線引き ③

今から3年程前、一本の電話がくる。弘前ギャラリーcasaicoの葛西さんからだった。葛西さんのことは以前にボタン研究所の企画「ブロウチな冬」で参加いただき、お名前と作品は知っていた。

電話の内容は翌年(2018年)6月に夏次郎商店というこぎん刺しの鼻緒をつくる作家さんの展示を予定しているが、その展示の中の鼻緒すげの部分をお手伝い出来ないかと。

夏次郎さんのことも知っていた。葛西さんからのお声掛けは心から嬉しかった。この仕事をしていて、なかなかご一緒に何かという機会もなかったし、そして自分自身で線引きしていた"はきもの"のほうだったこともあったから。

もちろん引き受けて、それから打ち合わせを重ねていった。

鼻緒のすげ、以前から好条件で都内百貨店の催事場での実演の話しはあった。けっこういい報酬だったことを覚えている。でも目立つような高台みたいなものに上げられて、サムイなんか着せられてやるのは、どうしてもいやだった。何度かお声掛けくださったが、いつからか来なくなった。

ギャラリーさんで、しかもお隣りの青森県だし、やりやすいだろうし、どんな風になるのかも、とても興味深かった。

2008年6月、久しぶりに弘前を訪れる。車で大曲から約3時間と少し。casaicoさんに着くと、なんと鼻緒が壁に、ひとつひとつ並べられていた。しかも片方ずつ。それをお客さんが楽しそうに、あーしようか?こーしようか?笑いながら選んでいる。驚きと共に、すぐに鼻緒すげをお待ちのお客さんを目の前に、打ち合わせもなしに実演に入ることになる。


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