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暇潰し

尾道旅行2日目。
何もすることがなくなり、シネマ尾道へ。
『高野豆腐店の春』を観る。
受付でチケットとポップコーンを買い、入場。どうやら、チケットがあればどこに座っても良いというシステムらしい。
誰もいなかったが、とりあえず中央より右後ろの席に座る。どの映画館でもここが僕の定位置だ。
スマホの電源を切り、靴を脱ぐ。ルーティンみたいなものを済ませる。
暗くなり始める瞬間が好きだ。
何かが変わりますように、と祈りを込めながら、僕は深く座り直す。

シネマ尾道


好きなものと言われて、最初に思いついたのは映画だった。
好きというよりかは、よく観る。年に100本とかじゃなくて、一週間に1本観れればいいかなって感じで。よく観るじゃなくて、たまに観るの方がしっくりくる。

きっかけ

僕が映画を観るようになったのは、高校生になってからだ。尊敬してた大人に、「本読め。映画を観ろ。」と言われたのがきっかけで。
ただ初めはなんとなく邦画とアニメ映画を観ていた。
『ソラニン』が特に好きだった。芽衣子たちのライブシーンは何度も再生した。
アニメ映画を観てたのは、目が良くなると言われてたからだ。視力的なのじゃなくて、動きとかレイアウトとか技術的な方で。


観る理由

大学生になった僕が映画を観る理由は、もう触れられない幸せや、これからも触れられない幸せを見つけるためだと思う。子ども達が活躍する映画とかめちゃくちゃ好きだし。
映画を観る度にどうしようもなさと幸せな気持ちが同時に来る。なにか取り戻せたような、もうどうにもならないような。
言語化するのが難しくて面倒くさいので、やっぱり暇だから観てるってことにします。友達が居ない大学生がすることといえば、映画を観ることくらいなので。

アップリンク吉祥寺

吉祥寺駅から徒歩3分、吉祥寺パルコの地下2階にある映画館。僕はこの映画館が大好きでよく行く。
内装も上映作品も素晴らしい。スクリーン数は5つと少ないが、特徴的なデザインをしている。「ポップ」「レインボー」「レッド」「ウッド」「ストライプ」というコンセプトで、それぞれ椅子や壁紙が違う。


初めて訪れたのは、今年の6月に『aftersun』を観に行った時だ。近くの映画館では上映されなかったのが理由だった。
アップリンク吉祥寺の話を知人にした時に、「そういうミニシアターは大学時代の思い出になるから通うと良いよ。」と言われた。
それからは、近くの映画館で上映してる作品でもアップリンク吉祥寺へ足を運ぶようになった。
僕は人の言うことに従いすぎだと思う。

映画を観終わったら、近くにある「くぐつ草」という喫茶店で買ったパンフレットを読む。これ最高の流れ。


あなたを知るには幼すぎた

僕は特に大きな事が起こらない映画を好んで観る。『海街diary』とか『あの子は貴族』とか。こういった類の映画は何度でも観返せる。体力が奪われない。

『aftersun』はマイ・オールタイム・ベストの映画だ。
11歳のソフィと父親がリゾート地で過ごした夏休みを、父親と同じ年齢になった彼女の視点で綴る作品だ。

焦点が定まれば明るさを自動調節する

記憶も同様に、焦点が定まれば自然と思い出すことができる。
この映画の構成は、ビデオカメラに収められている映像は事実であり、それ以外は大人になったソフィの思い出であり、多少補完されている部分がある。特に父親だけのシーンはソフィの想像に過ぎないのだ。

作中、父の姿には常に死の影があった。疲れ果てた顔、ベランダの端、夜の海。彼は何かに苦しんでいた。それはビデオテープにも残っていないし、本人ではないので知る由もないため想像するしかない。
作品の所々にクラブのシーンが挟まっている。記憶のように光が点滅する中で苦しみながら踊る父と、それを追いかける大人のソフィ。物語の終盤でソフィは彼に追いつく。
彼に近づくことによって、ソフィはそれに気づく。彼女は彼の苦しみを見つける。
クラブのシーンでは『Under Pressure』が流れている。彼のダンスにはぴったりの曲だ。


ソフィが父にインタビューをする場面がある。鏡とテレビだけのショットで、テレビにはソフィがビデオカメラで撮影している映像が直接流れている。
父にカメラを切れと言われ、テレビの電源を抜かれる。消えた画面には父と娘が反射して写っている。
カメラを切ったソフィは、「でも 残すから 私の小さな心のカメラに」と言う。
『aftersun』という作品を表している場面であり、反射を使った演出も良い。

2人が海の上で話すシーンがある。僕の好きなシーンだ。

「何でも話していいんだよ 大きくなって…いろんなパーティや男の子やドラッグのこと」
「パパ」
「真面目な話だ。パパもやったし、もしやるなら話してくれ」
「いいけど 私はやらない」
「それでもいいよ でも覚えておいて」

ドラッグのことも話せる存在なんて羨ましいと思った。


ラストシーン、空港で娘と別れた後の父の後ろ姿を忘れられない。思い出すと涙が出る。
彼がその後どうなったのかは分からない。その後の彼は観た人によって各々だろう。
タイトル通りに日焼けのように残り続ける、とても優しい作品。観る度に良いなと思える。
僕はこの映画を観てとても救われた気がする。
是非一度観てほしい作品です。


僕にとって映画は、日常になくてはならないものです。これからも色々な映画を観て、暇を潰してこうと思います。

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