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切除不能転移性大腸がんの原発巣切除は生存期間に寄与しない

J Clin Oncol. 2024 Feb 27:JCO2301540. Online ahead of print.

転移性大腸がんにおける無症候性の原発巣切除については、本邦ではJCOG 1007(iPACS試験)が行われ、早期無効勧告から試験中止となりその有用性は否定的となった。しかし思った以上に症例集積が振るわなかったこともあり、厳密には検証的な結論までは至れなかった。今回そのiPACS試験のdiscussionにも記載があったSYNCHRONOUS試験, 及び CCRe-IV試験の結果が統合解析という形で発表された。結果的にはこちらの試験も患者集積に難渋しプロトコール改定を重ねた上で出た結果となったが、結論としてはやはり原発巣切除は予後を改善しないというものであった。

原発巣切除の適応については時々悩むところで、治療当初には臨床症状はないが一次化学療法が無効だった場合、閉塞に至りそうな症例は一部いる。最近は化学療法の奏効もかなり高くなり、まずはchemoで行ってもほとんど間違いはないのだが、これらの試験によって化学療法前の原発巣切除が完全に否定されたわけではなく、やはり症例毎に検討が必要だと個人的には考えている。


本試験は欧州で行われた2つのRCT (SYNCHRONOUS試験, 及び CCRe-IV試験)の統合結果である。対象患者は新規に診断された切除不能転移性大腸がん、及び上部1/3の直腸がん患者。症候性の原発巣を持つ患者は除外された。
患者は原発巣切除(PTR)群と非切除(Non-PTR)群に1:1に割当てられ、PTR群ではランダム化14日以内に切除が施行された。切除は可能な限りR0となるよう原発巣+リンパ節郭清を施行。化学療法はガイドラインに基づいて担当医判断で施行された。主要評価項目はOS。

症例集積は当初800例を想定していたが、中間解析で思ったよりOSが短いこと、また集積遅延もありn=392に再計算され、SYNCRONOUS試験とCCRe-IV試験での統合を行うことになった。

結果

2011年~2017年で393例がランダムに割当てられた。PTR群 187例, Non-PTR群 206例。SYNCRONOUS試験より75%, CCRe-IV試験より25%の患者が参加。
年齢中央値69歳, 男性66%, 左側結腸54%, 転移臓器は肝95%, 肺30%, 所属外LN 18%, 腹膜6%など。転移臓器個数は1臓器が60%, 2臓器が40%。
CCRe-IV試験においてNon-PTR群の2.9%はupfront 手術を施行され、PTR群の11.7%は手術を受けなかった。全体では、PTR群で24.1%, Non-PTR群で6.4%の患者は化学療法を受けなかった。化学療法の内容は下記の通り。化学療法のサイクル数は7~8 cycleで両群に差は無かった。PTRで最も多かった術式は半結腸切除/S状結腸切除であった。

各群で行われた化学療法についてのデータ

36.7mの観察期間中央値で、mOSはPTR 16.7m  vs Non-PTR 18.6m (P=0.191)であった。化学療法実施の有無はOSに有意な影響があった。sAEの発生はPTR 10.2% vs Non-PTR 18.0%で、Non-PTR群に多かった。この差は主に消化管の有害事象の差であった。特に消化管閉塞がNon-PTR 18/37例 (41.9%)と多かった。患者背景のsubgroup解析では特に有意な傾向は認めなかった。


本試験のコンセプトはJCOG1007 (iPACS)試験と同様である。iPACSでは本試験よりNが少なく、化学療法が規定(FOLFOX or CapeOx + Bev)されていたが、対象患者は論文を読む限りほぼ同様と考えられる。

iPACSでは手術関連死亡が4%程度あったと報告されているが、本論文でははっきりと記されていない。Non-PTR群で最終的に消化管閉塞に至った患者が一部いるとのことだが、患者背景にT因子の記載がないのでどういう患者がそうなったのかが分かりづらい。iPACS試験と比べてプロトコール治療逸脱も多く、試験の古さも相まって分子標的薬が入っていない患者が両群4割近くいることなど、現在の臨床にそのまま外挿しにくい部分もあるが、生存曲線はiPACSと似通っており、PTR戦略が否定的である点については再現性がありそうと考えるのが妥当であろう。

本試験のOS比較 (左) と iPACS試験のOS (右)

どちらの試験も化学療法開始後のOSの傾きは変わらないが、初回の手術で落ちた症例(術後合併症やPS低下など?)の差がそのまま維持されているという印象だった。iPACSでも本試験でもそうだったが、原発巣切除だけすればいい時にLN郭清までする必要があるのだろうか?iPACSでも切除時D1-D3郭清が規定されていた。自分は外科医ではないのでこの辺の常識が分からないが、血流確保の問題などで結局定型手術にするしかないのだろうか。

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