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「過去作の掘り起こし」という新規開拓【連載27・オタク視点で見るアニメ】

45年前(1975年)のアニメが話題になっています。池袋マルイで開催中の『ガンバの冒険』展にたくさんの人が訪れ、開催期間が延長になりました。

展示は入場無料、すべて撮影OK。
それでも1975年の作品です。こうした古い作品展示の場合、来場者の中心はリアルタイム視聴世代となることも多いのですが、『ガンバ』展では、来場者の年齢層が想像以上に広いことに驚きました。男女比は半々ぐらいで、ぱっと見のボリュームゾーンは20~40代。パパママに連れられたお子さんから、リアルタイム視聴が可能だった50代以上の方々も来場していて、今日び、これだけ幅広い層を集めるコンテンツは珍しいのではないかと思いました。

公式Twitterのガンバ展開催告知

展示そのものも素晴らしかったです。

……が、グッズ物販! アニメやコラボイラストの複製原画やポストカード、トートバッグなどが販売されていましたが、私が行った開催2日目の12時には、一番欲しかったイカサマの缶バッジとアクリルキーホルダーがすでに完売していました。……つらい! 
買えないこともつらいけど、「土曜日のお昼」というベストな時間帯に、販売機会を逃すことが長年の作品ファンとしてつらい!(オタク心理)

主催側も、この売れ行きは予想外だったようで、週末に各種グッズが売り切れ→次の週の平日に入荷→週末に再度売り切れ→再出荷…という劇的な展開になり、ファンは毎日更新される公式Twitter「現在の完売商品と再入荷のお知らせ」をチェックするようになりました。再入荷したグッズ購入と展示替えとファンのメッセージボードを見るために、何度も通うファンもいます。

■古い作品の人気は「継続」にあり

45年前の作品が、「リアルタイム視聴世代」を超えた人気を持つ理由は幾つかあると思います。
まずは「お客さん側」の理由。

★作品と出会う機会の多さ
・再放送が多い
TV再放送が、全国各地の地方局で行われていたこと。近年は衛星放送でも再放送されていました。

・配信で手軽にアクセス可能
再放送が減った今でも、配信で手軽に作品にアクセスできるようになっています。

バンダイチャンネル『ガンバの冒険』

★親がアニメファン
そして理由のもうひとつが親がアニメをよく見ていること。子どもである若年層が親の影響で過去作を観る機会が、私たちの頃よりもずっと増えました。これも時代の変化(進化)だと思います。

中国5県、10連休の観光好調 「令和」祝福ムード(日経電子版)

昨年2019年の記事ですが《「鳥取県境港市の水木しげるロードには約43万6千人が訪れた。テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の新作の放送が2018年4月に始まったこともあり、「例年より子どもを含めた家族連れが目立った」》とあります。
『鬼太郎』のような、親子二代を対象にした作品が増えていると思います。

■ライト層まで呼び寄せる展示の工夫

そして「提供側」の理由です。今回の展示が人気になった理由は、作品のコアなファンだけでなく、「ライト層」を呼び寄せたところにあると思いました。

★入場無料
まず入場無料がライト層の呼び込みに繋がっています。おそらく充実した物販で会場展示費を回収する仕組みだと思います。

★人気クリエイターとのコラボ
『ガンバ』の特徴は、いま第一線で活躍しているクリエイターにファンが多いことです。この作品をきっかけに業界に入った方も少なくありません。今回の展示では、青木俊直さん、吉田戦車さんなどの人気作家が『ガンバ』コラボアートに参加したことで、作家のファンも多く展示に訪れました。
「『ガンバ』は数話しか見たことがないけど、この作家が描くガンバのイラストが見たい」という若い人の声も聞きました。

★会場の間口の広さ
池袋のマルイという、アクセスが良く、”間口の広い”場所もライト層の寄りやすさに繋がっています。間口というのはメンタル面も含んでいます。会場がもし中野ブロードウェイのようなマニアの聖地であれば、私も少し緊張します。

★Twitterで著名人のつぶやきが上がる
著名人のTwitterも告知効果になっています。『ガンバ』の凄腕アニメーター大橋学さん、作品のファンである声優の山口勝平さん(『名探偵コナン』工藤新一役等)が展示にイラストを寄稿し、三石琴乃さん(『美少女戦士セーラームーン』月野うさぎ役等)や、タレントの伊集院光さんが展示の感想をTwitterにあげています。こうした著名人のSNSを目にして展示を知る人も多いようです。

★すべての展示が写真撮影OK
日本の展示では珍しく、すべて撮影OKです。お客さんが展示物をネットにアップすることで、「自分も行きたい」と思う人が増えたようです。また、事前にどんな展示やイラストがあるかが行く前からわかることで、物販購入にも繋がりやすいと思いました。

