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ウィロックがニューカッスルにもたらした光…完全移籍の可能性は?

得点力不足に悩まされていたのが嘘かのように、4月以降のマグパイズは相手ゴールを脅かすようになっている。そしてその輪の中心にいるのが、アーセナルから半年間のローンでチームに加わった、MFジョー・ウィロックだ。

冬の移籍市場が閉まる直前、ニューカッスルへのレンタルが発表された時、21歳のミッドフィルダーの名前を知る現地サポーターは決して多くなかっただろう。それが今や、SNSは夏の完全移籍を求める声で溢れかえっている。

圧巻の4試合連続ゴールでファンの“お気に入り”に

冬のマーケット終了間際にニューカッスル行きが決まり、2月6日のサウサンプトン戦で先発メンバーに抜擢されたウィロックは、この試合でいきなり先制ゴールを挙げ、まだ彼の名前もうろ覚えだったであろうジョーディの心を鷲掴みにした。

鮮烈なデビューを飾った若武者だったが、この試合で攻撃陣の”潤滑油”であるFWカラム・ウィルソンがハムストリングを負傷。その後ミゲル・アルミロン、アラン・サン=マクシマンといった、ウィロックと好連携を披露していた主力選手が相次いで離脱したこともあり、しばらくの間チームとともにウィロックもインパクトを残せない日々が続くことになる。

彼が真価を発揮し始めたのは、シーズン終盤に差し掛かった4月のこと。ブルースのチームは2021年に入って僅か2勝と低迷。降格圏に沈むフラムとのポイント差は僅か「1」まで縮まっており、サポーターの不満が最高潮に達していたタイミングだ。

首脳陣はこの頃から3-5-2の新たなフォーメーションを採用し、対戦相手に関わらず前からプレスをかけ、両WBが積極的な攻撃参加を見せるこのシステムは、上位勢との対戦でも効果を発揮する。先発を外れるようになっていたウィロックは、途中出場からチャンスを伺っていた。

まずは4月4日のスパーズ戦、1点ビハインドの状況でピッチに投入されると、ゴール前のこぼれ球に飛び込み、同点ゴールをマークする。同17日ウェストハム戦では決勝点となるヘディング弾、同24日リヴァプール戦でも試合終了間際に値千金のイコライザーと、全て途中出場で3試合連続の得点を挙げ、一躍ヒーローとなる。

僅か10分前後のプレータイムで重要な仕事をこなし続けたウィロックに、ブルースは5月7日のレスター戦で久々にスタメン出場の機会を与えた。監督の期待を背負った彼は、この試合でも相手のDFチャグラル・ソユンクからボールを掻っ攫い、そのまま名手カスパー・シュマイケルとの一対一を制して先制点をマーク。4-2の大勝に大きく貢献したのだ。

ウィロックがチームにもたらしたもの

ウィロックがこれだけ活躍できている要因の1つに、ポジショニングの良さが挙げられる。サウサンプトン戦やスパーズ戦のゴールシーンを振り返れば、彼がウィルソンら前線の選手が相手DFの気を惹きつけたころ、タイミングを伺ってエリアへと走り込んでいるのがわかるだろう。ボックス内でフリーとなり、相手のマークが手薄な場所へ顔を出してゴールを奪うのだ。

また、得点パターンが多いのも彼の魅力と言えるだろう。186cmの長身を持ち合わせており、空中戦で脅威を与えられる。リーチの長い足を生かしてボールキープもお手の物。おまけに加速力を生かしたスプリントまで・・・プレミアリーグの屈強なディフェンダーに競り勝ちヘディングでゴールを決めたかと思えば、前線でプレスをかけてボールを奪い、そのまま独走ゴールを決めてしまうこともある。毎試合彼には驚かされてばかりだ。

こうしたプレーを中盤の一角から、機を見てこなせる能力が、チームには欠けていた。守備専門職のアイザック・ヘイデンや、ロングレンジのパスを得意とするショーン・ロングスタッフ、ジョンジョ・シェルヴィーなど、一芸を持った選手が揃っているものの、相手のゴール前でボールを受けた時の心許なさは否めない。ウィロックが加わることで、ニューカッスルの攻撃は確実に厚みを増した。

新加入の若武者が生み出したチームの一体感

出してきた結果もさる事ながら、チームへの溶け込み具合も見事なものである。

チームに加入してまだ1ヶ月も経たない2月下旬、彼のインタビュー記事を翻訳させてもらった。ローンで半年しかいないチームのために、ここまで考えてくれているのかと感動させられるほど、参画意識をひしひしと感じる言葉がそこには並んでいた。

スタジアムへ足を運べないサポーターも、彼の虜になった。ゴールを決め続けているのももちろんだが、ウィロックの為人がそうさせているのだろう。レスター戦後、クラブ公式Twitterに上がった動画はトゥーンの間で話題となった。

