IPO準備会社に飛び込むときの心構え(若手会計士向け)
お若い会計士の方から以下のようなことを聞かれることがあります。
・ベンチャーに行ってみたいがどう思うか?
・会社の探し方や選ぶ基準を教えてほしい
・CFOになるためには何を勉強すればよいでしょうか?
・監査法人には何年くらい働くのがよいと思いますか?
キャリアに関するアドバイスや意見は、人それぞれだと思いますが、この記事を読む方になにか刺さることがあればいいなと思い、だらだらといろいろなこと書いておきます。
1.キラキラ話だけを聞きすぎていませんか? ~ 一握りのスターの陰には・・・
CFOとして活躍している先輩に憧れて、自分もチャレンジしてみようというのは素晴らしいことだと思います。
ただし、どのような分野でも、一握りのスーパースターの陰にその何倍もの人(1軍、2軍、社会人リーグ、草野球・・・)がいます。
ベンチャーに飛び込んだものの、思った通りに活躍できず悪戦苦闘している方もたくさんおられます。
【 ありがちなベンチャーしくじり話 】
・上場近いと聞いていたがいつまでたっても上場しそうにない
・会社の将来に不安がある(業績、資金繰り)
・自分のスキル・経験では今のポジションには無理があった
・聞いていたことと違う仕事をさせられている
・仕事が単調で面白くない、成長している実感がない
・経営者と合わない、信用されていない、パワハラを受けている
・社内(部下や同僚)が自分の言うことを聞いてくれない、動いてくれない
・給料が全く上がらない
・同期や近い年次の会計士の活躍話を聞いて焦ってきた
この手のお話は、いまから飛び込もうとする方にはなかなか届かないようです。
理由は単純。注目され、情報発信をするのはスター級の方だけだからです。
うまく行っていない人がその状況をオープンに発信することはほとんどありません。また、こういう苦労話を正直に伝えてくれる身近な先輩もあまりいらっしゃらないと思います。
このようになる可能性(リスク)があることを知った上で、チャレンジしたい方はぜひチャレンジしていただきたいと思います。
私はキャリアプランナーではありませんが、おそらくこの手の情報に人一倍触れてきた方だと思います。
IPOコンサルタントのお仕事をしていた時に、何社ものクライアント企業の中途採用活動に関わる機会がありました。書類選考だけでなく、面接に同席して直接応募者とお話することも結構やりました。
応募書類では現職での不満など本音を書く人は殆どいませんが、面接で「なぜ転職するのか」を掘り下げていけばこのような本音を聞くことができました。
また、事業会社CFOになってから現在までの中でも友人知人との交流の中で転職に関する相談をいただく機会もありました。
ご苦労されている方から聞いたお話には共通点があり、それを整理すると上に書いたようなことでした。
2.アドバイスを受けている相手は適切でしょうか? ~ それは中立的なアドバイス?
お若い方は、進路の相談を受けることや、他人にアドバイスする側になることははあまりないと思いますが、真剣にやろうとするととても難しいものです。
どのような進路がよいかは、対象者のこれまでの経歴だけこれがよいと言えるほど単純ではありません(単純に、監査法人を●年くらいやったらこれがよいというものではない)。性格や価値観、家族構成などかなり複合的な要素があります。
また、時代の変化も無視できません。40代・50代の方のアドバイスは時代が違いすぎて的外れなことも多いようです(私も現在48歳、たぶん的外れなアドバイスをしています、もちろん気を付けています)。
キャリアに関する相談を受けた場合、多くの方は自分の進んできた道や今関わっている領域を勧めがちです。監査法人にずっと残っている人に相談すれば、監査法人で働き続けるのがいいよと言いますし、ベンチャーで頑張っている人や、ベンチャー周辺にいる人(ベンチャーキャピタリスト等)に相談すれば、ベンチャーウェルカムだよと言います。残念ながら、中立的な見地からではなくバイアスがかかった(歪んだ)アドバイスの可能性があります。
また、「それならプロ(専門業者)に相談するのがよいだろう」と、人材紹介会社に行くのはよいですが、そのアドバイスを盲目的に信じるのも危険です。
人材紹介会社は、ビジネスとして人材を動かす会社です。自社が動いたことによって実現する中途採用の実現時に報酬が支払われます(年収の40%前後)。 いくら親身に相談に乗っても、他業者が勧めた会社に転職が決まってしまえば、売上ゼロ(ただ働き)という厳しい世界です。必ずそうだとまでは言いませんが、人材紹介会社はお立場上、その人が入社できそうな進路(会社)を勧めてくる可能性があるのです。
