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奉公さん(香川県・高松市)_20200902

47都道府県各地の郷土玩具を張子で模造する『てのひらのしわざ』シリーズは、いよいよ本州を離れて四国地方に入りました。

今回は「高松張子」と呼ばれる高松の郷土玩具の中でも代表的な「奉公さん」を取り上げたいと思います。

個性際立つキュートな高松の郷土玩具たち

張子特有の丸みを帯びた柔らかい造形に鮮やかな色彩で描かれた、やさしく大らかな顔の子どもや動物や神様など、モチーフも多彩でコレクション心をくすぐるのが、高松の郷土玩具である高松張子や土人形の魅力です。

高松市の民芸福田さんという民芸品店のサイトにある「讃岐の郷土玩具」のページには、様々な種類の張子やつまみ人形・土人形が掲載されています。見ているだけで本当に楽しくなるものばかりですので是非のぞいてみてください。通販もやっているようです。

高松張子の歴史

歴史は古く讃岐国高松藩の藩主、生駒家のお家騒動後の寛永19年(1642)、常陸国(茨城県)下館から松平頼重が転封(大名の配置替え)した際、その家臣によって張子の製法が伝えられたそうです。

関西の人形や玩具の影響が見られながらも(個人的には京都の人形っぽい顔や意匠の影響が伺えます)、讃岐独特の郷土色が伺える現在の系譜となったのは、明治時代に入って梶川政吉が生業としたのが始まりです。

この梶川家や政吉の弟子などが活躍するも、それぞれの死没によって戦前にいずれも廃絶の憂き目にあうのですが、政吉の次女、宮内フサ「高松宮内張子」として系譜を受け継ぎ、現在はフサの孫である大田みき子さんが「宮内張子」の3代目としていまもかわいらしい張子をつくられています。

「高松宮内張子」と名付けて他の「高松張子」と区別されてはいますが、「宮内張子」以外の「高松張子」も魅力的なものが多く存在しているので、いつか高松を巡りたいものです。

張子で人間国宝となった宮内フサ

「人形」というジャンルでは人間国宝は何人かいるようなのですが、お土産的な手頃な価格で買うことのできる「郷土玩具」で人間国宝になった人は他にいるのでしょうか。すごいですね。

張子職人の梶川政吉の次女として明治16年に生まれた宮内フサさんは、第二次大戦後にその功績が認められ、昭和60年(1985)に102才(ご長寿!)で亡くなるまで輝かしい経歴を重ねています。

そんな宮内フサさんのつくる張子は、意識して真似をすることなど不毛な領域といいますか、張子自体の造形をつくる手つきや筆致は、その時のフサさんご本人そのものが現れたものではないかと思います。僕も所有する「奉公さん」を手に取り眺める度に思わされます。

下の画像は僕の所有する「奉公さん」です。型に和紙を貼ったり筆を握る握力や、筆致を操るための視力や、その時の体調や天候など、様々な要素が制作される張子には現れてくると思いますが、すごい境地です。

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老境に至りさらに魅力的な張子をつくられていることで思い出したのは、千葉の佐原張子の鎌田芳朗さん。最近はあまりつくられていないのか、鎌田さん作の張子はプレミアム価格がついて転売されてますが。。以前紹介した記事を貼っておきます。

ところで「奉公さん」とは?

こけしやお雛様の張子版のような姿の「奉公さん」ですが、かつては郷土玩具の全国番付などで、西日本の部において横綱・大関クラスに必ずと言っていいほど入っていたそうです。

赤い衣に松竹梅をくずした模様と宝珠が描かれていると言われる(ぱっと見ではわからないですが、、らしいです)衣装を着たこの童女はいったい何者なのでしょうか。

お姫様の身代わりとなった「おまき」さん

「奉公さん」と呼ばれる童女の話は、高松張子の歴史の説明に出てきた、高松藩に松平頼重が来てその家臣が張子技法を伝える前の、生駒家が藩を治めていた時代の伝説です。

生駒のお殿様に仕えていた「おまき」(昔は「おくに」という名前だったそうですが、現在は「おまき」となっています。)という女の子がいました。このおまきは、醜い顔をしていたそうですが、とても賢い子だったそうです。ある時、生駒のお姫様が重い病(熱病とも疱瘡とも)にかかってしまい、手を尽くしてもその病は治ることがありませんでした。そこでおまきは、お姫様の病気を自分の身に移し受けて、お姫様の身代わりとなって離島へと流され、そこでとうとう死んだそうです。
世の人々はおまきのことを「奉公さん」と呼び、彼女を称え憐れみました。

これが「奉公さん」の由来で、子どもが熱病などにかかると、「奉公さん」を買って子どもに抱かせてそれを海に流すと、子どもの熱が不思議と全快するという民間伝承が紹介されて、一般に知られることとなりました。

身代わりや人形の系譜

「奉公さん」をはじめ、幼児の災厄を祓う形代の役をつとめる「這子(ほうこ)」が変化し、赤い布でつくられる縫いぐるみ人形「さるぼぼ」や、災いや疫病や穢れを人間に代わって背負わされ、お祓いをした人形を船に乗せて川に流す「流し雛」(ひな祭りー桃の節句ーの風習)など、全国各地に子どもの病気や災厄を祓うためにつくられた「身代わり人形」の類はたくさんあるようです。

音で気がつくかと思いますが、「奉公さん」は「這子(ほうこ)」が転化したものと言われています(「婢子」と表記することもあるようです)。

この「這子」信仰の歴史は雛人形とともに平安時代からあり、それが様々に形を変えていまも郷土玩具として残っています。

生死に関わる問題のアウトプットは地域ごとに変化はあれど、問題自体はやはり地域関係なく存在するものですね。

以下は、以前に書いた「さるぼぼ」と「ひな祭り」について書いた記事です。

【張子制作MAP】
36/47。四国編がスタートしました。この勢いでテンポよく進められたら良いなと思います。次回は徳島県を予定しています。お楽しみに。


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