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進行卵巣癌に対するddTC療法の有効サブグループ探索解析

Int J Cancer. 2024 May 7. doi: 10.1002/ijc.34996. Online ahead of print.

たまに胃がんの診断で卵巣がんの患者が送られてくることがある。多くは大量腹水がきっかけで見つかることが多い。問題はオキサリプラチンが効くので、胃がんとして治療され下手にCR・PRになってしまうとHRD, BRCAの検索やDebulking surgeryなどが行われず適切な治療介入が出来なくなってしまうことだ。そして再増悪後も胃がんとして治療されてしまったりする。こういう症例を見ると、やはりがんを横断的に見る医師の存在価値はあるのかなと感じる。

さて、日本では2009年にJGOG3016試験の結果が論文化され進行卵巣がんに対するdose-dense TC (ddTC)療法の有用性が示された。しかしICON8, MITO-7などの追試ではいずれもddTCの優越性は示せなかった。GOG-262試験ではBev併用無しの群でddTCのPFSにおける有効性が示唆されたが、主解析である全体のPFSでは有意差を認めない結果となっている。subgroup解析からアジア人に良好かもという意見もあったようだ。

私も何例かddTCを行った経験があるが臨床試験の通り貧血が結構強く、輸血なしでは6cycle完遂も難しいケースもあった。今回はどうして今頃この試験の事後解析が出たのか気になって読んでみた。


本研究はJGOG3016試験のデータを用いて機械学習アプローチを行い、ddTCの有効性があるグループを抽出しようとしたもの。広く言えばサブグループ解析の一種なのだが、introductionを読んでも正直あまり理解できない。Statistical analysisの項を参照すると、JCOG3016のデータを用いて、コンピュータで様々な共変数(患者背景など)を組み合わせてサブグループ解析を行う。その中からOS, PFSに影響を与えている主要な共変数を統計処理でピックアップし多重比較の影響を除いた上で、最適な治療効果予測モデルを構築する……とこんな感じの理解。図を見るとクラスター解析的なものを行って、heteroな実集団から効果の高いsubgroupが共通して持つ変数(患者背景)をピックアップするみたいな手法だろうか。

筆者らはJCOG3016のデータより、3年OSのデータがあり、欠損値がない567人のデータを使用し、3年OSと共変数の因果木モデルを作った。

因果木解析で特定されたサブグループ。%が3年OSの差。(+だとdose-dense優位)
nは各サブグループの患者数。

上記からddTCが良好なサブグループ(M, O, R, I)とconventional TCが良好なサブグループ (L)のKaplan-Meierを描くと下図のようになった。この内グループIだけが統計学的に有意差のある結果であった。グループIは50歳以上、病期IIまたはIII、BMI 23 kg/m2未満、非明細胞癌/粘液癌、残存腫瘍1cm以上の集団であった。またグループIではStageIIICでCA125高値の患者が多くを占めていた。一方ddTCの効果が乏しかったサブグループLではPS不良の患者の割合が多く、1/4以上がPS≧2であった。

各サブグループのOS

今回のコホートにおいてddTC vs. conventional TCで最も治療効果が高かったのは、50歳以上でII期またはIII期、BMIが23kg/m2未満、非明細胞癌/粘液癌、残存腫瘍1cm以上の患者であった。


サブグループ解析だけでなく幾つかの背景因子を組み合わせることで、より効果の高そうなグループを選別できるのであれば臨床医としては有難い。治療選択肢が複数あるがんの場合、臨床試験の背景等で差別化出来ればよいが、そうでない場合の使い分けに困る。統計学的妥当性の評価は自分には出来ないが、このような解析方法が差別化のヒントになったりするのであれば有意義だと感じた。

個人的に気になったのは、残存腫瘍径が治療開始前の因子ではないにも関わらず患者背景として扱われている点である。治療開始前に行われたものであれば良いだろうが、interval debulkingやsecondary debulkingであれば治療開始後の因子である。JCOG3016の元論文にも患者背景に残存腫瘍径が記載されており背景別のサブグループ解析で利用されている。これは効果のheterogeneityが無い事を探索的に確認する目的もあると考えるので許容できるが、本論文の解析はddTCに適した患者を治療前に選別するのが主旨であり、このように残存腫瘍径を背景因子として共変数に入れてしまうことは不適切な気がした。PSなどはICON-8やMITO-7でも同じような点推定値の傾向を示しており、この辺りは再現性のある結果に見える。

Discussionにも記載があるがvaridation setが無い点と、Bevを併用する現在の実臨床に外挿できるかどうかは分からない点などが弱いものの、過去の臨床試験の結果からこのような解析を行い、臨床的疑問や次の臨床試験のヒントにするのは大切なことだと考える。今頃15年前の論文の後解析が掲載された理由については分からなかったが、新しい統計学的手法を使ったという点が評価されたのかも知れない。

本文献に関連して日経メディカルにJGOG3016試験の1st authorである勝俣先生の会談の記録を見つけたので興味のある方はどうぞ。一流紙のreviewerとのやり取りが載せてあったりして面白いです。


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