者」のような関係になってしまう側面があったと感じます。

営業からは「顧客に紹介するからCSの支援メニューを提示してよ」言われるも立ち上がったばかりなのでその辺の整備も出来ておらず、口頭やテキストのみで営業も出来ることを同じ形でお伝えするしかない、というようなことも多かったです。

2つ目の大変なポイントは、せっかく苦労して顧客に連絡が出来たとしても信頼が営業に集まっているためになかなか心を開いてもらえない、ということでした。最悪の場合、連絡した途端に解約の意向だけを言い渡され支援を拒否されるということもありました。

この2つは何か特効薬があったわけではなく、CSで支援実績をコツコツと積み上げていき、徐々に顧客および社内から信頼を獲得していくことで時間と共に解決されていきました。今振り返っても当時の状況は仕方がなかったと思いますし、やはり顧客支援で実績を作っていくことが最短ルートかなと感じます。

フェーズ1→2:活用支援はCSだが…

立ち上げから半年ほどが経ち、徐々に支援実績が積み上がり支援メニューも型化されてきたところで、活用支援については全面的にCSに移行する事になりました。ただしいきなり全顧客担当を営業からCS配下へと移動させることは難しいので移行は段階的に行うことにしました。

まず最優先で行ったのは、上記の決定後に獲得した新規顧客についての活用支援は基本的にはCSで行う、という方針を敷いたことです。既存の顧客はやはり人の繋がりや顧客の期待値があるので難しいのですが、新しい顧客についてはコントロール可能なため、その前提でオペレーションを組むことにしたのです。具体的には営業段階から活用支援はCSで行うことを顧客に伝える、契約後のミーティングにCSも同席するなど。これにより新規顧客の支援は比較的スムーズに移行出来ました。

既存顧客は、個社によって事情が違うため、段階的に移行しました。すぐに移行が可能、何度か打ち合わせを経れば可能、現時点では移行が難しいといった具合にレベル分けを行い、その後半年間をかけて徐々に引き渡していくという形を取りました。実際に移行が完了するのに1年くらいはかかったかなという感覚ですね。

さて、上記のような対応で「活用支援はCSが対応する」というスタンダードが出来あがっていったのですが、別の問題が出てくるようになりました。それは「活用支援の担当はCSなのだから、チャーンしたら基本的にはCSの責任だよね」という風潮が出来上がっていったということです。いわゆる組織サイロ的な問題に陥ってしまいました。

1人1人の意識レベルではもちろん分かっていつつも、売上プレッシャーがある中で多少ニーズにハマらないかもという顧客と出くわした時に「まあCSが何とかしてくれるし」という形で、営業が新規受注を追うケースが増えていったのです。

この問題については2つの方法で対応していきました。

1つ目は解約分析と活用顧客像の連携を定常化したことです。当時そもそも解約分析は組織的に行っていなかったのですが、実際に活用が上手くいかずにチャーンしてしまう顧客や、その反対に活用が上手くいく顧客を分析していくことで成功する顧客・失敗する顧客の共通項が浮かび上がってきました。それをCS内部だけの知見としてCS独自のPDCAだけで解決するのはもったいないし、そもそも問題の解決も営業にシェアしないと難しいだろうということで、それらの分析をまとめ四半期に一度営業向けにシェアする活動を始めました。

この営業向けに始めた解約分析レポートは今では経営報告にも使われていて活用が継続する顧客の特徴を把握するための、最新情報として重要な活動として位置づけられています。解約分析では、その他ヘルススコアとチャーンレートの相関、新型コロナウイルス影響における解約予測などの内容も含んでいます。

ただこれも最初から有効だったわけではなく、何回か繰り返していく中でポイントが見えてきました。具体的には下記の5つが重要だったと感じます。

【効果的な解約分析の実施ポイント】
①一度やって終わりではなく継続的に行う
マテリアルとして残しいつでも見返せる状態にする
③抽象論だけでなく個別企業の解約理由に触れる
営業への示唆を別途提示する
⑤解約分析実施の段階から営業を巻き込む

中でも一番重要だと感じるのは①です。一度では伝わらないことも、繰り返し色々な確度から伝え続けることで、組織同士の認識が徐々に擦り合っていったなと思います。またその際も抽象論だけだと議論が平行線になりそうなところに対して、必ず具体的な企業起点で伝えていったことも重要なポイントだったと感じます。

