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結婚式におののく

少し前になるのだけれど、昔の生徒であり、友人であり、一緒にお芝居を作ったりしていたNくんが結婚をした。久しぶりの結婚式に呼んでいただく。コロナ禍になにりめっきり減ったらいし結婚式。お呼ばれしてウキウキしている自分がいるのも事実だった。

しかし、今回、気がおけない理由が一つあった。生まれて初めて「乾杯のあいさつ」を頼まれたのだ。もちろん、彼とそのかわいい奥さんの頼みとあれば、お断りする術はない。しかし、ホントは、ぼくは、そんなパブリックな場でお話をするには値しない人間なのだ。

その昔、友人の結婚式の司会を頼まれた。いつもの調子で、適当な小噺を挟みつつ司会をしていた。しかし、中盤の祝辞からが問題。調子に乗ってしたたかワインを飲み過ぎてしまう。そして、次は祝辞で、彼が勤める職場の上司のあいさつとなった。

少し強面だが、人の良さそうな上司さんの祝辞は無事終了。和やかな雰囲気だったので、ぼくも調子に乗り、「はい、○○さま、よくできまちたー」と、赤ちゃん言葉で冗談をかましたつもりだったのだが、気がつくと場内が凍りついていた。

いい年した上司さんなんだから、それくらいの冗談受け流してくれよっと思ったのだけれど、その後も友人の新郎は、上司から「あの司会は失礼だった」と嫌味を言われ続けたのだそうだ。

若気の至りとはいえ、20年前のそんな記憶が蘇る。

そして、今回の「乾杯の挨拶」。もう、さすがに20年前のようなオイタをするつもりはない。宴会が始まる前の、ご挨拶の一席を全うしようと、ネットで「乾杯の挨拶」を検索しながら、珍しく喋る内容を下書きしてみたりする。

仕事柄、アドリブで話すことは得意なのだけれど、書かれたものを見ながら話すのが苦手。どうやっても、自分の言葉にならない。きっと、上手な人たちは、そういうのうまく喋るのだろうな。何度も練習して、仕舞いには、自撮り録音して調整してみたり。

練習の甲斐なく、当日は、案の定ガチガチに緊張。過去の失態を繰り返すのではないか?「やっちゃだめ!やっちゃだめ!」と熱湯風呂の前で押し問答をするダチョウ倶楽部(R.I.P.上島竜兵)のごとく、ここはどこかで、なにかしでかさないとダメなのでは?という、黒い渡辺たけしも頭をもたげてくる。

結果は、特段なにもなく、本当に和やかな結婚式。コロナ禍で嬉しい集まりが減っている中なせいか、参加者の皆さんの「幸せ度合い」も格別な気がした。嫌味なしに、若い人たちの門出に立ち会えるのは、素敵な気分になった。

「乾杯の挨拶」は、自己採点40点。

当たり障りのない、毒のないスピーチしかできず、こんなにことでいいのかと、ワインで酔った頭で一人反省会。でも、帰りがけに新郎から「渡辺さんにスピーチ頼んで良かったです」と言われて、胸が熱くなる。まだまだエモいな、自分。もっと、精進しなければならないと、後悔ばかりの連続の1日だった。

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