「見えないから見えたもの」(竹内昌彦)

これは全盲の竹内氏が自身の半生を綴った手記である。竹内氏は幼い頃に病で視力を失う。聡明なご両親は彼にさまざまな経験をさせることで、健常者以上にたくましく育てる。明るく前向きで体も大きく育った彼は、大学を出て盲学校の教師となる。後に教頭まで勤めて退職した後、今度はモンゴルに盲人のための学校を設立する。

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「拝啓 竹内昌彦先生」

健常者である私には「目が見えない」という世界の不便さ、葛藤を想像することも難しい。この本で竹内氏の人生に触れ、「目が見えない」ということを少しだけ知ることができた。勉強一つするのにも、普通の本を晴眼者に読んでもらい、それを点字にする作業から始まる。白杖を使えたとしても、不慣れな場所ではやはり誰かに頼らないといけない。漠然としていた「目が見えない不便」が、この本の中で少しだけ具体的に見えた。

彼が生まれたのは第二次世界大戦末期、今よりももっと不便で差別も酷かったことと想像する。竹内氏の記述の中にも、今では考えられないような差別をする人、制度の不備が出てくる。そんな状況を周囲の心ある人達の助けを借りつつ、少しずつ改善していく竹内氏の姿は、障害の有無など関係なく人としての生き方を教えてくれる。

現在は日本のどこにでもあり、道路を歩く視覚障害者を助ける「点字ブロック」。点字や白杖が海外から入ってきたのに対し、点字ブロックは日本、それも私の住む香川のお隣の岡山県が発祥の地ということだ。竹内氏が住んでいるのも岡山県。彼は点字ブロック発祥を現す石碑建立にも尽力している。

手記の最後には、視覚障害者の立場から健常者への苦情とアドバイスが記されている。「点字ブロック上に自転車を置かない」「障害者が助けを必要としているときの声の掛け方」「善意の言葉が場合によっては人を傷つける」「日本の制度上の不備」などなど。自分が何かをできる場面があったら、竹内氏の助言を思い出したい。またそういう場面がなかったとしても、人としての心がけを変えることで、世の中を変える助けとなりたい。


LGBT当事者は「性的マイノリティ」とも言われ、「マジョリティ」だけに向いた制度を変えるべく権利運動が行われている。先人達が長く運動を続けた結果、今年になって同性パートーナーシップ制度を作る自治体が出てきたりと、徐々に世の中が変わってきている。

この「権利を獲得する」「少数者の生活の不便をなくす」という運動においては、視覚障害者を始めとする身体障害の方々の運動から学べることがたくさんあると思う。彼らが今手にしている権利の中には、ほんの数十年前にはなかったものもある。その状況に腐ることなく、少しずつ努力を続けた結果だと思う。

LGBTの権利運動に関わる人の中に「差別されてる私たち可哀想」みたいな空気を感じる人がたまにいる。差別があるのが本当だとしても、自分で自分を可哀想と言っているうちは何も変わらないのではないのか?ただ「差別しないで」と言うのではなく、具体的に「この制度をこう変えて欲しい」と言わないと、相手も何をすればいいのか分からない。

竹内氏は盲学校の教師として、またそれ以外の場所でも既存のルールと戦い、こつこつと権利を勝ち取ってきた。そこには「障害があるから」という甘えも自己憐憫もない。竹内氏の前向きで建設的な姿勢を、私たちLGBT当事者は学ばなければならない。

この作品は竹内氏による自費出版のようだ。地元岡山の印刷会社で印刷され、専用HPから買えるようになっている。また映画化もされており、各地で自主上映されているようだ。

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「竹内昌彦の本」

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