歯科医院の床材について考える

歯科医院の床材に求められる性能はズバリ「最強」です。

まず重量級のキャスターをゴロゴロ動かします。
ワタベデンタルでは重量100kg越えのマイクロスコープが鎮座しています。そして30kgを超える材料や小器具が入ったメディカルキャビネットを頻繁に動かします。ドクターが座る診療用のイスも同じところを頻繁に、座りながら引きずり続けます。
この時点でキャスター対応+耐荷重が必須です。
ぐっと選択肢が限られます。

さらに薬液が頻繁に床材にかかります。
アルコール、次亜塩素酸、オキシドールなどの消毒系薬剤など
これらは清掃消毒のためにも床材に使用します。毎日です。
他にも、
ヨードホルム、ホルマリン系薬剤、リン酸やクエン酸なども医院に設置している場合があり、床に飛散する可能性があります。
耐薬品性が必要です。

これに加えて大小さまざまな金属片や石膏の破片が散らばります。これらは鋭利であることが多く、この上を重量級のキャスターが動きます。
陶材の切削粉、ダイヤモンド並みに硬くて鋭利なジルコニア、義歯を削った際に出るアクリル切片などが床の上に飛散し続けるのです。

エンジンやタービンなどの切削器具からはオイルが飛散します。

もっとも厄介なのは人工歯に使うアクリルレジンです。歯科ではMMA(メチルメタクリレート)というアクリルレジンが多いです。それに付随するアセトンなどの溶媒も床に頻繁に垂れます。
多種多様の接着剤も床に垂れる可能性が高いです。
床に落ちて固まったアクリルレジンと溶媒が短期間に床を損傷させます。
残念なことに塩ビシートと溶媒+アクリルレジンはくっつきやすい。
耐溶媒、耐レジン…さすがに不可能です。

つまり、歯科医院の床に求められる性能を、コスト含めて満たしている床材はたぶん存在しません。

塩ビタイルの悲劇

MMA系のアクリルレジン(ユニファスト)の液体が床に落ちて固着しています。目地も浮き上がってズレているのがわかります。

多くの歯科医院では塩ビタイルを使用することが多いです。どうせ短期間で劣化するのなら、張替え前提でコスパの良い塩ビタイルを張ります。
でも、劣化しても張り替えません。
ちょっとした床の修理でアポイントを切るわけにはいかないのです。
張り替える時はデンタルユニットの入れ替えと同じ時期になる歯科医院が多いです。よって厳しい環境で10年以上使い続けることになります。

塩ビタイルの最大の欠点は目地です。
経年劣化で目地が広がり、そこに汚れがたまって汚くなります。
そして接着剤の劣化で微妙に浮き始めます。浮いたところを重たいキャスターが通過するので、目地部分で引っ掛かって表面を剥離させることがあります。
重たいキャスターが何度も何度も転がると、さすがに耐キャスターであっても表面がボコボコし始めます。
ビシッとそろって、目地の細い張りたてのときはキレイでも、目地が広がって、タイルが傾き、一部が浮き始めると、途端に汚く見えてしまいます。よって私の医院では塩ビタイルを使いませんでした。

汚れの上をキャスターが何度も通過して傷つけています。ボコボコしています。

重歩行用の長尺塩ビシート

サンゲツ PM-20117 写真だとビニールに見えないのでは?

ワタベデンタルは土足ではないのですが、床に多種多様な物質が散らばり、加えてその上をキャスターが転がることを想定して土足用を選択しました。砂や石でも大丈夫くらいでちょうどいいと考えたのです。
目地に汚れがたまるため、目地のない長尺シートを選択しました。
部分張替えができないため、メインテナンス性はタイルのほうがいいのですが、余程のことが無い限り張り替えません。だったら目地のないシートにしてしまい、張り替える時はユニットごと一気にリフォームすればいいと考えました。

びっくりしたのは塩ビシートなのに、以外にも木っぽいのです。パッと見ではわからないかもしれません。
床材に関してはあきらめていたのですが、けっこう気に入っています。
最近の建材の進化はすごい!


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