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鬱病だった頃の私に伝えたいこと

ふと、何気ない会話から、昔のことを思い出した。
鬱病で、起き上がることもできなかった頃の事。
まだ、自分がうつ病と言う病気だとも知らなかった。

「はい、おかあさん」
小さな手。まるい頬。

思い出した途端にぼろっと涙がこぼれた。

当時住んでいたのは窓が木枠でできたボロボロの借家で、
隙間風が、横たわる私の耳にたまった涙をひやして、
その冷たさで夢うつつから引き戻された。
もう、20年前のことだ。

2人目の子を妊娠したばかりだから体調が悪いのだと思っていた。
起き上がることが出来ず、食べることもできず、
妊娠初期ではなるはずのないひどい貧血になった。

夕食だけはふらふらしながらもなんとか作っていた。
当時3歳の息子は食が細く、私もほとんど食べなかったが、
当時の夫に何かをする接点が、夕食を作ることだけだったから。

その夕食も、ほとんどが捨てられていた。

夜も眠れず、朝は起き上がることもできない。
当時は本当にお金がなく、
結婚前に爪に火を灯すようにしてためた貯金も底をつきそうだった。

食が細い息子のために、常に「黒糖アンパン」だけは欠かさず買っていた。
それしか食べなかったのだ。
歩いて5分の近所の店に、息子の手をひいて休み休み、
15分ほどかけて買いに行っていた。

「おかあさん、おなかがすいた」
息子は数字が好きで計算もできるのに、
言葉が遅く、当時もその程度しかしゃべらなかった。

「あとふたつあるから全部食べていいよ」
そう言うと取りに行き、自分であけて食べていた。
暗くならない限り、それが朝なのか昼なのかわからなくなっていた。
息子が食べているのを確認した私は再び、
眠りとも、現実ともつかないところへ降りて行こうとしていた。

「はい、おかあさん」
息子の声で目を開けると、息子の顔があり、
手に持ったアンパンを差し出していた。
「お母さん、食べて」

息子の優しさと、心配をかけている申し訳なさと、
動けない自分へのなさけなさと…。
涙が出た。
お腹が空いていないからと言っても、差し出したまま動かない。
「じゃあ、はんぶんこしよう」
そういって、二人で分けて食べた。

このシーンは、あれからふとした時に何度も思い出してきた。

あの頃の私に伝えたい。

あなたはうつ病と対人恐怖症と言う病気になっているんだよ。
それがわかるのはもう少し先だよ。
もう少ししたら、その泥の底のような暗闇から出ることをあなたは選ぶよ。
本当はもっと早くそうした方が良かったけど、
それだと娘は生まれなかったからね。

あなたが一人で産んだ娘はお兄ちゃんと同じ、優しくて良い子だよ。
あなたの生きる力になるよ。

「死」を選ばないでくれて、本当にありがとう。
本当によく頑張ったね。

「子どもたちのために」って、
その真っ暗闇から立ち上がったことが、
そこから先のあなたの強さになるんだよ。

正直、そこから先の人生の方が波乱万丈だよ。
大変なことが「これでもかっ!」てくらい起こるよ。

結婚詐欺にあいそうになったこともある。
でも、大丈夫。あなたはケチだから。

今は否定しているスピリチュアルな力も肯定できるようになるよ。
大好きなおじいちゃん達から引き継いだ力だもの。

全く自分をわかっていなくて、
自分に合わない場所に行って、
無理して働いて、死にそうになって。

その中から、あなたは本当の自分を知り、
感じやすく、揺れやすく、身体もそれほど強くないから、
たくさんの病気を抱えることになるけど、
何度もつまづいて、倒れて、それでもその度に立ち上がり、
自分の足で歩いていくよ。

たくさんのものを失って、
本当の自分を手に入れるよ。

「揺れやすい」は、「弱いじゃない」って知っていくよ。

大変だけど、自分との付き合い方を覚えていくよ。
少しずつだけど、「普通」とは違っても、
本当のあなたを理解してくれる人たちに出会えるよ。

起こること、全部あなたに必用なことなんだよ。
今はそう思えないだろうけど。

だから、その苦しさの中で頑張ってくれて、
本当にありがとう。

本当は聞こえているよね。
だって、聞こえていたもの。
誰かに呼ばれているって、知っていたもの。
「大丈夫」って、聞こえていたもの。

全部、何も問題なく、なんてならないけど(笑)
今の私は全部自分に必要なことだって、思っているよ。

ありがとう。
どうか、がんばって。
負けないで。弱い自分に負けないで。

大丈夫。あなたは、負けないから。絶対に。

(2015年)

私がうつ病だった頃のことを思い出して2015年に書いた文章です。
この体験も、私がカウンセラーになるきっかけの一つとなりました。

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