2つ目の対応は、CSと営業の責任者を同一人物にしたことです。これは実は課題解決のために意図的に行ったというより、成り行き上の背景と人事が先にあったという事情ですが、実はこちらのほうがよりダイレクトに影響があったなと感じます(笑)。

営業とCSのレポートラインが同じになることで、ARRという1つの目標に対して営業は新規獲得、CSは活用支援という役割分担として考えやすくなり、共通の目標に対して互いにどのような取り組みをすべきか、という議論を行いやすくなっていきました。また双方で利害が一致しない場合の調整も取りやすくなったため、連携がスムーズに回るようになっていったのが大きかったと思います。

フェーズ2→3:更新営業も徐々にCSへ

フェーズ2では活用支援はCSになったものの、更新営業、いわゆるリニューアルの領域はまだ営業ボールという役割分担でした。これは純粋にCSがそれらに対応するキャパを持ち合わせていなかったことが理由でした。が、その体制による問題が浮上してきました。それは「活用支援と更新営業の連携負荷が高まり、スムーズに契約更新業務が回らなくなってきた」というものです。

前述の通りフェーズ2では活用支援はCSが全面的に担当しているため、営業は新規契約以降、1年以上顧客と話をしていないというケースも珍しくありませんでした。しかもその間CSでずっと支援を行い顧客との関係性を構築しているため、営業としては気軽な連絡をしづらい状況になってしまったのです。

契約更新時期が近づいてくるとCSから営業に対してキックし「A社様の更新時期が近づいていますので、営業から更新意向の確認と契約の手続きについてコンタクトいただけますでしょうか?直近の支援状況はこちらです」と連絡をするのですが、営業からすると(むむ、最近この方とは話せていないし、CSの支援内容も完璧には把握していないから連絡しづらいぞ…直近の支援状況もこれだけ見ても、先方がどんなテンションかわからんし…)という思考になり、結果的に営業からCSへの返信として「承知しました。コンタクトするにあたってのコミュニケーション方針についてCSから連携頂けないでしょうか?そのとおりにお話しようと思います。」みたいなやり取りが増えていったのです。

加えて、当時は新規営業がどんどん忙しくなっている状態で、営業の対応キャパがいっぱいいっぱいという背景もありました。その結果、どうしても

・更新営業についてのコンタクトが後手になる(リマインド地獄の罠)
・営業のコンタクト内容がCSに十分シェアされない

ということが起こり、それが原因で本来なら対応次第で防げていたかもしれないチャーンが発生してしまう、ということも起こるようになってしまいました。上記課題への対応+CSのキャパが順調に成長しており更新部分についても対応可能な目処が一定経っていたので、更新営業についても徐々にCSが対応するように移行しました。

一方で完全に移管しなかったのには2つの理由があります。1つはシンプルで複雑な契約形態になっているものに対処できるほどのスキルがCSで立ち上がったばかりのリニューアルチームには備わっていなかったことです。そしてもう1つ、実はこちらの方が大きいのですが、CSチームで採用されたメンバーはあくまでCSつまり活用支援をやりたいと思って入社or異動したメンバーが当時大半でした。その背景には「前職営業でお金に絡むことばかりやっていて、もうそれをやりたくない」「細かい契約手続きや事務処理には苦手意識がある」などがありました。もちろん1人1人背景も事情も違いますが、共通しているのは活用支援に真摯に向き合いたいという思い。そんな人が集まっている中で「アップセル含めた顧客への包括的提案を担当する」というのは、精神的負荷が高いと現場へのヒアリングをした結果判断しました。

上記のような検討経緯もあり「あくまで契約更新意向のあるお客様の契約手続きを担当する」という役割に留め、逆に言うとアップセル・クロスセル・解約防止に向けた提案活動、金額の細かい交渉などは行わない、という仕切りで対応を開始していきました。

フェーズ3→4:契約以降の全フローをCS対応へ

フェーズ3は約9ヶ月ほど続いたのですが、その後フェーズ4=現在の体制として、新規契約以降の活用支援および契約更新は全てCSにて対応する形態へと最終的に移行しました。理由は大きく2つあります。

