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「G-ZONE」が見据える歯医者の変化

 開業の時にあるメーカーから「G-ZONE」というコンセプトを教えてもらいました。「G-ZONE」は15坪の狭いテナント、ユニット2台、自動会計システムという超コンパクト歯科医院コンセプトなのです。まるで私の歯科医院のようです。
・ユニット5台以上でないと潰れる
・1億円歯科医院を目指す必要がある
など開業セミナーで言われることとは真逆なのです。日本トップの歯科メーカーが逆張りしてくるとは。

大きい歯医者が増えた理由

 1億円歯科医院のルーツは20年くらい前のインプラントバブルにあります。インプラントを打ちまくって荒稼ぎできた時代です。当時、CTだけでも1台4000万円くらいと超高額、その他インプラント関連の機材をそろえると途方もない金額でした。ですが投資額以上に儲かりました。
 設備負担が重かったため、規模の拡大を図ることにより、見かけ上の設備投資の比率を軽くしていました。さらにスケールによる売上高の上昇によって、融資を通しやすくするメリットも考えられます。

20年くらい前は大規模の歯科医院が少なく、スケールメリットはそれなりに見込めたと思われます。
インプラントは大網漁のようで、多くの人を集めて、その中に一定数いる「マグロ」を捕まえる方法です。だからスケーリングによる集患力の上昇が有効でした。多くの人が通院する歯科医院という安心感もあったと思います。時期的に団塊世代が管理職ないしは退職金が見込まれる定年期だったため、インプラントなどの高額医療に手を出しやすかった面もあります。もちろん売上1億円突破という見栄っ張りもあります。

 しかし時代は変わり、スケールメリットは大幅に縮小しました。団塊世代が退職し、定期収入がなくなったため大盤振る舞いができません。たとえ十分な資産があったとしても、預金が減っていくだけなのは不安なのです。
死亡事故が起きたインプラントに対する不安
インプラントが必要な人が一巡した
などいろいろ要因はあると思いますが、要するに
インプラントブームの終焉です。
インプラント関連企業の急速な業績悪化が物語っています。

スケールデメリット

 ドーンと増えたものはズーンと下がります。
親父の言葉を借りれば「太く短い経営」というものです。
インプラントという経営基盤を失いつつある大規模歯科医院は、自重を支えるのがやっとの状況である法人が多いです。今やスケールは害となっており、人件費の高騰、材料の高騰、一人当たりに発生するコスト、これには金額だけでなく時間や人的コストも含まれます。故・クリステンセンのジョブ理論にある「内部の取引コスト」が急上昇しているのです。
 もともと医療は人的コスト負担が大きく、スケールに対する内部の取引コストが急上昇しやすい。工場のような中央集権的な管理スタイルが不向きなのです。実際に市民病院のような大規模医療機関のほとんどは赤字状態です。

 もちろん規模の大きい歯科医院の増加による集患能力の低下、つまり競合の参入による外的要因も考えられますが、近年の経営悪化は医院の自重による自滅です。1億円歯科は一過性のブームと考えています。

 今の若い世代は慎重です。これからどんどん良くなるなんて微塵も思っていません。上のひとたちとは真逆の考え方なのでしょう。当然、開業にも慎重なため危険な投資を避けます。安定志向も相まって、このような小規模化という原点に復帰するのです。
 そもそも歯科医療サービス界の本質はコストリーダーシップです。シビアなコスト管理が絶対条件です。売上高よりもコスト圧縮が生き残る上で重要です。
 1億円歯科は砂上の楼閣。もともと無理があったのに、一過性のブームでコストリーダーシップという歯科医院経営の絶対条件を破って存在していたのです。そもそもブームに乗っかった時点でアウトです。
 しかし、このメーカーの先見性には目を見張るものがあります。私たち歯科医師に夢を見させて、でっかい歯科医院を無理やり作らせれば自社の売上につながります。「G-ZONE」は短期的に見れば売上の減少に直結するのですが、長期の視点に立てば、私たち歯科医師と良好な関係を築くことが可能です。つまり自社にとっても長期にわたる利益を提供できます。

 歯科医院の開業時は大きな金額が動くため、大きな思考に偏りがちです。開業セミナーでも大きいメリットばかり強調します。ここで冷静に事業計画を練れるかどうかが今後の一生を左右することになります。


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