感謝を伝えたウィロックは、最後に「Come on you Maggies!」と付け加え動画を締めくくった。アーセナルファンの掛け声として有名な「Come on you Gunners」をモジった彼らしい、ユーモアのある表現なのだが、ノースイーストの人間は決して“Maggies”なんて言葉は使わない。ニューカッスルファンの呼称は"Toon"や"Geordies"が一般的なところで、ロンドン生まれロンドン育ちの都会っ子が放ったこのフレーズは人気となった。

見事にチームメイトやサポーターの信頼を勝ち取ったウィロックだが、そんな彼の存在がチーム内部の雰囲気すらも変えつつある。

シーズン中盤以降、マグパイズはサン=マクシマン不在に打撃を受けて勝利から見放されていた。3月にはブルース監督と選手が対立し口論になり、それがクラブ内部の人間からメディアにリークされたことも含めて話題になるなど、ピッチの外でも暗いニュースばかりが先行。テレビ画面に映る選手やブルースの表情には、明らかな悲壮感が漂っていた。

そんな中、ウィロックのゴールラッシュとともにチームは周囲の批判を黙らせる快進撃を見せる。24日のリヴァプール戦、土壇場で同点弾を叩き込んだウィロックは、ボールがネットを揺らしたのを見るや否や一目散にベンチへ駆け寄り、ブルース監督と熱い抱擁を交わした。他の選手も後に続いて、スタッフを含めて一同が喜びを分かち合う姿は、ここ数年見ることのなかった光景だ。

もちろん、選手たちと監督の関係はこれまでも我々が思っている以上に良好だったのかもしれない。だが、ゴール直後という一番に感情を爆発させるシーンをスタッフやベンチの面々と共有し、表向きにも示した功績は大きい。

間違いなく今のチームを取り巻く一体感は、ウィロックを中心に生まれている。

ブルースはウィロックの完全移籍を望む

そんな21歳の完全移籍を求めているのはファンだけではない。ブルース監督が先日、記者会見で次のようなコメントを残した。

「彼には未来がある。才能がある。彼のような選手を中心に組み立てたいとチームは思うはずだ。来シーズンも獲得するチャンスがあるのならば、喜んで契約するよ」

しかし、ウィロックを取り巻く環境は複雑だ。アーセナル側でさえ、来シーズン彼にどんなプランを用意するべきか、決めかねていると言っていいだろう。

ミケル・アルテタのチームで主力として活躍するMFダニ・セバージョスとMFマルティン・ウーデゴーアは、どちらも6月末にレンタル元のレアル・マドリードへ戻ることになり、来季エミレーツでプレーするのか定かではない。パンデミックによりどのクラブも厳しいお財布事情を抱えていることを考えれば、身内で戦力になるウィロックを簡単に手放すとは思えない。

一方で、ウィロックは過去2シーズン、アーセナルのトップチームでチャンスを与えられながらも、目立った活躍を見せてこなかった。2019年8月、開幕戦でニューカッスルと当たった時、当時のウナイ・エメリ監督が期待を込めて先発で起用したことを覚えている人は少ないだろう。開幕直後はチャンスを与えられていたものの、徐々にプレータイムは減少し、アルテタ政権に変わると出場機会は更に少なくなってしまった。まだトップレベルで才能を開花させたばかりであり、気持ちよくプレーできているニューカッスルで、アーセナルがもう1シーズン修行させる可能性も考えられる。

アルテタ監督は先月、ニューカッスルで活躍するウィロックを賞賛した上で、プレシーズンにはチャンスを与えることを明言している。逆に言えば、レギュラーシーズンの構想入りは保証されていないということかもしれない。

無論、サポーターが求めるのは完全移籍で契約すること。5月12日、地元紙「クロニクル」が伝えたところによれば、金額次第でガナーズもオファーに耳を傾ける用意があるという。移籍金は2000万ポンドと伝えられているが、ブルースも次のマーケットで使えるお金は“多くない”と公言しているため、既存戦力の残留や契約延長をまとめられるかが鍵となるだろう。

残り3試合の活躍に目が離せない

シーズンを終えると、ウィロックはひとまずロンドンへ帰ることになる。

となると、残り3試合がニューカッスルのシャツを着る姿を見る最後のチャンスになる可能性もある。

レスター戦の大勝でチームは上り調子だが、エースのウィルソンはハムストリングの負傷がぶり返し、全ての試合を欠場することが確実となった。ウィルソンがいない状態で得点力が著しく下がってしまうことが永遠の課題である中で、4試合連続ゴール中のミッドフィールダーはまさに指揮官が求める存在だろう。

現実的な話をすると、1つでも上の順位でフィニッシュすれば、放映権料の分配金が数百万ポンド上乗せされる。ウィロックが活躍し、チームがポイントを獲得すればするほど、夏の補強資金にも余裕が生まれるわけだ。

ニューカッスルが毎年移籍市場で“怠惰”であること、そしてアーセナル側の複雑な状況も考えれば、交渉が進展するのはまだまだ先のことになるだろう。

だから今はひとまず、余計なことは気にせず、残り3試合、たっぷりとウィロックの活躍を堪能させてもらおうじゃないか。楽しみにしてるぜ!Come on you "Maggie"!

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