1つ目はリニューアルチームのスキルアップ・キャパシティ拡大です。立ち上げ当初こそほとんどメンバーがいなかったものの、オペレーションが組み上がり人員も拡大できました。また、CSチーム内のチームということで更新だけを担当しているわけではなく、メンバーは皆普段は活用支援との兼務です。そのためCSの活用支援にも理解があり連携も当初の狙い通りスムーズに運ぶことが増えてきました。

弊社は日系企業のお客様が多いので3月末に向けた契約対応は1つの山場なのですが、このスムーズな連携により適切な時期を見据えた分散コミュニケーション(3月末のことを前もって12月・1月・2月から話し始める取り組み)が功を奏し、無事に乗り切ることができたというエピソードもあります。

さらに契約の事務手続き面についてもバックオフィスと連携を強化し、詳細な手続きについては対応いただけるような体制を整えたことで、CSがお客様とのフェイシングに集中できるようになったことも1つの大きな要因だったかと思います。

2つ目は、契約更新業務を実務としてこなしていくなかで、実務に対するリニューアルチームの解像度がクリアになり認識が変わっていったからです。当初は「営業」というワーディングで抵抗感があったのですが、分かってきたことは既存顧客への更新の交渉は

・ツール利用実績や活用支援が味方
・更新されると自チームでさらなる活用支援に繋がる
・アップセルは活用提案と近い

とうことです。またいわゆる「営業」への抵抗感ってよくよく紐解いてみると「売って終わりであること」「お客様が求めていないものも営業成績のためには売る必要があること」だということもメンバーとの対話を通じて分かってきたのです。こういった背景もあり、営業(FS)は新規営業に集中し、新規契約獲得後の顧客ジャーニーは全面的にCSが担当することになりました。

因みに1社に対するリニューアル担当と活用支援担当は徹底して分けています。それぞれの話は混ざると純粋な支援として担当者レベルでやりづらくなるためです。同じチームで担当するとはいえ、実際の人は異なる形にしたほうがスムーズに交渉できるし、接点の多角化(n対nを作る)という意味でも良いなと感じています。

完全にCSチームに移行したことで、ARRやNRR起点での活動見直しがスムーズに進むようになり、最近では活用支援から契約への連携だけでなく、契約観点から見たときの活用支援へのチェックなども行われるようになっており、全面的に移行した結果良い方向に進んでいるなとひしひしと感じています。

■2章:営業/CS連携の失敗&成功談

第1章では顧客ジャーニーからみてどういう役割分担の変遷を辿っていったかを時系列で解説しましたが、第2章ではその過程で営業とCSがよりよい連携を行うために試行錯誤したこと、その結果失敗したor成功した取り組みをシェアしたいと思います。

特にここでは一番難しかった「CSの支援内容を営業が理解し、顧客に説明できるようになるには?」をテーマにします。

失敗その1:CS支援内容の説明会(to営業)

これはちょうどフェーズ1(活用支援の一部をCSが担当)からフェーズ2(活用支援の全部をCSが担当)へと移行するタイミングで行ったことでした。当時営業から「CSでどんな支援が出来るか資料にまとめて説明してほしい」という要望をもらっており、しばらく対応できていなかったのですがようやくオンボーディングプログラムや有償支援の枠組みが整理出来たので、営業向けの説明会を開催したのです。

説明会の開催前は「ようやくこれでCSの支援を営業段階からお客様にご理解いただけるようになるぞ」とほっとした気持ちになっていたのですが結果は真逆でした。むしろCSがどんな支援をするかわかりづらくなったというFBをもらってしまったのです。具体的な質問として

・この支援の結果顧客はどんな状態になるのか
・支援プランが2つあるがどう違うのか
・顧客にどのように説明すればよいのか

といったような質問があがり、CSの回答を元に質疑応答という形で何回かすり合わせを行ったのですが、結局それだけでは両者の認識はすりあわずという状態で平行線を辿ってしまいました。

この時の反省として、営業はもちろんCSとしてもまだ支援がこういうものだという実感も実績も少ない中で、言葉や数回の打ち合わせだけで営業に支援内容を理解してもらい、しかも顧客に話せる状態になってもらうのには相当な乖離があるのだということを実感したのでした。

失敗その2:週次の営業・CS連携会議の実施

説明会の件で継続的にかつ具体的に会話していくことが大事だと考え、次に週次で営業とCSの連携会議を実施することにしました。が、結論からいうとこの取組も上手くいかずでした。

