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ヤドカリ ③


でも、もう私は宿はいらない。


自分はもう自分で、
自分(ここ)に居場所がある。


宿借りしなくても自分で立てるようになった。 


こうなるまで、たくさんの葛藤があった。

高校の同級生が一流大学を出て立派に働いている姿、同年代の人が町で働いている姿、ベッドから起きることさえできない自分。

たくさん比べては死にたくなり、何度も死のうとした。
自分が憎くて生きている意味がないといつも思っていた。生きていたくなかった。一時は精神科の閉鎖病棟にも入院した。



しかし、そういった所で出逢う人たちは何らかの病気、障害を抱えながらもとても自分を生きていた。
そしてなにより、みんな優しくて素直でまっすぐだった。

私は完全に間違っていた。
今まで私は、障害のある人をかわいそうだと思っていた。
よくテレビで「支え合おう」「みんな一緒」なんて文句を言っているけれど、内心自分とは全く別の世界の人だと思っていた。
いくら笑顔でもいきいきしているように見えても、かわいそうだという気持ちが何処かにあった。

しかし、それは偏見だと言うことに気付かされた。自分自身がいざ当事者となったことで百八十度見方が変わった。



圧倒的に自分の考えや価値観が変わった出来事がある。

それが就労継続支援B型への通所だ。

これもまた、自分とは無縁の世界だと思っていた。
なんとなくA型B型というワードを聞いたことがあるだけで、まさか自分が通所するなんて思ってもみなかった。
だが今の自分にはアルバイトをする気力も体力もない。そこで、体調を優先して働くことができるB型事業所に通おうと思ったのだ。

B型事業所はA型とは違って雇用形態を結ばないため、工賃は低いが自分のペースで通所、作業ができる。

B型事業所では様々な障害をもった方々が働いている。

数を数えることが苦手でも、何かを伝えることが苦手でも、細かい作業が苦手でも、それでもみんな、自分ができる得意分野を見つけて働いている。
個々ができることをスタッフの方々と一緒に探して得意を見つけ、一人ひとりがその分野で活躍している。

みんな、働いている方々はその場のプロだ。
そこには健常者も障害者もない。その人にしか出来ない得意分野で活躍し、「労働」している。

もちろん私が出来ないことをする方もたくさんいる。
そして、私にしか出来ないことをする私もそこにはいる。


私はとてもその仕事に、その時間にやりがいを感じている。




もう私は誰か、どこかの宿を借りなくていい。
自分がいる、ここにいるから。




私の夢は、精神保健福祉士の資格をとり、ピアワーカーとして働くことだ。

ピアワーカーとは、自分自身も当事者(病気や障害者)でありながら働く人のことを言う。
鬱、パニック障害になった私にしか出来ないこと、伝えられないことがたくさんあるはずだ。
せっかく病気になったのだから、せっかく障害者になったのだから。今度は私が誰かの宿になってあげたい。誰かの居場所の一つでありたい。そしていつか、その人も自分で立てるようにサポートしたい。今まで私をサポートしてくださったたくさんの方々のように。




私は、ヤドカリだった。でももう、私は、私だ。




すなねこ🐈

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