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免疫チェックポイント阻害薬は早朝に投与した方が効果が高い?

Eur J Cancer. 2024:199:113571.

抗がん剤の投与タイミングによってその効果が変わるかもしれない、といういわゆるクロノセラピー研究は昔からなされており、大学院生時代に5-FUの投与を深夜に行うのが良いという論文を読んだことがある。どの研究もかなり効果に差があることが示唆されているため是非臨床でやってみたいのだが、いかんせん病院の営業時間外に抗がん剤投与をやることが現実的に困難であり悩ましい。本研究でも他の結果同様、早朝投与で良い結果が出ている。投与時間だけで効果に差が出るのなら、無駄な薬剤を投与するよりよっぽど良いと個人的には思うのだが……。どっかで実践している病院ないですか。


本研究は免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けた固形がん患者を対象とし、投与のタイミング(時間)とOSについて後ろ向きに調査した。対象者は2015年11月~2021年3月までにフランスの病院でICIを1回でも投与された転移性固形がん患者。Ipilimumab単剤, Nivo+Ipi, Durva+Tremeの併用は除外された。投与タイミングは薬局から病院に薬が届く時間がコンピューターに自動的に記録されており、それを利用した。概ね到着から平均20分以内(最大1時間以内)に投与されていた。評価項目はICI初回投与日からのOS、CR割合、AE。

結果

385人の対象者の内、ICI投与タイミングデータが20%以上欠落していた24人を除いた361人を解析対象とした。患者背景は80%がNSCLC患者で続いてmelanoma, 頭頚部, 泌尿器の順。年齢中央値62.5歳, 男性61.5%, PS 0-1が82.8%, 65%に前治療歴あり。81.6%が併用化学療法なし。ICI内訳はPembro 51.5%, Nivo 36.6%, Durva 6.1%, Atezo 5.5%であった。 

predictiveness curve methodを用いてOSの差が最大となる11:37を午前・午後のcut-offとし各々136例 vs 225例となった。(ちなみに患者数のmedianで分けると12:18) 午後群ではPS 2-3が有意に多く、免疫アレルギー歴のある患者、抗炎症薬併用, NSCLC以外の組織型が多い傾向にあった。次治療を受けた患者の割合には差はなかった。

median OSは30.3m vs 15.9m (p=0.0024)で午前治療群が良好であった。(追跡期間中央値32.2ヵ月) 単変量解析では治療ライン, 投与タイミング, PSが有意な予後因子であった。PSは強力な予後因子であったため、PSで層別化した多変量解析を行ったところ投与タイミングは独立した予後因子であった。交互作用検定ではPSと治療タイミングについて有意な交互作用を認めた。PS 0-1では午前中投与で、PS 2-3では午後で予後良好であった。

A. 午前 vs 午後の生存曲線比較,
B. 背景因子によるOSの単変量解析
B. 午前・午後で比較した各サブグループ別の解析

PS 0-1の群において投与タイミング別に、早朝(8:38-9:53), 午前/正午 (9:53-12:4-), 午後早期 (12:40-14:52), 午後後期 (14:52-16:58)の4群に分けたところ、早朝群で最も予後が良く、午後早期の群で最も予後が悪かった。(OS 47.5m vs 15.9m) これから予後の周期モデルを作成した。この周期モデルから予想される生存曲線を描いたところ、実際のデータとよく一致した。特に女性では投与タイミングの影響が大きかった。

A. 予後予測周期モデル,  B. PS 0-1における4群の予後比較(実際のデータ),
C. モデルから予測された予後を用いて、PS 0-1の患者の投与時間別に描いた生存曲線

着眼点は面白く興味深い内容であるが、後ろ向き研究の限界もあり、本論文だけでは内容の確からしさの評価が難しい。筆者らは一応多変量解析を行い、投与タイミングが有意な予後因子として残ったことを示しているが、ここに出ていない他の予後因子が大きく交絡している可能性が否めない。海外の臨床事情は分からないが、例えば治療ラインが一緒でも、臓器機能が良く併用療法が可能な患者は点滴時間が長いので午前に、反対に単剤が選択された患者は午後に回されるなどの背景の違いはあるはずだ。
またPS 0-1とPS 2-3で交互作用が出ていることについては、PS 2-3において体調不良のためサーカディアン機構が減衰・喪失しているためとdiscussionしているが、これも本当なのだろうか??chemoが出来る患者はある程度臓器機能とADLが保たれているのが前提であり、サーカディアン機構が破綻しているほどの患者がいるとは考えにくいが……。
それと作成したモデルを同じ患者セットを用いて確認するのは、なんか今一つ解せない感じがするのは私だけ?近似曲線からモデルを作っているのなら似た結果が出るのは当たり前のような気がする。よくわからんけど。

個人的には早朝・深夜のchemoはすごく興味があるので、筆者らが検討している前向き試験に期待したいと思う。discussionでは時間外投与可能な技術開発が望まれるとあるが、点滴中は見守りが必要であり、ただ時間外に投与出来るシステムを作ればよいわけではないのが難しいところ。この研究で得られたモデルでのbest タイミングは深夜1:36。病棟で夜勤者が対応するのは困難だろうから、外来化学療法室を夜間開けてchemo出来るようにするとか。そういうの楽しそうだけど、やっぱり難しいかなあ。


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