営業とCSで具体的な顧客を例にどんな風に支援を伝えるか、受注が決まった案件にどうCSが入っていくべきかなどをアジェンダとして設定していたのですが、実際にやってみると互いから相談事項があまり出てこなかったり、個別企業の対応方針については参加している全員が関わる内容ではないので途中から不参加になる人が増えたりということが起こりました。何度か形を変え、人数を絞ったり課題管理表を運用したりなどのトライアルもしたのですが、結果的には上手くいかず廃止になりました。

これについては一言でいうと、連携すること自体が目的になっていたことが上手く行かなった理由だなと思います。互いに連携しなきゃ、とは思っていたのですが連携はあくまで手段であり、本来目的とすべきことは別にあったはずなのです。例えばCSの支援について実態と齟齬がない形で営業が顧客に説明できるようになる、や営業からCSへと連携を行う時のフォーマットを決める、などです。ただ、それらを明確にせずなんとなく顔を合わせる回数を増やせば認識が擦り合うのではないか、という風に考え場の設計が甘くなっていたのが原因だなと思います。

今振り返って思うと個別の目的については単発でやったほうが効率がよいものが多いため、定例の会議で解決しようという方法自体が微妙だなと捉えています。

失敗その3:商談にCSが同行する

次に実行したのは、営業の商談にCSが同行するという方法でした。CS自らが顧客に対して支援内容を説明すれば正しく伝わるだろうし、その場にいる営業メンバーもその話し方から学べるだろうという意図でした。またCSが直接説明しないとしても、営業の説明内容を聞いてもし間違っていることや誤解を生むことがあればその場で訂正できるだろうという狙いもありました。

しかしながらこの方法も上手くいきませんでした。

まず同行するにしても全商談というわけにはいかないので、受注により近そうなフェーズが進んでいる商談に絞って同行したのですが、商談が1時間あるとしても活用支援やCSのパートに触れるのはどれだけ長くても10分程度、大体の場合は3~5分程度で一切触れないこともそれなりにあるという状態だったので、負荷の割に効果が薄いということが分かってきました(当時はリモート商談ではなく移動込の対面商談でした)。

また、当然ながら営業も完全に違うことを伝えるわけでもないので仮に誤解を招くリスクがあるかもと思うようなところがあっても「いや、そこは少し違ってまして…」と割って入るのは正直難しいし、なによりそれによってここまで営業がコツコツ積み上げてきた信頼が崩れて失注したら怖いという思いが先行するので余程のことが無い限り発言することも難しいということが分かってきました。

やはり商談や新規営業は営業のフェーズなので、社内的にサポートすることはあっても実際に顧客と対面して会話するというのは現実的には難しいということが分かってきました。

成功したこと:CS支援を営業が体験する

様々な失敗を踏まえ、今振り返っても効果があったと感じるのはこの施策です。そう、CSの支援プログラムに営業も全同行してもらう+一部プログラムを自分で実施頂く、という取り組みです。

この取組が始まったきっかけは、一部の営業メンバーからの要望でした。「今回受注したこのお客様について自分も思い入れがあるので、きちんとお客さんがサクセスするか見届けたいし自分も出来ることがあるなら協力したい。なのでこの1社だけでいいのでCSの支援に原則全て同行させてほしい」という打診があったのです。

もともとCSからも「可能なら同席してほしい」と折に触れてお願いしていたのですが「合いそうな日程があれば参加します」というような返答が多かったのですが、このときはそのような背景もあって、最初から最後までCS支援に同行+一部パートでは主体的にコミュニケーションに参加してもらうような形を取って実施することになりました。

当時は全く予期していなかったのですが、この取組は終わってみれば他に比べて圧倒的に功を奏しました。もちろん全行程の参加なので3ヶ月ほどかかったのですが、その結果大きく2つの効果がありました。

1点目は、極めて具体的にCS支援の実態、そして長期間にわたる顧客の変化を営業が知れたということです。SaaSの最も重要な点は短期的なサービス提供ではなく長期的に価値を発揮し顧客の変化に寄与するという部分です。これまではその長期的な変化のbefore/afterを言語化したりして伝えようとしてきたのですが、どうしても言語化すると大事な情報や肌感が抜け落ちて陳腐化してしまっていたのでした。

