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続・上場(IPO)準備スケジュール ~ 「永遠の〇〇期」問題など

 前回の続きです。

6.順調に(スケジュール通りに)上場できた会社は多いのか? 的な話題の注意点

 上場を果たした会社に対して「いつから上場準備を始めたのですか?」、「予定どおりのスケジュールで上場できましたか?」のような質問やアンケートがされていることがあります。
 その結果を見ると「ほぼ予定通り上場できた」、「予定よりも1年遅くなった」のような声が結構多く、「上場延期を繰り返して、ようやく上場できました」という会社は少数派だったりします。
 恐ろしいのは、「上場プロジェクトは始まったら案外順調に進むものなんじゃないか」というとんでもない誤解です。
 この手の調査の対象は上場できた会社です。上場を目指した会社全てに聞いているわけではありません!(そんな調査はありませんが、もしあったら衝撃的な調査結果になります)
 上場できた会社の数倍の、上場できていない会社がいることをお忘れなく。

上場ひと握りの図

7.「永遠の直前々期」、「永遠の直前期」 問題!?

 何年たっても、次のステップに進まない会社が結構あります。

・〇〇社は、今年上場する予定と聞いていたのにぜんぜん上場しないなぁ
・✖✖社は「いまが直前期」って言って人材募集をやっているけど、1年前も同じ内容の求人がでていたよな・・・
・△△社の社長は、「いまが直前々期」って言ってるけど、2年くらい前に会った時にも「いまが直前々期」って言ってたよ・・・

 この手の話は、業界内では本当によく聞こえてきます。上場は、その会社の業績動向、社内体制の整備状況、株式市況の動向など様々な要素がうまく噛み合って初めて実現します。
「今が直前々期だから、2年後にはぜったい上場できるな。もし、1年遅れたとしても3年後には上場だ」のように能天気に考えてはいけません。上の6.にも書きましたが、上場は、一握りの会社だけが到達できる高い頂きなのです。
 なかなか次のステップに進まないとどうなるでしょうか。社内外が疲弊していきます。「上場が見えているから」と期待して集まった人材は、それがいつになるかわかならいとなってしまえば離れていきます。いつまでたっても監査証明が出せるようにならないような会社の場合、監査法人が離れていってしまうこともありえます。主幹事証券会社も、コンサル契約の解消を提案してくるかもしれません。

ラットレースのイラスト(男性)

8.上場準備プロジェクトが順調に進んでいるかどうかを正確に把握することは結構むずかしい

 私は、これまでそれなりの数の上場準備企業に関わってきましたが、やればやるほどこの難しさを感じます。

(よくある話)
・社長は「上場準備は予定通り進んでおり、今期中に上場できる」と思っているが、実は問題山積み。
・CFOは、経験がないので今の進捗が順調なのかもよくわからず不安がいっぱい。
・監査法人は、会社の前ではいわないが上場延期になる前提で監査スケジュールを組んでいる。
・人材紹介会社からは、上場が近い会社の求人として人材募集が出ているが、実は上場延期が決まっている。

五里霧中のイラスト

 文字で表現することがとても難しいのですが、複雑怪奇・疑心暗鬼?の世界です。

・経営者とプロジェクト責任者のコミュニケーションエラー
 気難しい(怖い)経営者がいる会社にあるパターン。
 「上場準備作業が遅れていて、このままでは上場延期になってしまう」というような状況であっても、そのSOSを報告すると大叱責されてしまうのが見えているので報告できない。悪い情報はひた隠しにして「問題ありません。順調です!」とだけ報告している。どこかで修羅場が・・・
 スペック高めのIPO経験者を中途採用した場合などは、このパターンの出現可能性が高まります。ピンチがあっても「それを何とかするのがあなたの役目だろ」と言われてしまうので、ずっと抱え込むしかなくなってしまうことも。

