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舞台『hana 1970、コザが燃えた日』@東京芸術劇場

凄まじいものを見せて貰った。ともかくこの一言に尽きる。

舞台は沖縄、基地の街コザ。沖縄戦で家族を失った“おかあ”(余 貴美子)が営む米兵相手のバー兼質屋で物語は進む。家を飛び出してアシバー(ヤクザ者)になった長男を松山ケンイチ。教員となって今は中で暮らす次男を岡本天音が演じ、沖縄復帰直前の1970年12月に起きたコザ騒動を背景にして話は進んでいく。長男、次男といってもこれは収容所で形を整えた家族だ。

沖縄復帰から50年という節目の年にテレビドラマや映画で大人気の俳優を起用した舞台だから、戦後まもなくの沖縄に実在したであろうシチュエーションの中で「血は繋がって無くとも、愛情でつながっているのだよ」と心温まる物語をたおやかに紡いでいくのかと思っていたら、これが大違い。沖縄が持ち続けている苦悩や矛盾にもろに斬り込み、大胆にえぐり出している。演出の栗山は作品を通して沖縄の演劇界とつながり、脚本の畑澤は生粋の東北人だが沖縄を取り上げた作品は4本目だという。それだけに沖縄の歴史や文化には深い蓄積があるとは言え、ヤマトンチュ(本土の人々)が陥りやすい思い込みもなく、(おそらく実に)リアルな“あの頃の沖縄”を再現している。さぞ入念に取材を重ねたのではないだろうか。そして観客への忖度がほとんど無いのも驚いた。はじめから終わりまでウチナーグチ(沖縄方言)のオンパレード。単にイントネーションの違いだけでなく、言葉そのものが沖縄出身者(ウチナーグチが少なからず理解できる人という条件付きだが)以外には難解なものを容赦なく盛り込んでいる。さらに“PPM”“艦砲射撃”“火炎瓶”“復帰協”“『戦争を知らない子供達』”“ベトナム戦争”“ピューリッツァー賞”等々、当時の本土と沖縄のキーワードが満載なので、それらに反応できないと理解不能な部分を積み残すことになるが、そういったことへの遠慮は一切無い。

そしてなにより松山や岡本の演技も素晴らしかった。普段の現場とは環境の違う劇場空間だが、それに負けることない熱量を発揮しての好演。松山は会話劇初挑戦だというが全くそうは思えない。初めてと言えばおかあの娘、モモコを演じる沖縄出身の上原千果もこれがデビュー作だと言うが、透明感を感じる清々しいオーラを纏っての演技には感心させられた。そしてなんと言っても余の圧倒的な存在感にはもはや感動しかない。

あかあ(余 貴美子)と父親がわりのジラースー(神尾佑)

まだ年明け間もないが、既に2022年ベストの舞台に挙げたい作品。月末まで上演しているので、是非多くの人に観てもらうことを熱望したい。東京芸術劇場にて30日まで。

長男ハルオ(松山ケンイチ)と次男アキオ(岡本天音)


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