それに対して3ヶ月かけて顧客の変化を生で1次情報としてインプットし、一部ワークショップなどを担当してもらったことで、営業自身がその変化を自分の言葉で語れるようになったのです。3ヶ月同行した営業メンバー自身も「顧客の業務がどのように変化するのか、課題がどう解決されるか圧倒的に腹落ちしました」との感想を漏らしていました。考えてみれば営業はサービス導入後の長期的な顧客変化を時間する機会に乏しく、その1次情報が圧倒的に不足していたのです。営業時点では主に決裁者と会話するけど実際に導入したら導入経緯を何も知らない現場担当者と話さなきゃいけなかったり、定着のために営業の時よりももっと詳しく業務について理解して提案をしたり、というCSが無意識的にやっていることの1つ1つに対して営業観点では新しい発見が大量にあったということでした。

CS自身が気づいていない支援の特徴や営業との認識のズレの原因となっている部分は頭では結局言語化出来なかったのですが、この取組みでその1次情報が十分に補充され結果的に双方の認識が擦り合っていったという明確な手応えが有りました。

2点目、これは全く予期していなかったのですが、なんとそのCSプログラムに同行した営業メンバーの営業成績が圧倒的に跳ね上がったのです。自分たちが提供しているサービスがどんな課題を抱えている人に役に立つのか、その時具体的にどんな変化が顧客に起こるのか、顧客側ではどんな準備をしておくべきなのか、そういったことを具体的に生々しく営業が語れるようになったことが、営業行為そのものに極めてポジティブな影響があったのです。

またそのように営業成績が上がったことで、どういう要因があるのかという関心が営業チーム内で高まり、結果的に「CSプログラムに同行して支援や顧客変化を理解するのが提案をする上でも良いらしい」という認知が広まっていきました。その結果としてプログラムに同行頂ける回数が増えCS支援の理解度が高まっていったのです。

3つの失敗と成功を踏まえ、1次情報をどれだけ営業が得られる場を設計するか、というのが解くべきイシューだったなと感じています。失敗した取り組みは「いかにサービス内容をCSが整理するか」「いかに営業とCSが連携し合うか」などの課題設定をしていましたがそれは違っていたよなと。

営業とCSの連携とは互いが互いを見ることではない。互いが同じ視点で顧客に向き合うことだ、ということがよくわかりました。

■第3章:連携の実務

さて3章では意外とよく聞かれる「具体的に連携ってどんな感じでやってるんですか?」という疑問について答えていきたいと思います。トピックとしては

①受注後に営業→CS連携をどう行っているか
②営業フェーズに対してCSがどのように貢献しているか

という2つを軸にお話できればと思います。

①受注後の営業→CS連携

新規受注が確定したあと、活用支援としてCSが全面的に対応を引き継ぐのですが、主に実施しているのは3つです。

1. 社内連携ミーティング(30分~1時間)×1回
2. 顧客への引き継ぎミーティング(1時間)×1回
3. slackの顧客チャンネルでの情報シェア(随時)

1の社内連携ミーティングは、顧客の導入経緯、提案で刺さったところ、今回のSaaS導入で先方がやりたいこと、契約上の特筆事項、その他留意すべき点などをシェアしてもらい、それをドキュメントにまとめて残す形で行っています。もともとはツール初期設定のタイミングと活用支援のタイミングが分かれていたため2回に分けて実施するなどの時代もありましたが、営業負荷が高いことを鑑み、現在では基本的に1回のミーティングで全て終わるように設計されています。

2の顧客への引き継ぎミーティングはツールの初期設定に向けたお打ち合わせとして実施されることが多いです。実質的には顔合わせ的な意味合いもあり、このミーティング以降は営業が同席しなくても活用支援が回っていくことを目指して、必要なコミュニケーションを行っていきます。因みに以前は「サービス導入を決めた途端にこれまで話してきた営業担当が消え、違う担当者が現れ営業担当が居なくなってしまうとなると顧客体験上良くないのでは」という議論があったのですが、これは事前に期待値を調整すればどうとでもコントロールできるな、というのが実際にやってみた感触です。営業のミッションとして新規営業があるため、どうしても並行で支援もやるとその方が顧客体験を損ねるよねというの現実的な話もありますし、営業段階から「支援に入るときは私ではなくもっと専門のその活用支援に長けたメンバーが専任でアサインされます」というような期待値を立ち上げることで、むしろポジティブな要素へと変換することも出来ます。