いろいろな情報を集めることは大切ですが、最後は自分の責任で決めることです。成功も失敗もすべて当事者の責任です。思い通りにならなくて他人を恨んでも何の意味もありません。
「私は、周囲(同期等)とは違う異次元の活躍をしたいんです!」と言いながら、「同期は・・・と言っている」、「普通なら・・・はやらない」と周りを気にする方がとても多いように感じます。
突き抜けたいと言いながら平均や標準から離れることを嫌がるというのは意味不明です。矛盾していることに気づいていない残念な人だなと思います。
3.自分が何がやりたいのか、自分が何ができるのか は整理できていますか? ~ 自信過剰あるある
将来何を目指すのか?ということはとても深いお話で、そこまで考えられていない方も多いと思います(私自身も20代・30代の時にじっくりとキャリアについて考えられていませんでした)。
それでも、何かしらの方向感(こういう方向がよいとか、こういうことは絶対にやらない)をある程度は整理しておかないと、行き当たりばったりのキャリア形成となってしまいますので注意が必要です。
そして、もう一つのポイントとして、自分の現時点での実力(市場価値)を冷静に評価しておくことは大切です。
これは会計士に限らないことですが、自分の実力を客観的に評価することは極めて難しいことです。
多くの場合、
本人が考えている実力 > 客観的実力評価(本当の実力)
という関係が成り立ちます。
この領域は自信がある と思っていることでもまだまだ序の口だという話はとても多いです。
たとえばですが、
・「IPOのことは大体わかってます」
監査法人に数年勤務して、IPOのショートレビューやIPO準備会社のインチャージ(主任、主査)を数社やったくらいでこのセリフと真顔で言う方を何人も見てきましたが、はっきりいってその方々はぜんぶダメでした(実力のなさに加えて、自己評価力のなさもあるので絶望的)。
・「リーダーシップには自信あります」、「チームを牽引することは得意」
事業会社で大苦戦している方多いです。監査法人で会計士を引っ張れたということと事業会社で従業員を率いることができるかは思いっきり別ものです。
プロフェッショナルを束ねることはそれはそれで難しいことです(優秀なメンバーを率いるためには自分もプロフェッショナルとして優秀でないといけない)。
しかしながら、プロフェッショナルではない事業会社の従業員にやる気を出させ、育成しながらリーダーシップを発揮していくことは思っている以上に大変なことです。プロフェッショナルは優秀かつプライドや向上心がありますので積極的に仕事をしてくれますが、事業会社の従業員は、会社にもよりますが監査法人ほどのハイスペック人材ではないことのほうが多く、プライドや向上心で勝手に仕事をしてくれるほど甘くはありません。
このギャップで苦労している方が多い(監査法人でチームを引っ張れていても事業会社でも通用するとは限らない)ということは知っておいたほうがよいと思います。
・「対外的なコミュニケーションには自信あります」
監査業務においてクライアントとのやり取りをとても上手くできていたからということでこのようなアピールする方もよくおられますが、転職してから苦戦しているケースが多いです。
監査業務において、監査法人の会計士とクライアント企業との関係は通常のビジネスでの関係とは別時点の特殊な関わり方です。クライアント企業からすると「怒らせてはいけない大切な大先生」ですので、会計士側からするとよい関係で付き合えているようになるのは当然です。この立場関係でトラブルを起こすのは大問題ですが、よい関係で付き合えていると思っているのは会計士側だけということはあるあるです。クライアント企業側は、不満(や怒り)があってもそれを我慢してくれているだけだったりします。
事業会社に行けば、その手の忖度は誰もしてくれませんので、コミュニケーション能力の巧拙の差が表面化することがあります(もちろんしっかりできている方もたくさんいます)。
コミュニケーションの話からは逸れますが、監査法人勤務の会計士は、飲み会にも当然のように遅刻してきますが、その時点で常識外れでダメだと思います。
なんか長くなってしまったので、いったんこれで投稿します(別記事で続きを投稿するか、この記事を再編集するか、どっちかやります)。
(追記) 続きを書きました( ↓ )。
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