・プロジェクト責任者と証券会社とのコミュニケーションエラー
 主体性が乏しく言われたことだけをしっかりやるタイプのプロジェクト責任者と、経験があまりない証券会社担当者の組み合わせで出現可能性が高まります。
 経験があまりない証券会社担当者の場合、全体像を示しながらの指導が上手にできていないことがあります(この先にいつ頃どんなイベントがあるのか、どれ位の負荷がかかるのかを十分に伝えていない)。
 会社側のプロジェクト責任者のお仕事スタイルが、言われたことだけをやる(=必要なことは言ってくれるだろうという甘え、ぎりぎり合格点狙い、先回りはしない)タイプだと、「急かされていることが特にないから順調だろう」と考えがちです。ところが証券会社担当者は「すべてのタスクを説明しなくても当然にやってくれるだろう」と思いこんだり、経験不足による指導漏れをしてしまうことはあり得る話だが、それが顕在化(炎上)するのは後になってから・・・

・「上場準備作業の遅れ」があっても、業績未達など別の理由で・・・・
 出現頻度が一番高いのはこれかもしれません。
 上場準備がいくら順調だとしても、業績の悪化などがあれば上場スケジュールはあっさり延期となります。
「業績が当初予定どおりではありませんので、残念ではありますがスケジュールを1年後ろ倒しにしましょう」というようなことはよくある話です(こう言われてしまえば経営者としても納得せざるをえない)。
 その場合でも、社内的には「上場準備作業としてはやれることを粛々と進めていこう」となることが多いと思いますが、上場延期によるモチベーションダウン等で案外進まないものです。十分な時間があった割には積み残し事項が沢山でてしまい、その後業績が回復したなどで上場プロジェクトが本気で動き出したときに「あれもこれも遅れている」と大騒ぎになること(経営者はびっくり&がっかり)などはあるあるです。

・(もうダメなのに)なかなか上場延期が決まらない問題
 これもよく出現します。様々な理由で今の上場スケジュールでは進められない、上場日程を延期せざるをえないとなった場合でも、その決定がギリギリまで遅れることがよくあります。上場日程を変更することは、少しでも早く上場したい会社(経営者)にとっては一大事ですので、軽率に議論できるものではありません。
 多くの場合、日程変更を打診するのは主幹事証券ですが、「嫌な議論は後回しにする」という人間の本能?によって、このタイミングはギリギリまで引っ張られることになります(あえてプラス思考っぽい言い方をすれば「ギリギリまで諦めずに頑張った」)。
 上場延期の理由がたった一つの理由ということではなく、いくつかの理由がある場合だとよりややこしくなります。業績も予算未達でダメそうだが、社内管理体制面もボロボロでとても審査が通らないだろうというケースなどです。会社のプロジェクト責任者としては、後者を理由に上場延期となると自身の責任問題にもかかわることですので、立場上、前者が理由での延期のほうが都合がよかったりします。社内管理体制の整備がぜんぜん出来ていないため無理だろうという状況でも、業績未達を理由に延期が確定するまでは「全力を尽くす」ポーズをとっているということなどもあるある話です。

 こんなことに加えて、上場スケジュールは様々な関係者との間でも話題になりますが、伝聞での情報ですので、誤った伝わり方になりがちです
 外部の関係者(監査法人、株主、人材紹介会社など)は、会社の特定の人物から今の上場準備の状況(スケジュール感)を聞きますが、その聞いた相手が正確な状況を知っているとは限りません。
 例えば、監査法人が経理担当者から「もうすぐ主幹事証券の審査が始まる」と説明を受けたので、それに対応する動きをしていたところ、実はその時点で経営層では上場延期が決まっていた(現場には伏せていた)のようなこともありえます。

暗礁に乗り上げる人のイラスト(男性)

 今回の記事は実務に入り込んでいない方にはわかりづらいご説明かもしれません。それでも、何か読者の皆さまのヒントになればよいなと思い投稿します。

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