3のslackでの連携は色々と試した結果、slackが社内でみんなが一番見ていてスピーディーに反応しやすいよねという議論を経て、顧客ごとにチャンネルを立ち上げで、何かあればそこで連携するというスタイルを取っています。もともとはSalesforceやメール、Google Docsでの連携も試みたこともあったのですが、営業は移動が多いことからスマホから返信しやすいことが重要、通知機能がないと見逃す、などが検討中に分かってきたことでした。

また社内連携や顧客との引き継ぎミーティングが終わったあとにも、気になって確認したいことがぽろぽろと出てくる際に、slackで連携しているとオープンに気軽に聞けるのも大きなメリットの1つだなと感じています。

以上3つの連携を経て、営業で受注した案件が日々CSへと引き継ぎされています。

②営業フェーズでのCS→営業貢献

営業とCSの連携は受注時だけではありません。営業フェーズに対してもCSが貢献することが「CS起点のThe Model」ではポイントになっていまして、ここでは短期・中期・長期でどのような連携をしているか記載します

②-1. 短期(個別商談)

短期的な個別商談では、営業が商談中に顧客から「◯◯の事例がないか」と質問を受けた時に、もし営業に思い当たる事例がなかった場合でも実はCSの最新現場では事例が生まれていたりすることもあるので、該当する事例がないか営業からCSに相談し、CSから知見を結集してスピーディーにレスを返すといった取り組みを行っています。

具体的には、slackに「こんな事例ありませんか」をトピックにしたチャンネルがあるので、そこに営業が商談中の顧客の状況と欲しいと言われている事例を書き込み「上記のような相談を受けているのですがもし心当たりの事例があれば簡単でいいので共有頂けますでしょうか」とCSに依頼を投げかけます。

CSも受注が増えないことにはKPIが達成できない構造になっているため(※CSのKPIは高ヘルススコアの企業数です)、こういった相談にはすぐに複数人いるCSメンバーから最新の事例や顧客の課題解決実績がレスポンスとして帰ってくるようになっています。この取組は実は事例の循環・還元という意味で大きな意味もありました。

もちろん事例のシェアリングは最優先事項として組織的に取り組んでいますが、CSが事例をシェアするのは心理的に負担があります。「こんなことをシェアしても意味があるのだろうか」「みんなに意味が伝わるように整理して書くの大変だな」「まいっか、後回しで手が空いた時に書こう」という心理になり、シェアしたほうがいいと分かっていてもなかなか手が回らないという現状もあると思います。

一方でこの営業からの個別相談については

・貢献できることが明確
・まさに今求められている
・簡単な概要のシェアでOK

という形になるため、通常の事例シェアよりもスピーディーにかつ豊富な事例が集まってきます(レベル感は多少バラつきますが)。ただしそれは営業視点ではありがたく、アンテナに引っかかるものがあればより詳しく聞けば良いので、非常に効率が良いのです。

結果的にこの取組から多くの受注が生まれているので、これは営業とCSが連携して事業成果に向かう良い取り組みだと思っています。

②-2. 中期(ロータッチコンテンツ活用)
中期的に取り組んでいるのは、CSで取りまとめているロータッチコンテンツの営業活用です。CSのロータッチのチームでは、顧客がツールを活用する上で実務上困るであろう悩み事に対する課題解決コンテンツを毎四半期ごとに取りまとめ、新しいセミナーとしてリリースしています。

そのセミナーのコンテンツは、実際にツールを使っているうえでお客様のお悩みに役立つものなのですが、当然ツールを導入する前のお客様から同様の懸念や質問をもらうこともあるんですよね。例えば、このツールとこのツールはどのように使い分けたらいいのか?といったような質問です。

営業がそういった質問を受けたときの返しのコンテンツとしてこのロータッチのコンテンツは非常にクオリティが高いため、営業現場からも重宝されており、新しいコンテンツがリリースされた際にはロータッチチームから営業チームへの連携も行われています。

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②-3. 長期(事例からマーケティングシナリオへの転換)
最後に長期的に取り組んでいるのは、CS現場で創出された成功事例を元に、課題解決ストーリーをマーケティングシナリオに転換して、マーケ→IS→FSの全体に対して還元していくという取り組みです。

これについては詳細に記載すると量が多いので詳細は割愛しますが、CSが主導となって事例をコンテンツ化し、それを「実際に売れるのか」という営業チェックを挟んで、マーケティングシナリオとして納品するという活動を行っています。そのシナリオの納品数はCSの重要KPIの1つとして管理されており、長期的にCSの成功事例から新しい成功を再生産していく仕組みを作っています。

以上が具体的な連携の実務内容になります。

■第4章:営業/CS連携の成功の3つのポイントとは?

