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「アメリカン・ベースボール革命」の中で最も印象的なセリフを紹介~科学の発展による逆説的現象~

アメリカン・ベースボールの書評を投稿する前に、私がこの本を読み通した中で最も印象に残ったセリフを紹介します。このセリフの裏にあると思われる私が解釈した言外の意味を初めに載せておきます。まず、現在のMLBではデータ解析が進んだことによってインプレーが大幅に減って、三振、四死球、ホームランの合計で全プレーの30%を超す現象が起きています。これは、プレイヤーが決して頭を使っていないわけではなく、近年の野球界の傾向に従ってより効率的に長打を増やそうとするために、それに伴う代償として三振数も増加してしまうことが原因にあります。このようにプレイヤーや球団からすれば、「成績」,「勝利」をより多く求めるために最善の策を追い求めることは理にかなっていますよね。しかし、はるばる観戦をするために訪れた客の目線から言えば、インプレーが多い方が”直感的に”面白いと感じる人や最近の野球に対して何か退屈な印象を持つ人も多く存在するのです。個人的には、これは贅沢な悩みだと思います。なぜなら、データ解析が行くところまで行ったからこそ、この種の悩みが出るのですから。ここまでに書いた背景知識をざっと押さえて頂いた上で、下に載せた原文をお読みください。


「MLBの公認歴史家であるジョン・ソーンは2018年暮れにこう書いている。オーナーと選手、ファンの間のジレンマは、進歩のパラドックスといえるだろう。野球は確かに進歩している。ならばなぜ、これほど多数の人にとってよくないと感じられるのか?各球団が勝つ確率の高い戦略を採用することで、”科学”はグラウンド上で勝利を収める。だが人の心をつかむのは”美学”なんだ。それがわたしの見解だ。」観たいと思う人が減ってしまったら、どれだけ選手が上達しても無意味だろう。」(P412)

どうでしょうか。私がこのセリフが載っているページを読んだときは、10分くらい立ち止まって色々な感情を整理していました。そしてこの本の著者ではないですが、文末の寄稿欄で統計学者の鳥越規央氏がイチロー選手の引退会見を引用する形で面白いことを述べていました。齟齬の生じない範囲で要約するとイチロー氏は、ここ最近の野球が頭を使っていない野球になってしまっていると会見の場で述べていました。この統計学者の方はストレートにこの意見と相対していることを表明はしていなかったものの、文脈から肯定的な立場ではないことは明らかです。個人的には、取る立場によって考えが変わると思います。例えば、イチロー選手のような現役時は広角に打てる練習をしていた選手からすれば、考え抜かれた上の現時点の最適解である長打をより狙うバッティングに帰着することには違和感を覚えて頭を使っていないように見えるかもしれません。一方で、この結論を導いた側の立場に立てば、ルールの中で考え抜いた現時点での最適解がこのようなものであるのである意味仕方が無いのです。

この本で度々言われていることで私も賛同をするのですが、理論は更新されてなんぼだと思います。このアメリカン・ベースボールで書かれている理論のほぼすべてが数年後にはほぼ化石化している可能性もあります。しかし、個人的には、その理論の変遷を追うことは非常に意義があり、ある議論を批判的に捉えた上で様々な議論が巻き起こることは進歩している裏返しだと思います。そこから得た少しずつの気づきが積み重なって新たな理論が生まれると思います。だからこそ、今回のデータ解析が進みすぎたという事象に対して今後どのような展開が待っているのかについては現在進行形で楽しみにしています。

書評の前座はこの辺で締めたいと思います。

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