舞台『ボクタチのキョリ』

2021年7月15日 中目黒キンケロシアター

6月に女性キャストだけで上演された作品の男性版。作演出は HIGHcolorsを主宰する深井邦彦。キャストは若手からベテランまで幅広く揃えた印象だが、観劇後に振り返ってみると物語に実に上手くハマったキャスティングだったと思う。
物語はというと、扉が閉ざされ携帯も通じない部屋に集められた15人が姿を見せない謎の主催者から、あるテーマについて考え一人ずつ答えを出すよう求められる。主催者が求める答えを出した一人には1,000万が支払われるというが、逆に求められない答えの場合は、争奪戦から脱落して、しかも制裁が与えられるというなかなかに理不尽なルール。そしてそのテーマは「生きるとは何か?」。様々な事情から1,000万を欲する15人(と言いつつ欲さない人もいる。そこがまたミソなのだけど)は答えを出すためにもがき、その中で徐々に気づいていく……。

これ以上書き進めるとネタバレになるのでこの辺で止めるが、一つ書くなら、人生のなかでおそらく大多数が何度か出くわす「死にたい」という感情は、無意識の中にうっすらと張り付いている「生きたい」という感情の意思表示だと、改めて気づかせてくれるいい作品だということ。
ケンケンガクガクとテーマについて話し合う役が15人もいると、存在感に若干偏りがあるキャラクターも居る気がしたが、そこを満遍なく説明的にすると無闇に膨張するのでこのくらいが妥当なところなのだろう。

飛躍しすぎかも知れないが、高校演劇部向けの題材としても適材だと思った。もちろん男性版、女性版とできているので、ミックス版でもぜひみてみたいところだ。
それにしても佐藤正宏の演じるお父さんは見事なもの。動きや表情の裏に見せる愛情に胸が熱くなった。18日まで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?