これまで3章にわたってお話してきた取り組みを総括し、営業とCSが連携する上でポイントとなる点をまとめてこの記事は終わりにしたいと思います。

ポイント1. 組織実態に合わせた長期変化と捉える

1章では2年に亘る変化を記載しましたが、常に組織の状況やキャパを見据えて変化をしてきました。大切なのは連携方法に唯一の正解はなく、その時その時の状況にあった意思決定があるだけ、あとはそのなかでより良い顧客体験を作るための試行錯誤を繰り返すしか無いということです。

振り返って思うのは組織の変化はそんなにすぐには実現されないということです。もちろん理想の絵を描くだけならすぐにできます。実際変化の過程でも色々なメンバーから「こう連携すべきなんじゃないか」という意見を大量にもらいました。

でも組織の役割分担はオペレーションと密接に結びついています。キャパシティ的に不均衡が生じたり、原則から外れる例外処理が増えてしまうとオペレーションそのものが破綻してしまい結果的に顧客体験を毀損することに繋がりかねません。

常に理想を描き続けることは大切ですが、一方でそのために変化するためには年月がかかるということ、それを見据えた上で今何をすべきと判断するのか。大切なのは短期の変化で全てを解決しようとせず組織の変化に長期的に腹を据えて向き合うことだと思います。

ポイント2. 同じ目的・同じKGIを見る

これは営業/CSに限らずですが、KPIが互いに相反するものになっていると途端に連携が崩壊します。わかりやすいのは営業が売上、CSがチャーンレートを見る構造にすると、互いのKPIが分母分子関係になり相反してしまいます。それだけを持って問題があるというわけではありませんが、連携がやりづらくどうしても互いの利益が反発しやすくなってしまう傾向はあると思います。

経営上は当然どこかしらのKPIが分母分子関係になるのは避けられないと思いますが、業務上の管理であればそういったことを回避したり、あるいは最終的に事業が重視すべきARRやNRRといった視点から互いの業務を役割分担と捉えることは可能です。弊社の場合は

・CSのKPI(組織管理上のKPI)を成功企業の社数に置く
・責任者レベルではARRやNRRを見て経営報告管理
・CSと営業の責任者を同一人物にする

などの取り組みがこれらの解消に多いに役立っていると感じています。

ポイント3. 互いを見ずに顧客を見よ

営業連携となるとつい頭に思い浮かべがちなのは、営業メンバーの顔です。営業がなかなか理解してくれない、営業メンバーにどうやって理解してもらうか、そういったことを考え、次第に社内メンバーのことばかりを考えるようになってしまいます。

もちろん社内メンバーのことを考えるのが意味が無いとは言いませんが、連携することそのものは目的ではなく、本当に実現したいのは組織として統一した認識を持ち、正しいターゲット顧客のサクセスを創出していくことのはずです。私の失敗経験からも、営業とCSが互いのことばかりを見ている状態で正しい顧客や顧客体験の認識を持つことはほぼ不可能です。

重要なのは双方を見合うことではなく、双方が一緒になって顧客と向き合うこと。それも可能なら抽象論ではなく、具体的な1社の顧客の支援を長期的に一緒に行っていく。そういった1次情報ベースで体験をシェアができると、それが圧倒的な共通言語となり認識の統一に大きく近づきます。もし社内の議論がどうも抽象的になっている、数字によっている、社内向きになっていると感じたら、手を止めて具体的な顧客に一緒に会いに行くのがおすすめです(今はリモートでそれもやりやすいはずです)。

※もうちょっと踏み込んで言うと、ただの同行では意味が無いと私は思っています。大切なのは自分の脳に焼き付く1次情報、つまり自分で言葉を発し相手と会話する経験です。ぜひ同行だけでなく、短くてもいいので何らかのパートを担当する、そのために準備するといった経験を通じて理解を深めていっていただくのが良いかと思います。

終わりに

今回は営業とCSの連携というトピックで書いてきました。普段はCSに関する実践知見をTwitterで発信してますのでぜひフォローくださいませ。ありがとうございました!

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