かつてはこうした展示のほとんどが「撮影不可」でした。「撮影許可にすると、ネットで満足してしまう」という見方もありました。けれど近年のSNSを見る限りでは、「そんなに面白いのなら現地に行って見てみたい」と感じる人が増えていると感じます。

★遠方のファンに向けたネット通販
展示と平行してグッズのネット通販を行っています。全国各地にファンがいる作品なので、遠方の人も、ネットに上がる展示写真やグッズ通販を通じて、作品の思い出にひたることができるのではないでしょうか。ネットを介して「全員が(どんな形でもいいから)参加できる」ことはとても重要だなと思います。

■過去作品が再び輝く掘り起こし

●掘り起こしで発見されるお宝
今の日本には、「過去作品という資産」が無数に埋まっていると感じています。

クラウドファンディングという形で浮上する作品もあります。

『TWIN SIGNALツインシグナル』(大清水さち)は、『鋼の錬金術師』等で有名な少年誌「月刊少年ガンガン」創刊直後1992年から2001年まで連載されていた人気作です。当時は子どもだったファンが大人になり、マンガの続編を望む声が多く、クラウドファンディングでは1700万円が集まりました。

●掘り起こすべき過去作品は「まだ満たされていない」ファンがいるもの

どんな過去作品を掘り起こすと効果的なのか、ひとつ大きなポイントがあると思います。
それは「まだ満たされていない」ファンが多くいる作品です。
「まだ満たさていない」とはどういうことか。今回は2つあげてみます。

★当時の「公式展開」からこぼれたファン層
アニメ企業が映像ソフトだけでなく、作品関連商品を出すことで利益を得るIP(知的財産)ビジネスは、現在、当たり前にある事業の一つです。

アニメ業界やファンは「公式による作品展開(公式展開)」と呼んでいますが、グッズを販売したり、2.5次元ミュージカル公演を行ったりといった作品展開のビジネスは、2010年代以降のライブエンタテイメント部門も含めて大きく伸びている分野です。

公式展開の歴史はそこそこ古く、80年代後半の青年向けOVA作品から始まり、90年代半ば以降の製作委員会方式の作品から一気に本格化しました。公式展開は、声優がキャラクターソングを出し、ソフトの販促イベントで歌い、キャラクターグッズや設定資料などの関連商品を販売するという形で行われました。

けれども90年代は、中高生と女性に向けての公式展開は少なかったのです
当時のアニメ業界では、大がかりな展開の元が取れる「お客さん」は、高額なレーザーディスクやソフトを購入できる大人の男性層に限られていました。

中高生や女性層に人気のマンガ誌原作アニメは、玩具会社がスポンサーとなり児童向けの玩具商品で回収するマーチャンダイジング方式だったので、10代以上のファンがほしいと思うキャラクターグッズは多くはありませんでした。
作品によっては、「あの時は満たされなかった」という気持ちを持っているファンも多いと思います。

公式がそうした層に向けて商品を展開し始めたのは、2010年前後だと思います。
大人になりお金を持ったファンと、ライブも含めて幅広い展開が可能になったアニメの公式がようやく出会ったのです。

2009年には、「プレミアムバンダイ」という、過去作品を観てきた大人好みのグッズを扱うバンダイ系列のwebショップができました。
https://p-bandai.jp/

女性向けでは、2014年『美少女戦士セーラームーン』×新宿伊勢丹アパレルコラボが話題になりました。
当時“魔法のステッキ”(スティックロッド)を買っていた少女が20代になり、セーラームーンのモチーフがついた大人向けのバッグやお財布を購入するようになったのです。
2015年、サマンサタバサのお財布が飛ぶように売れていくのを目の当たりにしました。その後、セーラームーンと伊勢丹とのコラボは毎年開催される人気イベントになりました。


●「みんなとの共感体験」

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お客さんは、過去作展示に何を求めているのか? 『ガンバ』関連で私が気がついたのは、作品ファン同士がTwitter等を介して思いを共有して、それが喜びに繋がっていることです。
「観た当時自分は何歳で、この作品の何を楽しみにしていたか」という自身の体験のドラマを他の人に聞いてもらい、他者のドラマにも耳を傾けて共感するという行為がとても楽しい。
ひとりで「好き」を抱えていた人が、展示という共通の話題をきっかけに、45年の歳月を経て『ガンバ』を好きな仲間にネット上で出会ったという……その様子を見るのも大変に胸熱な光景でした。

掘り起こし甲斐のある過去作品という視点で言えば、再放送など、放送当時のブームを過ぎた後に作品を好きになったため感想を交換できる相手がいないとか、ネットがない時代で仲間が探しにくかったなど、「共感する仲間を見つけることが難しかった作品」も、効果が大きいと思います。

「共感」か「展開」かのどちらかで、“満たされない思いが残った作品”の掘り起こしが進めばいいなと思います。


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